とても欲しいものといえば、銭だった。
とても欲しいものといえば、家族だった。
欲しいものは?
いつでも手にいれることは難しい。
7
俺の委員会の上級生は、
あまり喋らないし、声小さいし、年齢偽装で、不気味に笑う、怒らせると怖い
委員長で、6年の中在家先輩。
優しい顔で、鉢屋先輩に顔を借りられてるのに、大雑・・・おおらかな性格な
5年の不破先輩。
それと、男が大好きで、いつも隣にいる男が違うくノ一4年の先輩。
いや、今は違うけど。
今回は、そんな先輩のことを、語ろうと思う。
先輩は、見境がない男好きだ。
尻軽と言われても、屁のカッパで、鋼の心。
行く男も男と、言われるが、正直、しょうがないと思う。
先輩の容姿は、どこぞのお姫様を彷彿させ、くノ一一の美少女で、
手入れの行き届いた白い肌、流れるような黒髪、
二重で、大きな黒目がちな瞳、やや高めの鼻、ぷっくら桜桃の唇。
均整のとれた高すぎず、低すぎない丁度いい身長に、出るとこ出ている体。
先輩なら、花魁になれますよ。と皮肉で言ったけど、半分本当。
残念なのは、尻軽という性格だけだった。
俺が、直してみせると意気込んだ馬鹿どもは、
全員、彼女から背中を向けて、どこかへ消えていった。
そんな彼女は、俺の御得意先だった。
先輩の狙った男の情報を、いつも彼女に売った。
だから、俺は少しだけ先輩を知っている。
先輩の秘密も知っている。
尻軽さえなければ、くノ一のなかでも、
比較的、穏やかで、笑顔の優しく、何かあれば、
まっさきに、気づいてくれる先輩で、嫌いじゃなかったけど、
秘密を知ってからは、嫌いになれなくなった。
俺は、先輩に同情した。
可哀想な人だと、同情した。
それから、何日も経っていない日に、先輩は、
今度から、情報はいらないと言った。どこかいい情報屋でも?と、聞けば、
先輩は、首を振って、もういらないの。と答えた。
先輩は、変わった。
いい方に変わった。
尻軽じゃなくなった。
それは、誰からも願われていたことで、
先輩は、こうして何度も告白される。
「ごめんなさい」
先輩の前に、知らない上の先輩。
断られると、ぐっと何かを堪えて、先輩に言う。
「ぼ、僕は、ちゃんとさんを愛せます。
だから、僕を、好きになってくれなくても、傍にいていいですか?」
必死な叫びに、先輩は
「それは、酷だわ」
と言った。
その時の、先輩の瞳は、黒だけど、輝きがなく、泥沼のような目をしていて、
それを見て、知らない先輩は、
「っ、そ、そうですか。はは、そうですよね。スイマセン。
・・・じゃぁ、さようなら」
先輩は、知らない先輩の背中を眺めていた。
知らない先輩が、完全にいなくなった後、まだ突っ立ている先輩に、声をかけた。
「せんぱーい、あれ、勘違いしてますよ。いいんですか?」
思ったよりも、皮肉じみた声に、ちょっと驚く。
先輩は、綾部先輩みたく、表情があまりない顔で俺を見る。
「あら、いたの。きり丸」
「気づいていた癖に何を言うんですか」
先輩は黙って、俺を一切見ずに、知らない先輩が行った先を、眺めていた。
「酷なのは、」
傍にいられて先輩が、ってことじゃなくて、
あの人のことでしょう?
あの人に、投影したかつてのあなたでしょう?
ザァっと、木の葉が揺れた。
俺だけが知っている先輩の秘密。
仕入れるとき、あなたの情報の注文で気づいた。
俺が気づいたことに、あなたは気づいたけど、苦笑するだけで。
『言ってもいいよ。だけど、多分』
あの時の言葉が、時々頭の中で響く。
先輩は、尻軽だけど、尻軽じゃなかった。
『多分、伝わらないわよ?』
ただ、一人を、ずっと、馬鹿みたいに愛してた。
欲しいものは、いつでも手にいれることは難しい。
2010・5.29