から、から、から、から、から、から、から、から、から、から。
何かが回る音がした。
それが、何なのか、痛いほど分かる。



12

「なんで、お前、好きな奴つくらないんだよ」

素朴な疑問に、時が止まった。
勘右衛門先輩が、兵助を見て、凄い顔してる。
私は、彼に微笑んで答えた。

「好きな人くらいいるわよ」

「え、誰、誰?」

身を乗り出して、みんなが見ている。

「前の私のほうが、好きだって言ってくれた人」

嘘じゃないわ。だって、今、一番好きだって、思うのは、彼なのだから。
ふっと笑うと、みんなの驚いた顔が見えた。
えーそれって誰なの?って聞いてくるなか、
丸るい目をもっと、丸くして私を見てる。
勘右衛門先輩。駄目だよ。あれは、何をしても、気づかないんだから。





13

昔、昔のお話です。
両親から愛されていた子どもがおりました。
彼女は、とても綺麗で、天使のようだともてはやされました。
彼女は、幸せだったのです。その中にずっといれば、幸せだったのです。
しかし、彼女は、外の世界を望みました。
両親は反対します。彼女を凄く愛していたからです。
彼女を愛するがあまり、人に触れることで、彼女が穢れることを恐れたのです。
なんでも、与えました。なんでも、望むものすべて与えました。
だけど、本当に欲しいものはくれませんでした。
隣にいる男の子だけが、外との繋がりでした。
彼は、外のことをよく教えてくれました。
外への憧れは、日に日に増します。
面白いもの、憧れ色々な妄想が頭の中を駆け巡ります。

さぁ、行こう。

そう言ってくれたのは、隣の男の子です。
彼女は、外に行ってしまえば、両親が悲しむことを知っています。
だけど、だけど。

外に行きたかった。

彼女は、外を知りました。
それまで、守られ続けていた彼女は、とても楽しそうでした。
だから、その姿を見かけた両親は、彼女に外の世界に出ることを許しました。

そこまでは、幸せな話だったのです。
しかし、幸せとは長く続きません。

彼女は、外へ出ることの代わりに、自分を守るものを失いました。

何がいけなかった?
女の子が、世間知らずだから?
女の子が、ふわふわとなんの苦労もなく生きてきたから?
いいえ、ただ
男の子が、とても愛されていただけのこと。

少女は、望みました。
男の子ように愛されたい。愛されたいと。

「愛されたい」

切望した思いは、挫折に挫折を繰り返して、変な方向へ
ひしゃげて、曲がりました。

彼が私を愛せば、私だって、愛してもらえるわ。

少女は、頑張りました。頑張りましたよ?
せっせと、彼に愛されるように、何でもしてきました。
好きだというお菓子を、彼のよこにそっと置いたのも彼女です。
彼女は、大好きだったお菓子を我慢しました。
落ち込んで泣いている彼に、原因だったものを取り除いてあげたのも彼女です。
原因は、彼を、いじめていた子でした。
代わりに彼女をいじめられました。なんで?もちろん、幼稚な愛でした。
彼が山から転んで、落ちたときに助けて、大人を呼んだのも彼女です。
彼女は怪我だらけで、寝込んでしまいました。
だけど、
どれ一つ彼には、届きませんでした。


「どうして、私がしたのに?」

彼女のしたことは、全部違う女の子が自分がしたと言って、
彼の心をゲットしました。
彼女はそのたびに、怒って、泣いて言いました。

「あら?何言っているの?あそこにいたのは私よ」
「勘違いしたのは彼よ。だけど、しょうがないこと」
「あなたは、彼の運命の人じゃないんだから」
「「「そんなに近くにいるのに、可哀想に」」」

クスクスクスと笑い声が聞こえます。
彼女は、それでも諦めませんでした。
なぜ?理由なんて簡単です。
いつしか、歪んだ思いは、真っ直ぐな思いへと変貌してました。

「好き!!」

直球で言った言葉は、真摯な愛の言葉でした。
だけど、男の子には通じませんでした。
ああ、そうか。俺も好きだよ。と友人と変わらない愛を紡がれました。
言葉が足りなかったんだと、色々な言葉をつけました。
行動が足りなかったと、抱きつきました。
しかし、彼にいくら言っても、通じません。

ああ、ああ。

「好き。大好き。愛してる」の墓場がこんなに。
心は、埋めるための穴だらけ。

諦めようと思いました。
彼が学園に帰ってきた日。夏祭り。
一緒に行ってと、駄々をこねて、これを最後にしようとしました。
それなのに、あなたは。

「なに、悲しい顔してるんだ。ほら」

そういって、赤い赤い風車。

から、から、から、から、から、から、から、から、から、から。
なんで、でしょうね。
夜空には、輝く花火。私の手には、回る風車。
とても小さなものでした。
とても、ちっぽけなことでした。
それなのに、こんなもので、全部チャラにしてもいいなんて、安い女です。



少女は笑いました。少女は泣きました。少女は愛を精一杯叫びました。
だけど、少年は花火で夢中で、後ろを見ませんでした。
その姿は、とても滑稽で、
少女は、運命が、最初から交わっていないことに、気づいたのです。


昔、昔のお話です。
昔なので、今ではないのです。








2010・6・2