「こんにちは、土井先生」
眼鏡を目より下にかけ白衣といっても汚れて白にはみえない服をきた
青年は笑った。いつもならば無視するを多々使用するが、
それができない。なぜなら黒石さんは1年は組の教室が覗き込める窓から
手を降っているからだ。私はいつもよりも鋭い目付きで彼を威嚇する。
「授業中に、一体何のようですか?」
「あなたは嘘つきですからね、でも良い子の前では嘘つけないでしょう?」
彼の言い分にむっと眉を寄せる。
「いつ私が嘘をつきましたか」
黒石さんは私の言葉を無視して、窓からよっと部屋の中に入ってきて
私の近くまで来るとへらへらとした笑を私に向ける。
「私そろそろ帰ろうと思うんです」
「それは・・・ずいぶんいきなりですね。でも、どうしてそんなこと私に?」
「それは僕と土井先生の仲じゃないですか」
「それほど仲が良かった覚えがありませんが」
バサリと切った。
もう周りに生徒がいるとか関係なかった。
に好きだと言わせるこの男が私は苦手で嫌いだった。
「は僕のお嫁さんです」
「は?」
下にかけてある眼鏡がちゃんとかかっている。
眼鏡が光の反射を受けてどんな目をしているのか分からない。
「どの違う未来をわたっても僕のお嫁さんでした。
僕は言ったじゃないですか、あなたならって」
「なにをふざけたことを」
彼の言っていることが理解できると、怒りが湧いてきた。
胸元に持っている出席簿で殴ってもいいだろうか。
戦闘態勢な私に、臆することもなくずいと黒石さんは
迫ってきて、その衝動か眼鏡が外れた。
「ふざけているのはあんただ。土井半助」
彼の目からは殺気でもなく狂気でもなくただ純粋な怒りだけが灯っていた。
黒石さんは私の様子に満足したようで、私から離れ眼鏡をかけ直す。
「さて、早く行かないお、門に彼女が待ってる」
そのセリフに私は黒石さんに待ったをかけた。
「ま、待ってください」
「なにか?」
黒石さんは緩慢な動きで私を振り返る。
「それはが選んだんですか?」
「・・・いいえ」
「あんたが無理やり」
させたのか!と私が怒る前に、黒石さんは、眉を潜めて、
少しだけ哀しそうな顔をした。
「いいえ、選ばせたのはあなたです。あなたはどこまでも愚かだ」
彼の顔は私を同情したようであり、また違うなにかを含ませたような
表情だった。
私は、彼の言葉を反芻する。
何度も何度も。
そんなに繰り返さなくても、意味など分かっているのに。
そうだ。私がいけない。私がいつまでもを離せないから。
冷静になった私に数十の視線が集まる。
私はチョークを持ち、黒板に文字を書く。
「・・・授業に戻るぞ。教科書34」
「土井先生」
「なんだ、きり丸質問があるときは手をあげて」
「いいのかよ。行かせて、先輩はあいつのもんになって、
もう二度と帰ってこないんだぞ」
きり丸の言葉に心臓がキリリと締め付けられるような痛みを感じる。
「私とは生徒で先生で」
そういえば、きり丸は私の足を蹴った。
「なに馬鹿な事言ってるんだよ。あんな嫉妬しまくって、未練タラタラで、
先輩のこといつも見てたくせに!!」
そんなことは。と言う前に、よい子のは組が一団となって声を出す。
「そんなこといってると一生独り身だよ」
「先生ファイトファイト」
「行かないと一生後悔しますよ」
「先輩のところに行ってください」
「先生行ってください。その様子じゃ授業は進みませんから」
「冷静ね庄ちゃん」
ドンと背中を押される。
みんなが私をは組から追い出す。
きり丸が最後に私に声をかけた。
「早く行けよ。今しかないんだ」