から、から、から、から、から、から、から、から、から、から。
古びた風車が回る。
昔からの一つの拠り所。
14
「それだけっすか?」
私の聞き手の少年は呆れた顔をしてる。
それだけって、そうね、それだけで、
忍術学園までついてきてしまった。
そのままでいれば、良縁をあてがわれ、私は、手入れしているけど、
怪我ばっかりしてる手じゃなくて、綺麗な手でいれた。
「バカっすね」
心の穴を埋める必要ながなくなった私は、その罵倒を素直に受け入れる。
どの道、私は最悪な女であることは変わらない。
好きな人に振り向かれない気持ちを知っているのに、
それをし続けてきた私。
ただ、楽になりたい忘れたいという気持ちだけで。
「本当に馬鹿ね」
今の私なら分かる。
それは、とても無意味で、とても空虚なこと。
風車を仕舞おうとする前に、ぱっときり丸が取っていた。
「二束三文にもなりませんが、貰っておきましょうか?
タダなら、大歓迎っすから」
彼は、優しい。そして、数年経てば、女の子が放っておかないだろう。
今ですら、格好よくて、涙が出そうだ。
年上ってことだけで、涙を我慢する意味すら考えてしまうほど。
15
夏祭りは、今回は委員会別になった。
誰が提案したのか、分からない。だけど、いい案だ。
僕は、お目当ての人を見つけて、名前を呼んだ。
彼の私服は、落ち着いた藍色で、似合っているよ。
と言ったけれど、彼は、何か考えこんでいるようで、無視された。
隣にいれれば良かったから、そのまま歩みを共にしていれば、
に出会った。
夏祭りに参加するらしく、彼女は、赤い服を着て、うちわを一つ持っていた。
彼女は、僕らに気づくと、会釈をする。
「委員会別で良かったわ」
「はは、結構な皮肉を言うね。どんだけ、誘われてたの?」
「どれだけって、数えるのも嫌な感じよ」
げっそりとして、額を押さえている。
嫌味でもなく、正直疲れている顔に、
どんな量で、どんなことされたか、理解したくはない。
嫌いじゃなくて、苦手になったに、兵助くんは、
さっきからまったく反応しない。
なんだか。
なんだか、怒っているようだった。を見る目がつりあがってる。
は、それに気づいているだろう。
僕にしか話しかけていないのだから。
それにしても。
僕は、目の前の少女を見る。
嫌いで、大嫌いで、世界から消えて欲しいと望んだ少女は、
あまりに、美しかった。
外見だけでなく、彼女から色が抜け落ちてるから。
白い存在ほど、自分の色に染め上げたくなる欲望にかられるのは、
男としてしょうがない。
どうして色が抜け落ちたのか、なんとなしに気づいている僕は、呟いた。
「前のほうが良かったのに」
それが引き金だった。
16
夏祭りは、今回は委員会別になった。
誰が提案したのか、分からない。だけど、夏祭りは、沢山あるから、
次は、みんなで行こうと言っていた。
もちろん、雷蔵は、を誘っていた。
同じ図書委員の彼らは、仲が良くて、勘ちゃん派の俺はこそばゆい思いだ。
しかも、俺の質問は完全なる地雷で終わってしまったし、
の好きな奴は、あの後いくら聞いてもはぐらかされてしまった。
ただ、横にいたの友人の弓月はなんとなく分かっていたようだ。
あー、なるほど。と途中で呆れていた。
呆れるような人物とは、一体誰なんだ?
と、ぐるぐる考えていれば、目の前にがいた。
「あら?兵助とタカ丸さん?」
タカ丸さん?と横を見れば、タカ丸さんがいた。
いつ、いたのかまったく分からない。
「委員会別で良かったわ」
ふっと、笑いながら、赤い服を着物を着ているは、
なんだか俺の知っているとは遠くて。
タカ丸さんが、に言った「前のほうが良かったのに」で、カッと頭に血が登った。
「どこが?タカ丸さん。目が腐ってんじゃないですか。
前のは、碌でも無い男好きの、尻軽で、
今は、落ち着いて、マシになったじゃないですか」
「兵助くん!!」
タカ丸さんの大声で、言ってしまった言葉に後悔する。
だけれど、
「あら、そう?」
彼女の一文で、後悔は、一瞬にして、吹き飛んだ。
気にしていないんだから、自分にとっては良かったのに、
俺の言葉が、前よりも軽くなっていることが、苛立ってしょうがない。
「っなんで!!なんで急に、そんなんになったんだよ」
何度も聞いた質問を、俺は彼女に投げかける。
彼女を見れば、彼女の瞳は、深い黒。
石を投げれば、音すら吸い込むほどの、深い黒。
「なんでって、そうねぇ。ねぇ、兵助。運命って信じる?」
小さい頃から、いつも一緒にいた幼馴染が、自分の知らない姿に戸惑いを隠せなくて、
言葉を発することも出来ない。
「運命ってね、あるわけないって思ってたんだけど、あるのよ。
確実に、ここで三人がであったのも、運命、必然ってね。
その裏をかいて、近くにいるのに、運命が混じり合わない人がいるとしたら、
悲しいことね」
何を言っているんだ。顔に出ていたようで、は付け加えた。
「まぁ、簡単に言えば、失恋したの」
「失恋?」
「そう、第一回目にして、どぎつく、
長くしつこくて、忘れられないなんて思っていた奴。
それをね、ようやく忘れられちゃったから、私、今みたくなった。
それだけのお話なのよ。兵助」
ようやく、彼女の深い黒が、光を灯し始め、俺の思考も元に戻っていく。
「話が分からない」
「感受性を磨いた方がいいわ。兵助って、鈍いから。
あ、あと、タカ丸さんは私の好きな人ではないから、よろしくね。」
パァーンパァーンと、鳴った音には空を見上げて、
「じゃぁ、行くわ」
と、俺たちに背を向けた。
「・・・・・・兵助、手を離してくれないかしら?」
何を言ってるんだ。何も俺はしていない。と思ったけれど、
の裾を掴んでいた。これじゃぁ、昔と逆転だ。
そう思うのに、なかなか離せない。
は、俺と目を合わせると、笑った。
「兵助。私は変わったけど、今でも、兵助のことは、好きよ」
彼女の寂しい笑顔は、俺の心臓を動かした。
どくり、どくり、どくり。なんだ、これ?
「幼馴染としてね」
その一言が、どくりと心臓を止まってしまうと思うほどの鼓動を鳴らした。
どこか、すっきりした顔をした、は、もはやここにいない。
傍にいるのは、タカ丸さんで、形容出来ない顔をしていた。
「兵助くん。それは、遅すぎる」
俺の顔が真っ赤なのは、空に花火が、あがっているからではない。
そんなこと、分かってる。
17
パァーンパァーンと、花火があがる。
夏祭りには、乱太郎と、しんべいの二人と行っていたんだけど、
委員会で思い出作りっていうのも、いいんじゃないか?
とか上級生が言い初めて、委員会別だ。
夏祭りには、いくつも種類があるから不満はないんだけど。
ちなみに、言ったのは、中在家先輩である。
ちらりと、図書委員で、集まっている上級生を見る。
どことなく、そわそわしているように見えなくもない。
なんで、どういう風の吹き回しって、
簡単な話。
「スイマセン。ちょっと、帯の色悩んでいたんで」
いつもの、くノ一の服じゃなくて、私服を着た先輩に、
下級生は無邪気に、上級生は、頬を染めながら
あの、中在家先輩の口元を押さえて、
「綺麗だ」って、耳を赤く染めた姿なんてレアでしょう。
先輩は、それにも微笑んでいるだけだった。
なんて皮肉なんでしょうね。
愛されたいと願っていた時は、手に入らなかったのに、
全てを放り投げて興味もなくなったときに、愛されるなんて。
これで、久々知先輩が、気づいたなら、皮肉じゃすまない。
「きり丸?」
「行きましょうか。先輩」
先輩を誰かにとられる前に、手を握る。
まぁ、気づいても、遅すぎるし、何よりも。
「先輩って、俺が好きなんっすか?」
ってカマかける。絶対、そういう意味じゃないことなんて知ってるけど、
次の相手の予約ぐらいはしとかなくちゃね。
案の定、先輩は、にやりと人の悪そうな顔で笑った。
18
パァーンパァーンと、全ての終了を告げる音。
空を見上げれば、満天の星。手は、一人の少年に握り締められている。
「好き」最初に言った真摯な告白をしたら、
私の好きだった人がようやくこちらを向いてくれた。
前とは、意味が変わってしまった言葉。
だけど、最初から、そういう運命が繋がっていない二人だから、
それなのに、近くにいてしまったから。
ようやく、違う線が繋がったんだろう。
私と彼は、幼馴染。
今度、好きになるかもしれない人を、教えてあげようか。
どうやら、秘密事されて、拗ねているようだから。
ねぇ?
クスクスクスクス
神社の祠に、白い少女。私とお揃いの赤い服を着ている。
手には、あの風車。からからからからと音を立てて、
私を見ている。
分かったかしら?
私が、少女に、食べられちゃったもの。
それはね、私の兵助への恋心。
綺麗なんてものじゃなくて、
ぐちゃぐちゃでドロドロで汚くて、邪魔でしょうがなかった。
誰かが、兵助の傍にいる度に、心の穴は、何個もあって、
穴は一個一個深いから、何人も必要だった。
誰かに愛されなくちゃ、自分を保てなかった。
そんなことを繰り返して、悪循環。
食べられて、なくなったから、ようやく忘れられた。
ようやく、諦められた。
少女の顔は、前見れなかったけれど、今なら分かる。
少女はきっと・・・・・・・。
「 」
名前を呼ぼうとしたけれど、声をだすことが出来ない。
だから、私は、手を振った。
「どうかしたんっすか?」
「ううん。別に、どうってことはないわ。ああ、きり丸。あのね。
私、きり丸のこと、好きだよ」
そう言ったら、彼はそっぽを向いて、ぎゅっと手を、強く握りしめて
「知ってますよ」と、耳まで赤くして答えた。
さっきの、冷やかしみたいなのの答えだったんだけど。
どうしてか、私の体温も上昇したみたい。
からからから、ようやく、風車がとまった。
今度は、ちゃんと、言葉が通じるようだわ。
じゃぁ、今度は、忘れなくちゃいけなくならないように。
そう、祈った。
2010・6・4