「もーいいかい?」
「まーだだよ」
誰かの声がこだまして、耳を塞いだ。
赤い花、はらりちらり、目を閉じた。
大丈夫だと言う阿呆は前しか見ていない。
感じた光は絶望だろうか、希望だろうか。
俺は握られた手を離した。
「もういいよ」
目の前でゆっくり団子を咀嚼している人俺に言った。
「お前は霊感が学園で一番強いから、私たちの存在を認識できる。
でも、中途半端だから私たちが悪いものかいいものか区別できないし、何かわからない。
そして、私は天女の敵になる可能性を潰さなくてはいけない。
まぁ、そういうことだ」
「いや、これ結構重要なとこっすよ。はしょりすぎでしょう。
つまり、俺は天女さまが悪いものだと思って、
彼女になんらかの危害を加える可能性がある人物で、あんたはそれを潰すと」
「YES」
「あんた結構簡単に天女さまの存在とか言っちゃってましたけど、
俺があんたにつかなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「記憶がなくなるまで殴る」
「え、なにっすか、その死亡フラグ」
「まぁ、それより手っ取り早く私の手下になればいいと思った」
「なにそれ」
「ここでは負けたやつが手下になるんだろう?」
「なにそれ」
「負けてお前は私のもとにきたじゃないか」
「・・・」
違いますよ。俺は負けたからあんたのもとに来たんじゃない。
知ってますか?貧乳先輩。
あんた、俺と会ったのがつい最近だと思っているようっすけど、
本当は違うんっすよ。
あの日、前しか見てないで大丈夫と言ってる
同学年同級の友人にして本当の迷子神崎 左門が俺の手を握ってた。
俺達がいた場所にはなにかがいて、いいものかわるいものか分からなかったけど、
どちらにしろそいつらは俺をそいつらの世界へ引きずり込もうとしていた。
赤い赤い彼岸花。甘くしょっぱい臭い匂い。
生ぬるい風、暗くて前がわからない道。
声が響いた。「もーいいかい?」
左門は頭をかしげて答えた。
「もういいぞ!!」
あいつは、本当の阿呆で意味も知らずに答えやがった。
沈黙が正解だったのに、口を塞ぐよりも早く言いやがった。
誰かがケタケタ笑ってた。地面はぐにゃぐにゃに曲がって、
闇が俺たちを正確には左門を飲み込もうとしている。
バカ、阿呆。
左門への罵声よりも先に涸れるほどの大声を出した。
「おまえらがほしいのは俺だろう!!こいつは駄目だ。俺なら」
俺なら、お前らに全部くれてやる。
これは俺の罰だろう。
花のように鳥のように風のように月のように
ただあるように、生きてきた。
彼らの望みも嘆きも希望もすべて見捨ててきた。
沈黙が、流れることが一番だと思ったから。
俺の言葉に闇が反応して、左門から俺へ方向をかえた。
左門はすでに意識はない。俺が消えてもなにが起こったか分からないだろう。
「ごめんな」
馬鹿面な眠り顔の左門に言う。
お前は俺がどんな能力を持っているか知らないのに、
いつだってピンチの時は俺のもとに来た。
俺、痛いの嫌だし、面倒臭がりやだから、簡単に流されようとしてると
お前はいつだって手を握って離さないで、大丈夫だって言ってきた。
でも。
「もういいよ」
もういいんだ。目を閉じたら一瞬だけ光が見えた。
それが絶望か希望か分からないのに、俺は手を伸ばした。
「うっせー!!こっちだっていっているだろう?」
「何回言わせる。こっちは逆方向だ。方向音痴が!!」
「だっからー、まず立花と行く場所が違うって言ってるだろう?
なんでお前の行きたいところ行かなくちゃいけないんだ」
「なんでって、お前が私に何も言わずにどこかいったからだろう?
どんなに心配したと思ってる。お前がいないと寂しい」
「そういう恥ずかしいことを、さらっと言うな!!このサラスト」
ぎゃぁぎゃぁと立花先輩と貧乳先輩が言い合いながらすごいスピードで走ってきた。
俺を飲み込もうとした闇は走ってきた貧乳先輩に踏んづけられて、そのまま地面に溶けた。
それから世界は普通に元通り。
俺はというと貧乳先輩の腰紐を掴んで、変わっていく様子を見ていた。
俺は安全な場所まで着てから手を離した。
驚くことに先輩たちは俺達に最後まで気づかなかった。
「・・・・・・・助かった」
寝ている左門の横に大変疲労した俺も横に寝た。
左門と同じく友人の作兵衛が俺と左門を見つけておいおいと泣いた。
「お前らがなんか変なもんに喰われちまったかと思った」
左門も俺も泣いて作兵衛に抱きつく。
作兵衛の妄想癖の内容は時々あたっててドキリとする。
それから俺は貧乳先輩に興味を示した。
いや、本当は来た時から興味はあった。
あの人、他の人との違かったから。
性格も力もそうだけど、それ以前の人としての問題。
でも、俺にも友達にも危害を加えなかったから関わらないでおこうと思っていたけど、
あの日から俺の興味の全ては、貧乳先輩に注がれた。
歩いていれば目が追うし、声が聞こえれば足が動く。
貧乳先輩は作法委員のお気に入りで、奴らは周りを威嚇していて、近づけば罠が作動した。
なによりも、貧乳先輩は自由で一所に長くいなかった。
どうやって関わろうかと思っていたところに、
このごろ続く七松先輩不在の体育委員の時間に、滝夜叉丸が俺達に言った。
「七松先輩は、貧乳先輩に肉体・精神的に叩きのめされて
それから貧乳先輩の言う事を聞き、貢物とおべっかを使っている。
あの貧乳になにかされたに違いない。
体育委員に来なくなったのもそいつのせいだ」と。
全員が頷くものだから、俺も頷いておいた。
けど、本当は分かってた。みんな気づいていると思う。
実力差があっても何度も立ち向かう、負けず嫌いな七松先輩が
負けさせた人物にあんな嬉しそうな顔をして話しかけるわけがない。と。
思うに七松先輩は彼女の何かに惹かれたのだと思う。
でも、いい機会だったから。
嫌いってことにしといた。
これが思ったよりも面倒な結果になった。
貧乳先輩は嫌いは嫌いで返す。
俺のことも嫌いになった。
なんだか悲しくて嫌いって言ったのに、
気に入られたのが分かる滝夜叉丸にイラついて、
会話を邪魔しようと余計な言葉ばかり言ってしまった。
俺を見てもらいたかった。嫌いでもいいから見てもらいたかった。
でも先輩は背中を向けて手を降った。
全部滝夜叉丸のせいだ。
その後の七松先輩がどうすれば貧乳先輩から離れるかの会議で、
滝夜叉丸の眉毛をずっとバカにしといた。
俺も変な眉毛だったらよかったのか。そしてら気にいられたのか
と悩んでいれば、滝夜叉丸が言う。
「あいつは七松先輩に興味がない」
知ってる。ずっと見てたから、あの人から人に近づくことはほとんどない。
「ということは、喜八郎や七松先輩に妖術を使っているに違いない」
「・・・ああーなるほど、だからか」
なんだ。そんなことかと呆れていれば滝夜叉丸が俺を睨む。
「何だその目は」
「友達に放って置かれて先輩にも放って置かれてさびしかったんっすか?」
「・・・・・・っっ、そ、そんなわけあるまい。私は一人でも無敵素敵で誰も敵うことのない美しさを持つ、
バラの化身の平滝夜叉丸だぞ!!それが寂しいという・・・わけあるまい」
「それってただの八つ当たりって言うんだよ」
俺の声が低かったことに1・2年も滝夜叉丸さえ体をすくめた。
分かってんだろう?七松先輩が本当にこないのは、あの天女さまってことを!!
あの人は本当に天女なのか?天女ならなんで地上に落とされた?
かんがえろ。あの人は危険じゃないってなんで言える?
言葉に力を込めて言う前に、
「よ」
貧乳先輩が手をあげてきた。
それからは見ての通り、休日に甘味処にいける程度の仲になった。
記憶をめくって苦笑。
「俺ってもしかして皮一枚つながってた状態だったってわけっすね」
「は?」
「いや、こっちの話っす」
記憶は現在に戻る。
団子を完食し終わってお茶を飲んでいた貧乳先輩は、
思い出したように俺のほうへ顔を向ける。
「そーいえばさ、私に探しにこさせるのとかやめてくんない?
空中に↓でこことか書くとかやめてくんない?めちゃ爆笑したじゃないか」
「いやー出来るかなって思ったら、できてびっくりっす。分かりやすくていいじゃなっいすか」
「まーそうだけど。そういえばお前、無自覚な方向音痴って言われてるらしいじゃないか」
貧乳先輩の言葉にぴくりと反応して、俺の団子を食べる手が止まる。
先輩は、なんちゃない顔でいう。
「馬鹿だよな。お前は迷子じゃないのに。道を迷子にされてるだけなのに。
霊感高いのも面倒なもんだ。きれいなのもそうじゃないのも好かれるなんてな」
俺は、祈っていた。
物心がついてやつらが見えるようになったころから。
俺の言葉を本当に分かってくれる人が現れてくれることを。
感じていた違和感はこれだった。
先輩が神様のヘルプとか天女さまのサポート役とか
そんなことよりも先に運命ってやつがあったんだ。
「というかお前私のこと嫌いだって言っただろう?
嫌いなやつと一緒にいるっておかしなやつだ」
「言葉がすべてだと思わないほうがいいっすよ」
「どういう意味?」
「あんたがいれば俺の方向音痴がなおるんで、一緒にいるんっすよ」
貧乳先輩は俺の言葉に頭を捻り、頷いた。
「・・・しょうがない。知ってるやつが喰われるのはなんだか嫌な気分だし、
そういうときは出来る限り一緒にいてやる」
その言葉がすごく嬉しくて、にやけ顔を見られたくなくて、
「そういえば、なんでお前を迷子にさせようしてるやつは私が来ると逃げるんだ?」
「人も人を選ぶ、あいつらの人を選ぶってことっすよ。
先輩はほら、清くないから」
って、憎まれ口で照れ隠しをした。
【ミッションコンプリート】
次屋三之助の天女の敵になる可能性を潰す。
2011・7・5