桜の花弁が散る。

「あなたは、もし過去をやりなおせたら、何がしたい?」

それに誰かが微笑んだ。




私と恋人だったは、右目のほうに包帯を巻いている。
右目は見えないわけではないらしいが、
なぜ巻いているのか、と聞くことは出来なかった。
きり丸は、あれからの元へよく訪れるらしい。
彼女なりの気配りと、彼女自身の問題であろう。
関係なくなってしまったのだから、何も言うことが出来ない。
そんな私のもとに、は一週間に一回現れる。

「邪魔になったら来ませんよ」

と微笑んでいた。
むしろ洗濯とか掃除とかやっていってくれるのでありがたいのだけれど、
私はに言いたいことがあった。
しかし、言葉にすることが難しくてため息を吐けば、
隣にいる山田先生が、鋭い眼つきを、細めて

「青いですな」

とおっしゃられた。
は組と同じような生ぬるい視線で私を見ないで欲しい。

そんな彼女が、ある日包帯をとった。
右目の横から顎にかけて一本の線が入っている痛ましい怪我は、

「今度は一体何をしたんですか!!」

叫び声のもとに、走りだす彼女にとって全然気にならないようで、
今私の横を風の如く走りぬけ。

「黒石さん!!」

なんて言った。
別に、会うたびに顔を輝かせて、笑って手を振ってくれなくなったのは、
忙しいからで、そもそも恋人でもなく生徒なのだからと、
一瞬で頭を駆け巡ったが。

「おやー土井先生、今から、ご飯ですか?僕も一緒していいですか?」

と、私よりもぼさぼさの短い頭で、眼鏡をかけて、
目より下の位置にある眼鏡は、どうみても正しく世界を見れてはいないだろう。
へらへらと、笑ってひょろっと痩せ型の、
忍服の上に白衣を来ている男・先ほどが叫んだ黒石さんは、
私の肩にポンと手をおいた。

「一緒していいですか?って、その前に黒石さん、
ここを直していってくださいよ」
「嫌だよ。僕は、人をちょっと甘噛みする植物を見せただけだよ。
あ、そういえば、ご飯食べた?」
「まだです。あんたのせいで」
「じゃぁ、一緒しよう」

と、黒石さんは、忍たまを食べかけている植物に、
水をかけて静かにすると、の手をとり、

「土井先生の好物頼んどきますね!」
「いいです、自分で頼みます!!」

走って黒石さんを止める。
黒石さんのいう私の好物は大嫌いなものの盛り合わせだ。
黒石さんより先に行く私に、

「食いしんぼうさんだね土井先生は」

と言われない言葉を言われたが、
あの時、おばちゃんとの死合のような気持ちを二度と味わいたくない。
私は、何を言われようが、構いやしなかった。

うまくやられた気がする。と食堂に来て思う。
違う時間に食べようとしたのが黒石さんに
バレたのか分からないが、一緒に食べることは確定のようだ。
ため息を吐き、食卓に無難なA定食を置くと、
目の前に座っていたが申し訳ない顔をしていた。

「すいません、黒石さんは悪気はないんです。でもひねくれてるんです」
「それは、フォローになってないよ」
「土井先生は少しですけど、私はずっと付き合うので、まだマシですよ」
「いや、それもおかしいよ」

と、言えばは黙って考え込んでいる。
どういえばいいのだろうと言ったところか。

食堂のおばちゃんになにやらいっている黒石さんのぼさぼさ頭を目に入る。
なぜ黒石さんが、ここにいるかというと、
新野先生が不在なための代わりの養護教員だ。
そしてなぜが黒石さんの面倒
(治療とかこつけた実験しようとするのを主に止める)
をみているかというと、彼は就職先の上司らしい。
集合したときの名前よりも先に。
「いたいた。
あれ、次の年から僕の部下になるんですよ。
出会い頭に、風呂に入ったほうがいいですよとは、
初めて言われたので、照れちゃいましたよ〜」

から始り、自己紹介もせずグタグタととの出会いの話をして、

!!お世話よろしく」

へらりと笑った。

「自己紹介がまだですよ。黒石さん」

は、私に見せたことのないような氷のような笑みで、
その場を凍らせた。


「いやー参ったね。僕の好きなものをたくさん欲しいっていったら
変な顔されちゃって」

回想から戻ってくると、あの時と同じ気の抜ける笑顔で、
黒石さんはの横に座った。
黒石さんのお盆の上には、丼の上一杯に生姜が乗っている。
黒石さんがのほうに顔を向けようとして、先に釘をさされる。

「私のに乗せたら怒りますよ?」

は、ぱちんと箸を割り、黒石さんが持ってきた同じ柄の丼を
口にした。
どうやら、二人の丼は一緒のものらしい。
そうかこれは親子丼の成れの果てか。
と黒石さんの生姜(それ以外形容できないほど一杯のうす切れ生姜)
を見ていれば、黒石さんは、眼鏡をずらしたまま私を見て。

「土井先生は好きですか?」

と、大量の生姜を私の味噌汁の中に入れた。
その行動に、なにしてんですか。人様に迷惑かけないと、
さとして、包帯をしていないがいる。
おいしいから食べてよと、説教を聞いてない、
彼女の隣にいることが当たり前な顔している黒石さんもいる。
私は、まだに包帯を取った理由を聞いてはいない。
いないけれど、包帯をが取ったのは、この人が来てからだ。
私は表面的な笑みを浮かべた。
私とはもう恋人ではない。生徒である。
そして、
私は、黒石さんが好きではない。













2011・4・23