「好きだ」

と、言われた言葉に目を丸くし、言った本人をまじまじと見る。
今日も彼はとても整った顔をしている。
目は切れ長なのに大きく、縁取られた睫毛は長い。
黒い長い髪はサラスト一位をとっただけあって艶やかで、
鼻は存在を主張しすぎず、唇は、赤く色づき、熟れた果実のようで、
男であるにもかかわらず女に負けない、いいや女以上の色気をかもし出している。
彼は立っているだけで華やかな人物であった。
そして、そのなりで、6年の中で一番の実力を持ち、
特に兵法については負けを知らず、作法委員長も勤め上げ、
その細い体で、ごつい潮江を殴り飛ばしている姿を見かけたことがある。
成績優秀・実技優秀。
もてる男ランク上位をしめる6年い組の立花 仙蔵。
さて、目の前の人物についての考察は大体終わった。
ここからが、問題である。
なぜ、俺はこの人物と顔を合わせているか。
暗に呼び出されただけなのだが、
名前を知られていたことに驚くほどに俺と立花の接点はない。
いや、あるとしたら、間逆の人間だということだろう。
俺は、ブサイクだ。形容したくない容姿をしている。
成績は中の下で、組だっては組。
・・・・・・うん。
さっき聞こえた言葉は、全て勘違いで、
目の前にいる人物も妄想だろうと、俺の脳みそは決定した。


「聞いているか。 


しかし、妄想はお怒りのようだ。
黒い渦が見える。へらりと、可愛くもない笑顔で誤魔化してみた。

「いいか、よく聞け!私は、お前を好きだといったんだ」

胸ぐら掴まれて言われた二回目の言葉は
さすがに、脳みそは否定、妄想、勘違いを却下した。
どうやら、真実のようだ。

「返事は後でもかまわない」

と髪をなびかせながら格好よく去ってくれてよかった。
俺は、脳みそがキャパを超えてそのまま、その場で倒れたのだから。

ブサイクな俺を好きとか、そんなのありえない。





「だ、大丈夫?

目を覚ませば医務室で、横で伊作が眉毛を八の字にして
俺の顔を覗きこんでいた。どうやら、その後誰かが運んでくれたらしい。
心配している伊作をよそに起き上がった俺は、横に置いてあった水を
一気飲みして。

「伊作、鏡あるか?」

そういわれて、一瞬止まった伊作が慌てて俺に鏡をよこした。
鏡の中に映る顔は、醤油顔。
凹凸が少なく、睫毛の存在が薄く、一重な目も普通より小さい。
前、授業でナンパしたら、ブサイクはお断りと言われた。
色の授業で成功したためしがない。
うん。ちゃんと見たけど、ブサイクだ。
横で俺の奇行を、恐る恐るみていた伊作に、鏡を返す。
そうして、また布団の中に戻り。

「伊作、俺はブサイクだろう?」

「え、ええ、何言ってんの?そ、そんなことは」

目が泳いでいるぞ、伊作。

「いいんだ。伊作がイケメンであることに嫉妬できないほど、
俺はブサイクだから、人種が違うって思っている」

「だ、は、ブサイクじゃないよ。ブサ可愛いって奴だよ」

「うん、ブサが付いてるぞ。このイケメン」

あははははと、から笑いしている俺に伊作が引いてる。

「ど、どうしたの。。頭打って変になったの?」

「これ以上、変になるか」

「顔じゃないよ。中身だよ」

だよ。と伊作が言葉を言いかけた瞬間、襖が開いた。思いっきり。
てか伊作よ。これ以上変になるで、顔っていいやがったな。
こんやろー、嫉妬はしないけど、怒るぜ。てめー。とか思っていた、俺よ。
現実をみろ。

息をきらしてどうかしましたか?立花 仙蔵。
クールキャラじゃなかったっけ?立花 仙蔵。
なんで俺を抱きしめますか?立花 仙蔵。
そこで、突き飛ばされて吐血している男、伊作よ。
助けてくれ。俺はどうしてこうなってる?

「なんで?仙蔵が?」

俺の気持ちを代弁し、復活した伊作は、
俺を抱きしめている仙蔵と俺を交互に指差してる。
そうだな。俺も知りたい。本当に今の今までなんの接点もなかったんだ。
それが、なんとあの立花が俺を抱きしめてる。
あは、伊作聞いてくれよ。なんか立花いい匂いすんだぜ。
同じ男と思えねぇよ。鼻にかかる髪とか、さらさらでくすぐったいぜ。あははははは。

「いいか、伊作。は私の恋人だ!!」

あれ、立花さんよ。俺、答えましたっけ?後でいいっていいませんでしたっけ?

「そうだよな。

しっかりと掴まれた肩が痛い。目は血走ってる。後ろの瘴気が半端ない。
俺は、涙目で答えた。

「・・・・・・はい」

そんなこんなで俺達は、恋人になりました。
なんで?知りません。分かりません。
ただ、今は、彼が変装名人の鉢屋 三郎で、嘘でーす★
っと言ってくれるのを、信じてる。


友達に、なんでだと指差された。なんで?はっ、そんなの俺が知りたい。





【ブサメン】




ふ、としたときに見える。
同い年の誰か。いつから見ていたのかは知らない。
ただ、最初はブサイクだなと見ていた。
私とあまりにも顔の造りが違うので、興味があったのだろう。
ある日。彼は顔をもっと酷いことさせて、帰ってきたことがある。
実習かなにか失敗でもしたのだろうと思っていたが、
後日、女が来て、あの時はありがとうございました。と何度も何度も
お辞儀していた。なんだ、好きな女でも庇ったのかとでも思ったけれど、
あの人とお幸せにな。と女の後ろにいた男に、お前が今度は守ってやれよと
笑っていた。実習を蹴って、襲われていた二人を助けたらしい。
忍者らしからぬと、先生に怒られていたけれど、彼は前を見据え苦笑していった。

「先生、俺は、それでも不思議と後悔してないんっす」

へらりと笑われた顔は、目も腫れていてとても痛々しいものだったけれど、
なんの利益もないことをこんな怪我して馬鹿だと思ったのに、
不思議と惹かれた。
それから、 に対しての評価は、
顔があまりよくないだけで中身は男前だ。だ。
女に振られるたびに、なんで彼女らは彼のよさが分からないのだろうと憤慨しながらも、
どこか安堵している自分がいることに気づいた。
これは、もしかしてと思うものの、感情を否定する。
なぜならば、私は綺麗なものが好きだ。
作法委員室をくるりと、見渡し、傍にいる喜八郎の髪をくるくるといじくる。
彼は愛くるしい顔をして、されるがままだ。
頭に猫耳つけて、尻尾をつけて、愛らしい。
そうだ。私は、可愛くて綺麗なものが好きだ。
好きだと、思うのに、頭の中で、喜八郎の姿が、に変化した。

ゴン。と机に頭を打ち付けてみた。
血が出て、「何してるんですか。立花先輩」と藤内に心配されたが、
妄想が消えない。

「私は変になったのだろうか?」

「大丈夫です。最初から仙蔵先輩は変ですよ」

と、猫耳をつけた喜八郎が、自身の頭についている猫耳を私につけてきた。
ああ、私は本当にどうしたというのだろうか。猫耳も良いけどウサ耳もいいなんて、
それをで想像するなんて。しかも、『ブサ可愛い』ってなんだ!!!
それから、前よりも自分の目がを追いかけていることに気づいた。

だから、二人の女の、を見る目に気づいたのだ。
一人の女は、そこそこ綺麗な女で、を見ていった。

「ああいう、慣れていない男っていいよね。私の為だけに尽くしてくれそう」

私は、その女を誘惑し、のことを忘れさせてやった。
もちろん、酷い振りかたでだ。
そして、次の女は、素朴な女だった。
何かあるごとにと組んでいる女で、周りからからかわれると。

「べ、別にそんなんじゃないんだから。ただ、一人は寂しいって言うか。
あんたには私しかいないでしょう!!」

・・・・・・ツンデレが、みな萌えると思うなよ。
けど、このツンデレはなかなか骨がある奴で、私の誘惑は、通じない。
一直線に、を見ていた。熱視線にイライラして、沸騰しそうだ。
しかも、もうそろそろ、バレンタインで、
このツンデレが、とうとうに告白をしようとしていることをリークした私は慌てた。
彼女はヤバイ。普通に私よりも仲がいいし、性格も悪くなく
はっきり言ってお似合いの二人だ。
このままでは恋人になる!!と、悩んでいるうちに。
なんで自分が悩まなければいけないのか、怒りがこみ上げてきた。
なんで他の女のものになるのが嫌なのか。
他の奴へ笑いかけただけで、そいつを攻撃するのか。
夜になれば、なぜ夢の中でが、服を脱ぐのか。
分からないまま、奴を呼び出した。
お前が悪い。と一方的に怒ろうとするために。
それなのに、ブサイクなの面を見ていれば、代わりに出てきた三文字の言葉。
一瞬何を言ったのか分からなくて、繰り返してみた。
繰り返せば、頭がすっきり澄み渡り、ようやく、心のピースがはまった。
そうか。私はが好きなのか。

ふむ。と理解すれば、理解していないにイラっとする気持ちと、
愛しさが沸いてくる。二度目の告白のあと、早く決めろの言葉は、
の顔が近くて、後でになった。
だけど、が倒れたと聞いて、伊作とイチャイチャしている姿に、切れた。


「いいか、伊作。は私の恋人だ!!」


そう啖呵を切り、半場脅して私とは晴れて恋人になった。
はまだ理解していないが、いや、私が好きだということ事態嘘だと思っている。
今はそれでいいもいい。お邪魔虫を追い払うぐらいで。
だが、ゆっくりじっくり私なしじゃいられなくしてやる。
こんな可愛くてブサイクで特別な存在、誰が、逃がしてやるものか。
は私のものだ。












2010・2.7