振り返った彼女は、あの冷たく白くなった彼女ではなかった。
動いて生きてそして幼かった。
「どうしたんですか。土井先生。そんな顔して」
目を23回ぱちくりとさせ、驚いているに疑問に答えず
そのまま言葉を続ける。
「君はどこに行くんだ?」
「・・・・・・黒石さんと行くことに」
の言葉に、手を繋いでいることに喜んでいる黒石さんと
それに微笑んでいるの姿を見えて。
「私は・・・大人のようで大人じゃないし、練り物は食べれないし、髪もボサボサだし、
服だってそんなに気にしない。時々、は組しか見えなくなるし、
凄く貧乏だし、利吉くんみたく格好良くもない。
君を振ったのに、違う男のものになることは許せないし、心の容量狭いし、
君に構われたいからって子供みたいなことしてた。
それなのに、重要なことは一つも言えない」
一気にいった言葉には意味が分かっていないようで固まっている
そんな彼女の手を私は握りしめる。
「行かないでくれ。門をくぐって私を好きじゃなくならないで」
数秒で理解ができたようでは眉をひそめる。
「それは・・・ずいぶんわがままですね。私が土井先生を好きなままでも、
土井先生は私じゃない違う人を好きになるんでしょう?」
「君以外私を好きにならないよ」
「あの子がいるでしょう?」
「すぐ振られた。想像してたのと違うって」
「そうですか」
数秒空いて、私を見ずには答える。
「行かないのは聞けませんけど、好きであり続けますよ」
「なんで」
「なんでって、私に無職でいろと?」
「そ、それは」
バササと鳥が数匹逃げた。
誰かの気配を感じたが、こんな素人臭いことをしている人も、
独特の足音も一人しか知らない
黒石さんだ。
「土井先生なにしてるんですか。さぁ、行こうか、」
「黒石さん、その団子は誰からもらったんですか?」
「なんか気前のいい子がくれたよ。選別ですって、優しい子だよね」
黒石さんは自然に私の手をから外し、の肩をそっとつかみ
誘導する。は黒石さんの持っている団子に目を奪われているようだ。
そういえば好きだと言っていた。
いいや、駄目だ。このまま行かせては。
「待って」
「さっきからどうしたんですか?土井先生。なんかお酒とか飲んでます?」
「。君が私は、その・・・その好きだ」
「は?」
「だから、無職じゃなくて就職を私のもとでしてくれ。
まだ、門をくぐってないから、私を好きだろう?」
は額に手を当てて、ふーと息を吐き出した。
「先生、言ってることむちゃくちゃなのわかってますか?」
「いいから、答えて」
「・・・・・・先生は黒石さんに意地をはられているんじゃないですか?」
「なんですぐ信じてくれないんだ」
「信じれるわけがないですよ。何度繰り返してもあなたは私を好きなふりをしていて
私のことなんか好きなんかじゃなくて、急にそんなこと言うのはそういうわけとしか
考えられないでしょう?私は、私は確かにあなたが好きです。だけど、
同情で愛されたいわけでも、
ただの男の誇示みたいなので好きだと言われても嬉しくない」
「。そろそろいいんじゃないかい?」
「黒石さん」
「君、僕に言ったじゃないか。
一緒に行きますが、私は土井先生が好きですってね
その彼が言ってるんだから、いきなよ」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
も分からなかったようで、黒石さんを二度見返した。
「・・・・・・それは上司命令ですか?」
「そうだよ。君たちをみるとイライラしちゃう。
好き合ってるなら好きだって一緒にいるのが一番なんだよ」
「でも」
「君一度信じたんだろう?
もしかしたら、土井くんが好きになってくれるかも知れない未来を。
だったら、信じなよ。
さ、この子連れてって、さっさと言葉の意味をちゃんと教えてあげたほうがいいよ。
でも、それでもいやなら、僕のとこにくればいいさ」
黒石さんはうそ臭さを消してやわらかな日差しのような慈愛の篭った
眼差しでを見た。
は黒石さんといって見つめ合っているのが気に食わなかったので、
割りこんで、を連れて行く。
「私は黒石さんみたく大きくないから、
私はを幸せに出来るかどうか分からないけど、
といると私は幸せだから」
だから。と強く握りしめた手をはきゅっと握り返した。
「なんですか。それ。でも、私はそんな優柔不断で矛盾だらけの
人間臭い土井先生が好きですよ」