自分の部屋の惨状を見て呆れた。
洗濯物の山に、ゴミクズと、本の山。
忙しいということもあったけれど、これではいけない。
生徒に示しがつかない。
髪の毛もごわごわして、何日洗ってなかったっけと思い返す。
今日は休日だからと足をあげると近くの部屋から聞き慣れた声が聞こえた。
「なんで、こんなことしたんですか?」
「手っ取り早いじゃない?」
「・・・なんども言いますけど、黒石さん。
掃除というのは、整える、きれいにするということで、
ものを消すということではないです。
いらないものを燃やすという発想は、小さいものではいいですけど、
机までいくと、放火ですから、分かってますか?
それと、ぼさぼさの髪の毛どうにかしてください。
あなた本当はふわふわの柔らかい毛のくせに、どうしたらそうなるんですか」
「長い台詞一気に読めたね。偉い」
「偉いじゃないですよ。あーもう、あなたは動かないでください。
私が片付けます」
「僕動かないから、あとで髪洗ってよ」
「あんた、本当にわがままですね」
最後の台詞は、言葉の内容に反して柔らかくて、
何か自分の中で積み上げてきたものが崩れたような気がして、
行動が遅れた。
たくさんの洗濯物を持ってと目が合う。
は私を見ると目を輝かせて喜ぶ。
黒石さんがいなければは変らない事実に、
2割喜んで、8割は闇の中に落ちた。
「土井先生。なんか洗濯するものとかありますか?」
の言葉に、現実と違うことがが流れるように溢れた。
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
嘘をごまかすために、筋肉を上へ引っ張った。
は私の表情に疑いもなく、笑みをかえし。
「はい、じゃぁ、また」
と私に背を向けた。
もっと突っ込んで聞かれたなら、言い訳を練らなければいけなかった。
前のなら、突っ込んだだろう。
しかし、今のは、何も聞かなかった。
よかったじゃないか。
言い訳を考えなくてすんで、嘘つきだとバレずにすんで、
よかったじゃないか。
私世話ばかりしていたら彼女はいくらたっても私を好きでいる。
可能性のない思いを見なくてすんで、
そう繰り返し自分に言い聞かせるのに、
体は、言う事を聞かず、爪が手のひらに食い込んだ。
私は、動くなといったのに動いた黒石さんの
いく先がみたくなかったので、部屋に戻った。
数日たって、私の部屋のふすまが開いた。
「・・・先生、これさすがに、やばいっすよ」
部屋の惨状にきり丸が呟き、腰をおろし、
部屋を片しはじめた。
「・・・・・・きり丸か」
「俺じゃなくて違う人が良かったっすか?」
「そんなわけない」
「そんなわけあってほしかったっすよ。俺は。
あんなぱっとでの、変な奴に先輩を盗られるくらいならね」
私はきり丸を見た。きり丸の背中は小さかった。
終わったら、風呂ですから、髪、洗いますからと言われて、
体から力が抜ける。
そういえば、きり丸に私とが別れたことをいってなかった。
いや、付き合うこともいってなかった。
最初から門をくぐれば終りな関係だったから、
言わなくていいと思っていたんだ。
しかし、きり丸は私とが付き合っていることを知っていた。
一回目を閉じて、世界を黒に染めなおしてから、
光を入れ、言葉を紡いだ。
「・・・・・・とは別れたよ」
「そうでしょうね」
予想外の答えに、きり丸を見れば、
きり丸は、よっと本を戻して私を見ることなく作業を続けていく。
外で、体育委員が委員会活動をしている。
いけいけどんどんと、特徴的な体育委員長の声と、
それ以上したら私たち死にますと、後輩の悲痛な声が響いていた。
「先生は、凄い馬鹿だよね」
きり丸は、部屋を片し
私の髪を洗う終えるまで目を合わせることがなかった。
さっぱりした気持ちで部屋にもどる途中、
開けっ放しにされていた黒石さんの部屋をみた。
そこは埃一つなくきれいなもので、この部屋の主じゃない
誰かがやっている姿は簡単に想像できた。
ちょっと前までは、彼女が私の部屋に来ていたから。
きりりと傷んだお腹を押さえる。
下から込み上げてくるものを抑えようとするのとは
別に、足は、勝手に外へ走りだした。
黒石さんよりも、部屋が汚かったら、
髪が汚かったら、はあの人よりも
私のところに来てくれるんじゃないかって思ってた。
でも、現実は違う。
こんなこと思うのが間違えだって分かってる。
おかしいんだって。
の愛情に私は応えられないのに、
独占欲だけは一丁前で。
でも、しょうがないじゃないから。
は、変わらなかったんだ、
私と恋人じゃなくなっても、
私が好きで、一番で、私にとってそれは当たり前で、それが日常で、
だから、こんなこと非日常としかいいようがなくて、
だから。
だからをいくらか繰り返す。
いつまで走っていたのだろうか。夜を通りぬけ、朝が見え始めていた。
自分が何をしているのか、何を考えているのか
何をしたいのか、自分ですら分からない。
2011・4・23