急かされて忍術学園の扉に向かった。
小松田くんは今はいないようで、
扉の近くに桜色の服を身に包み、あまり動かず空をみあげている少女が立っていた。
遠くからでも誰か分かった。

そう声をかけたいのに、私は何を言えばいいのか分からなくて、
伸ばしかけた手を引っ込め、走ってきた足が止まった。

その時。

私の視界をピンクの色で埋め尽くされる。
待って、まだ彼女がそこにいると、手を伸ばせぞ届かず、
はゆっくり私の方に顔を向けるが、視界がすべておおわれてしまい
彼女の顔を見ることが出来なかった。
ピンクの視界に光が入り違う光景が目に飛び込んだ。
そこは忍術学園ではなく、
薄暗い部屋で、むっと薬品の匂いと血の臭いが立ち込めていた。
ここは?
周りを見渡せば、
乳鉢や火薬に破かれた書類、知らない薬草が置かれている。
実験室?
あまりの匂いに腕で鼻を覆う私に誰かが声をかけた。
ゆっくりで飄々とした声、見なくとも誰か分かった。
案の定その人物は、壊れた眼鏡をかけている黒石さんで、
暗い色をした目が私を射ぬく。

「君は僕を殺しに来た人ですか?」
「彼女は」

私は、いつもと違く暗い目をしているとか、
少し年をとっているとか、黒石さんのことなんかどうでもよくて、
一番の問題は、白い白衣を来て、白い肌をして、黒石さんの膝に頭を置いて寝ている
成長したの姿だった。

「ああ、彼女ですか?ええ、僕のお嫁さんです。綺麗でしょう?
顔だけじゃなくて心まで綺麗なんですよ。
僕の僕の実験で多くの人が死ぬところだったんですよ。
それを彼女が食い止めた。自らの体にそれをいれることで。
・・・・・・あなたの名前なんて言うんですか?」
「土井半助」
「・・・・・・そうですか。あなたと僕らが出会ったのは必然だと思いますよ。
手伝ってくれませんか?をこのままにしときたくない」

黒石さんは決して、を私に渡そうとしなかった。
力がありそうにみえない黒石さんは、よろっとよろけながら
彼女を抱き、そして満開の桜の元まで来た。

の好きな場所です」

私の知らない情報をしゃべり、彼はぽつぽつとと暮らしていた楽しい
過去を喋り始めた。
団子が好きで時々研究室を抜けだしたり、
気に食わない上司に可愛いいたずらをしたり、
私は、黒石さんの「がお嫁さん」の発言を馬鹿にしていた。
そんなことありえないと高をくくっていた。
だって、は私を好きだ。黒石さんよりも私が好きなのだから。
でも、目の前の現実は違う。彼の言葉を肯定していた。
二人で掘った大きな穴に、白い彼女をいれる。
黒石さんは無言で素手のまま上に土をかけた。

「土井くん。
実は僕、君のこと知っていたんですよ。
が昔話を語ったときに一度君のこと話してました。
は君のことが好きだったんでしょう。少し妬けました。
でも、今ではは君を好きなままでいたほうが幸せだったと思うんです。
僕みたいな狂った科学者が生み出した兵器を守るために死ぬことなんてなかったんです。
彼女は僕といたら不幸にいなるそれが分かっていたけど、
彼女は笑うんですよ。そんなの出会った時から分かってたって。馬鹿ですよね」

私は今あなたに妬いている。
彼女は黒石さんのせいで死んだんじゃない。
自分のために死んだ。
彼女と数年間いたから分かる。
敵にあなたが手塩をかけて育てた実験を渡すぐらいなら、
自ら死んでもいいと思ったんだ。
はあなたが自分の命よりも好きだった。
もう誰もにそれ以上の感情は向けれない。
あなたは、の永遠を手に入れられた。

嫉妬で人を殺しそうなのは、初めてだ。
黒石さんはそんな私の気持ちを知っているようにじっと見た。

「土井くん。もし、君が次に会ったらを愛して下さい、
幸せにしてあげてください。僕には愛すことができても幸せにはできない」

その言葉にふっと力が抜けた。
次って何を言っている。その疑問よりも目の前の
男が消えそうでつい背を向けた彼に声をかけた。

「あなた、死ぬ気ですか?」
が守ってくれた命だ。そんなことできない。
僕は、僕は奇跡を信じてみるよ」

――あなたは、もし過去をやりなおせたら、何がしたい?――

「彼女を生かせて」

2つの歪な声が交じるあう。
私の視界はまたピンクに染まり
ぱちりと目を開けば、先程から数秒も立っていない今。
目の前には扉の近くに立っている
私は止まった足を動かした。
そして、声を絞り上げる。