「結婚しようと思うの」

目の前に、僕の好きな兵助くんと同じ黒髪で、
大きな黒目がちの瞳をした美少女のちゃんが真剣な顔で言った。
色々なことを考えて、頭が痛くなったが、髪の毛のことを考えて持ち直した。

「君の世界って小さいのか大きいのか分からないね」
「小さいのよ。たかだが200度しか見渡せないのよ?
残りの160度なんて気づかないの。だから、その小さな世界で、
小さき愛しき者への告白をしたのじゃない」

ばっと、縁側から地面に降りて、手を広げて大げさな身振りをする。

「それって、本人は承諾しているの?」
「だから、あなたに聞いてもらってるんじゃないの」

それは、良い判断だ。このという少女。
いかせん、モテ期に入っている。
前の年がら年中発情期なのをやめた途端、男の食付きが半端ない。
彼女が好きな男の耳に入ったものなら、きり丸くんは無事ではないだろう。
特に、彼女の幼なじみで、僕が好きな彼。
この間丁度、恋に気づいたばかりだ。
いや、今も、まだ完全には気づいていないけれど、これがきっかけで、
気づかれたら、嫌だし、面倒だ。
面倒と言うのは、粉々に壊そうと思っても、もともと粉砕しているし、
それに気づいたとき、天然と名高い彼がどこにいくのかまったく分からないからだ。
そして、人が手に入らないものはもっと欲しくなる。
結果、彼女がきり丸くんを好きなことは隠して置いたほうが良さそうだ。
僕は、目の前の少女ににっこり笑みを浮かべる。

「うん。それは良い判断だったと思うけどさ。まず、付き合ってもないでしょう?
両思いかもしれないけど、そこから始めるといいと思うよ」

そういうと、さっきまで大げさに広げていた手を下ろして、
ちゃんは小さな声で呟く。

「それじゃぁ、遅いじゃない。そ、それに」
「それに?」
「きり丸って凄くいい男なのよ?」

彼女は至極真面目な顔だ。
僕はこけかけた体を戻した。
本当に、男なら誰でもござれで入食いをしていた人だろうか。
乙女モード爆発な視野に、額を抑えた。

「・・・まだ10歳で1年生でしょう?そういった視点で見てるのは君だけだよ」
「いいえ、分かるの。女の勘だけど、あんな男だらけの巣窟の中で、
あんな綺麗な女装姿を見れば、男だって狼になるわ」
「君が恐れているのは、男?」
「女なら威嚇すればいいけど、男となるとあなたみたいなのごっそりじゃない?
それに、ほら、見てこの本」
「『真実の愛〜恋に性別なんて!!っていうか男のほうがいい〜』・・・なにこれ?」

渡された本の題名を読めば、中身が大体理解できる題名だった。
その前に、僕みたいのって、かなり侮辱ではなかろうか。
僕だって、君に関わったのは間違えだったって、
昔も今も、現在進行で後悔しているのに。

「このところ、くのたまで流行っている本よ。ほら、あなたの大好物」
「いや、僕は、男が好きなんじゃないから」

そこは否定しとく。
でも、彼女は聞いていないで、自分勝手に話を進めた。

「それで聞いてしまったのよ。きり丸×乱太郎とか、中在家×きり丸とか
一瞬、それを考えついた女を血祭りにあげようと思ったわ。
妄想でも、触れられたくないほど愛しい人っているのね」
「それって、僕のもある?」
「ええ、兵タカが人気よ」
「えー、僕、下より上じゃない?」
「女の子はみんなあなたのネコ顔に勘違いしてるから」

そこから、色々とくのたまの腐った妄想を聞いて、
タカ兵の本を貰えることになったところまで、話は進み、
彼女の話は元に戻った。

「まぁ、ともかく、結婚しようと思うの」

「駄目だ」

僕じゃない声を見れば、兵助くんと5年グループ。
どうやら、長いこと話し込んでいたようだ。
兵助くんが仁王立ちで怒っている。
は兵助くんの言葉に、目を吊り上げて、兵助くんへと近づいた。

「あらなんで駄目なの?兵助」
「え、というか二人ってそういう関係なの?」

不破くんの言葉で、あ、もしかして勘違いをしていないだろうかと、
嫌な予感がする。だって、殺意がばしばしと僕に当たっている。
どうやら、5年生だけじゃなかったようで、
隠れている皆様からの殺気をあっちこっち身体中に感じる。

「そういう関係になるのよ。今すぐ」
「駄目ったら、駄目!!」
「何、年齢のこと?多分大丈夫よ。ねぇ?」

僕にふらないで。僕への殺気が二割増になった。

「年齢?2歳差くらいだろう?そんなんじゃない。
なんで急にそんなことになったんだ」

2歳差で、僕の勘違いは確定した。
きり丸くんと彼女の差は、3歳だ。
ちゃんは、その数字に気づかず激情している。

「急じゃないわよ。どっちかっていうとゆっくりね。
私が変わっても、同じでいつづけてくれたのよ?それって凄いことじゃない?」
「俺だって、一緒だろうが!!」
「兵助は、同じよりも、変わったほうがいいわよ。
本当に、あなたの視野ほど、狭いものはないわ。
160度見ないっていうのもいいけどね、ちょっとは、後ろみないと
いつか絶対足を掬われるんだから」

うん。今現在進行中でね。
今軽やかに、兵助くん告白したのに、ちゃんは、聞こえていない。
前の彼女だったらすぐ掬い上げた言葉だったろうに。
ちゃんは、かなり一途だから、好きな人は一人しかいない。
席は、きり丸くんで埋まっている。
だから、兵助くんは、幼なじみでしかない。
兵助くんは、ぎりっと奥歯を噛みしめて、子供のように駄々をこねた。

「駄目なもんは、駄目だ!!」
「なんで駄目なのよ」
「だって俺は、おまえが「あれ、先輩なにしてんっすか?」・・・きり丸」

丁度良すぎるタイミングできり丸くんが来た。
本当に、見計らっていたんじゃないかと思うほどの完璧なタイミングだ。
兵助くんは、自分の言いそうだった言葉に、混乱している間に、
ちゃんは、きり丸くんの元へ走り。

「きり丸、私と、結婚して!!」
「いいっすよ」

と、目の前の告白は、色気のいの字もなく数秒で、商談成立並に終わった。

「ほら、見なさい。タカ丸さん。すんなり上手くいったわ」

どうよと胸を張る彼女に、現状を伝えたい。最悪ですと。

「え、き、きり丸?」
「?はい、俺はきり丸っすけど?」

兵助くんの混乱がMAXだ。
きり丸くんと兵助くんがじぃっと見つめ合っていれば、
ちゃんが引き離し、きり丸くんを抱きしめた。

「ちょ、ちょっと、見つめ合わないでよ!!きり丸は私のよ」

そういったちゃんをきり丸くんから離し兵助くんは、すぐさま説得にはいった。

「きり丸って、お前、本気か?相手は1年だぞ?」
「なによ、いけない?きり丸は、そこらの男のうん十倍は格好良いわ」
。冷静になれ、お前、それは弟への感情と同じなんじゃないか?」
「はぁ?なんできり丸だと、諭そうとするのよ」

ぎゃぁぎゃぁとちゃんと兵助くんが喧嘩していれば、
5年生以外の外野もあーなんだと安心して、帰っていった。
馬鹿な奴らだ。恋に年下も年上も関係ない。
そもそも3歳差ぐらいで、弟にはならないだろうに。
ちゃんは、まじと書いて本気で、きり丸くんが好きなのに。
不破くんは、横で、きり丸くんに諭していた。

「きり丸。は誰にでも手を出しちゃう病が戻ってきちゃっただけで、
いつもの虚言だよ。あまり近づかないほうがいいよ」
「ふーん」

きり丸くんは、子供らしからぬ返事をして、兵助くんとちゃんの所へ来た。

「ねぇ、先輩」
「な・・に」

怒りに身を任せて、そのまま振り返ったちゃんは、その行動に身を止まらせた。
唇に、触れるか触れないか分からないほどで、足を伸ばしてようやく届く距離。
でも、彼は笑った。時々、大人びているとは思っていたけれど、
男の顔で、周りの批難なんてどうでもいいと言わんばかりの強さで。

「俺の初めてっす。だから、責任とって、俺だけ好きでいてください」

ちゃんも周りも何があったのか分からないようでぽかんとしている。

「返事は?」
「は、はい」

ちゃんは、分かりやすいぐらい顔を真赤に染めた。
その姿に、弟姉の姿はない。
むしろ、理想な恋人像だろう。
頬を染めて、目にハートを浮かべながら、
きり丸くんしか見ていないちゃんは、後ろを見ない。

でも、きり丸くんは後ろを振り返った。

「今ので分かったでしょうが、先輩、
俺のなんで、ちょっかいだすのやめてくださいね。
あ、特に兵助先輩。幼なじみを利用しようなんて、甘いですから」

じゃぁ、俺忙しいんで。と言うと、
きり丸。好きだよ!!だから今のもう一回とか、どうかな?
と声が聞こえた。

「わーきり丸くん男前だね。ちゃんが、惚れるのは分かるよ」

ねぇ?と話しかけたけれど、みんなふらふらとどっか行ってしまった。
僕は、彼等を見ながら、祈る。

完全敗北の文字しかないこの恋愛に、
邪魔をする奴らは馬に蹴られて死んでしまえ。と。












2010・11・15