目の前にワイルド系のイケメンが、煙管を吸い込んでいる。
ふぅと吐き出す姿まで、色気がある。
男の俺が見ても、ほぅっとため息をついてしまうほどだ。
だから、ブサイクな俺じゃなくてもいいんじゃないかな?
「わ、私、そういった経験ないんで、初めては夢見たい系な・・・こういうのはちょっと」
と、そのままガバっと食べられそうになったので、言ってみた。
そうか?それは悪かったと、言って、目の前の人は、
きちんとした整理されている彼の寝所まで連れてきた。
俺としては、ブサイクな癖に文句言うなと殴られたところを、
満身の力を込めて蹴り、縄を切って逃げるつもりだった。
とんだ誤算だ。
「なんだ俺に見惚れたか?」
「そうですね」
ニタリと笑う男に、適当に返しながら、心臓がバクバクしている。
いい方ではない。ここで、きゅんときていたら、俺は男好きになる。
確かに、始めて付き合ったのは男で綺麗な立花だが、
俺は特に男が好きというわけではない。
どちらかというと、どうにかして処女を守りたい。
夢見たい系と言ったが、それはある意味本当で、童貞ゴメンな俺は、
綺麗と言わず、可愛いと言わず、ただ好きな人を愛す行為でしたいと思っている。
女が抱きたいのであれば、遊女を買えばいいだけの話だ。
ここだけの話だが、顔を偽りたいという人は多く、
また綺麗な死に顔を拝みたいと人も多く、
俺の持っている顔を創り上げる技術のおかげで、ちょっとした小金持ちだ。
だけど、立花の時に知った。
愛がなければ、それは意味が無いことだと。
立花は潮江を愛し、潮江は立花を愛している。
友情が長かった二人は、まだそっちの移行がうまくいっていないようだけれど、
彼等の姿に憧れを抱いた。
まぁ、長い能書きを垂れたが、
根本の問題は、俺が男だと知ったときこの人が、
どういった行動をするのかが、分からなくて怖い。
一つは、ブサイクだけど男はゴメン。騙された。ムカつく。でバッサリ殺される。
二つは、ブサイクならなんでもござれ。続きをやる。
三つは、どちらかというと男のブサイクのほうがもっと好みだ。続きをやる。
・・・・・・どうしよう。どれも、嫌だ。
なんとか救い想像をしてみたが、ない。全くもってぜろだ。
ダラダラと背中の冷や汗は、止まらないし、
沈黙のままでいれるわけもなく、何かされる前に、気をそらせようしたときだった。
頬にごつい手の感触がした。
「最初は、口吸いからとかどうだ、お姫様?」
「いえ、自分、そういうので喜べないくらい自分の容姿知ってますんで、
そしてお姫様待遇なら、腕と足の縄取ってくれません?」
「そしたら、逃げるだろう?」
「はい」
人は、異常な緊張状態にいると普通ではありえない行動をするらしい。
その一種として、俺は馬鹿正直に答えるという方向にいくらしい。
一個自分を知ったが、まったくもって、嬉しくない。
しまったと顔に出る。相手も、そう言われるとは思っていなかったようで、
一瞬きょとんとしてから、大きく口を開けて笑った。
「あはははは、じゃじゃ馬姫様は、なかなか変わってらっしゃる。
あははははは」
大爆笑だ。
イケメンが爆笑しても、イケメンにすぎないのだなと、知って得するわけもない
情報を手に入れた俺は、あんまり笑われるものだから、頬が赤くなる。
「そんなに笑わなくても」
「あー、すまない。ツボに入ってしまって、あんた面白いな」
「笑い上戸って言葉知ってます?あー、それと、手取って」
「逃げるから駄目だって言っただろう?」
「あんた怪我してるだろう?しかも結構深い。それでやろうなんて、死ぬ気?」
「なんだ、薬屋の娘か?」
「笑ったときに、腹を抑えてるし、顔だって隠してるけど痛そうに引きつってるし、
それにいくら服が黒くても、匂いで分かるよ。
さ、外して、治療くらいさせてくれませんか?山賊さん」
「くくく、逃げると言ったり、嫌がったり、
治療させろと言ったり、本当にあんた面白いよ」
そういって山賊は俺の手の縄を切った。
逃げても良かった。
俺は一応忍びの卵だし、は組であるからこその逃げることは大得意だった。
死線を潜っている。
だから彼の手当をしても、問題ないと思ったのだ。
それと、一つ気になることがある。
伊作はどこに連れていかれたのかということだ。
しゅるしゅると伊作の手伝いをしているうちに上手くなった包帯を
彼の自分とは違う立派な厚い胸板に巻きつけた。
「うまいもんだな」
「要は慣れですよ。そうあんたが私の髪を自然にエロく触っているのと同じ用法です」
「おっと、悪いな、可もなく不可もなく丁度手頃な硬さで俺好みの髪だったもんで」
「・・・・・・どうも」
微妙な賛辞だ。でも、賛辞なので受け取っておく。
全て終わった後に、さて、逃げるかと思ったら、抱きしめられた。
腹に肘鉄を入れようとしたのだが、顔が予想したよりも近く。
唇に温かい感触がした。ちゅっと可愛い音がし終わる。
「治療なんて口実で、逃げると思ったがな。
治療もできるし、話も気が合うし、一緒にいて居心地もいい。
お人好しでお転婆で、じゃじゃ馬だけど。
本当にいい拾いものをした。あんたいい女だよ」
男の笑顔が色気ムンムンから屈託ない少年のような顔になったこと、
いい女なんて言われ慣れていない言葉だったこと、
口吸い初めてだったこと、
それら全て集結して、顔が真っ赤になるのが分かる。
そして、その瞬間、もの凄い殺気が部屋中を覆った。
赤から青へ俺の顔色は、とても器用に変化した。
2010・11・5