なにもかも、上手くいった。それくらい、いいわよね。神様。
だって、私、凄く苦しんできたんだから。







「はい」

「よく頑張ったな」

そう言って教師から渡されたのは、満点に近いの答案。
実習の成績を貼り出されたのは紙の上、上位に自分の名前。

私は、変わった。

屋根の上で一人、紙飛行機を飛ばして、空の横の長さを思案してる。
返ってこない紙を何枚も、何枚も飛ばしていると、
下からくノ一の子が怒鳴り、紙を拾って、私の横にきた。

。なにやってるの!って、この紙」

彼女は、下らない茶番の怒っていた子。
紙を見て顔を歪ませて、私を見た。

「うん。あの馬鹿らからの手紙」

馬鹿らって言うのは、私と付き合って、私を振って、
それなのに、急に復縁を迫ってきた奴らのこと。
私が、まったく興味がなくなった途端、彼らから復縁状が山ほど送られてきた。
中には、脅迫じみたものや、悪口じみたものもあって、なんだかなーという気分。
はぁ、とため息を吐けば、

「・・・・・・貸しなさい。もっと、遠くに飛ばしてやるから」

「あなたって、変わってるって言われない?」

言ってはいけないけど、前の私は、とてもくノ一に嫌われていた。
男なら誰でも良くて、つきあってる、つきあってない、どうでも良かった。
でも、今の私も、似たり寄ったり。
前のふらふらしていた時間を、ちゃんと忍びらしいことをしたら、成績があがった。
変わった私に、神様は変なプレゼント。
前の私なら死ぬほど喜んだけど、今の私にはいい迷惑。
男から声がかけられる回数が、増えた。
前よりも、くノ一に嫌われた。
そんな私に、彼女は、赤い顔をして、吠えた。

「うるさいわね。どっちがどれだけ飛べるか、勝負よ!!」

私は、・・・初めての女友達を手に入れた。
彼女・弓月は、常に、腕を組んで、人を威嚇するような子で、変わり者だ。
助けなくてもいい子を助けて、助けるべき子を、助けない。
ビリビリな私の本に、クスクスと笑っているくノ一の子。
私がその本を取る前に、弓月は、それを思いっきり、笑っている子に投げた。
ボロボロの本が、スパンと音を立てて壁に刺さっている。
弓月の成績は、くノ一で、トップだった。
彼女は、怒った顔で、叫ぶ。もちろん、腕を組んで、偉そうに。

「私、そういう陰険なのは、好きじゃない!!
言いたいことがあるなら、ちゃんと本人の目を見て、言いなさい」

フンと鼻息吐き出して、弓月は、それから私の腕を引っ張って、
グイっと前に押され、その子とキスできるぐらいの近さまで、顔を近づけられた。
すっきりしたーって顔で、言っているけど、
どうかしら。目の前の子は、おどおどした顔。
なにか、おかしい気がするのだけど、彼女を見れば、彼女と目が合った。
それは、

「私なんか助けないで、私に好きな人が、奪われたと言って、
泣いている子の所へ行けばいいのに。
彼女はあなたの救いを求めているわ」

「救いを求めているから、助けるなんて、ヒーローじゃないんだから、そんなことしない。
私は、自分のしたいようにしているのよ」

分かれ。馬鹿。って、言った時と同じ顔。
あなた、女相手にそんな可愛らしい顔をしていいのかしら。







図書委員会の仕事が、全て片し終われば、
各自好きにしていいと、長次先輩が言ったから、
私は、一人、窓際で、本を読む。
丸窓にはめられた、和紙は、手作りらしい。
そこから、太陽の光が入ってきて、柔らかな光が、
私の太ももに落ちた。

温かい。

読んでいる本は、「忍術とは」と、小難しく書かれた本。
難しいことを書けるのが、賢いのかしら。
難しいことを、簡単に書ける方が、賢いんじゃないかしら?
失敗したなと、本を戻そうと起き上がれば、きり丸が私を怪訝に見ている。

「・・・・・・なに、かしら?きり丸」

先輩。何考えてんっすか?」

中途半端な体勢だけど、言われたことが分からなくて、
目をぱちくりすれば、きり丸は、ついっと横を向いて、
頬を少々赤くさせ、不貞腐れた顔で言った。

「俺、前の先輩の方が良かった」

目が飛び出るんじゃないじゃないかってくらい、見開いているだろう。
持っていた本を落とした。

「だって、先輩、前だったら、男の情報買ってくれたお得意さんなんっすもん。
あーあ、臨時収入が」

と、ぶつぶつ言っているきり丸。
なんだ、そんなことかと、本を拾い直して、きり丸を真正面から見る。

「・・・なんっすか」

「何考えてるだったかしら?何も」

「は?」

「前よりも、何も考えてないわ。それに、悲しいわね。きり丸。
あなたと私の関係は、お客様と店員だったかしら?」

と、言えば、わたついた。
ふふ、まだ、子供ね。隠すなら、ちゃんと隠さなくちゃ。
だけど、そんな姿が好ましくて、
前のほうがいいなんて、言ってくれたのは、彼だけだったから、私は自然と微笑んでいた。
その途端、きり丸の顔は、タコよりも真っ赤になる。

「お、俺、バイトだった、じゃ、また」

「待って」

私は、きり丸の腕をがしりと掴んだ。

「バイト手伝うわ。今、めっきり暇なのよ。もちろん、手伝いだから、タダで良いわよ」

「いいんですか!!」

さっきの赤い顔が嘘のように、銭の目をして輝かせてる。

「ええ、私、きり丸を気に入ってるのに、お客様にされるのは、嫌だからね」

と言えば、小さい声で、
お客様なわけないじゃないですかと聞こえた。
だけど、私は、まだ知らんぷり。

あなたのその感情、知ってる。
そうなるかどうかは、分からないけど、小さな蕾。
私の大輪は、いつでも大きすぎて、凄く邪魔だった。




失ったもの、手に入れたもの、プラスがこんなに大きくて、いいのかしら?
神様。
くれたんなら、絶対返さない。返さないから!









2010・5・29