木々が怪しげに囁く。
さぁさぁさぁさぁ。と。
生物は妖しく息づき、周りを見渡せば昼のはずが薄暗い。
ガッと横の木に印をつけた。似たような模様が入っている。
またか。
もはやあきらめに近い心地でため息を吐く。
俺の心情を知ってかしらずか、闇はもっと濃くなり、生ぬるい風を肌に感じ、
腐敗と甘美の間の匂いがたちこめる。
今回はやばいかもしれない。
声を出せば助けてくれる人はいた。
でも、助けを求める原因を説明することはできなくて、
どうしようもねーなと頭を掻いていれば、阿呆がそこに入り込んだ。

「ここはどこだ!!」

その阿呆は俺を見つけると、にっとアホ顔をもっと阿保にして、
真っ直ぐいけばどうにかなると、俺の手を握りしめた。
俺の手を離さないから一向に帰れないというのに、手を離さない。

「手離せよ」
「ん?でも、こうすれば迷子にならないだろう?」
「・・・俺は迷子じゃねー、道が迷子なんだ」


俺は祈った。
俺の言葉を本当に分かってくれる人が現れてくれることを。
そして、光が現れる。










コンの言ったミッション内容に、眉間にシワが増えた。
手を右左に振り、無理だと体で表す。

「因縁つけられたばっかだし、どう考えてもタイミングが悪い」
「これは放置しておけないミッションだ。時間がかかればかかるほど、難易度はあがる。
それに、人というのは嫌いな相手が来れば、隙が出来るのだろう?」
「・・・いや、それは好きな相手じゃないか?」
「どっちでもいい、クリアできなかったら、おまえの夢が叶わないだけだ」

コンの言い分にカチンときて睨みつけるものの、毛づくろいをし始め聞き入れるつもりはないようだ。
前の盗賊団のミッションの時も、いなり寿司のショックからすぐのミッションだった。
内容はあまりも過保護なもの。
天女さまが今度保健委員と薬草を採りにいくときに、盗賊に襲われてしまい、誰かが死に、
死んだことに、自分のせいだと天女さまが自分を責めないように盗賊を撃退しろ。とか。
天女が死なないんだからいーじゃん。
なんでメンタル面まで守らなくちゃいけないんだよ。
今回は、どっちになるか分からないのに、二分の一の可能性でミッションとかないわー。
まじ、オー人事オー人事だよ。使い勝手粗すぎなんだよ。
悪化するまで・・・待つかな。

「税金なしの一生遊んで暮らせるウハウハ生活」


コンのつぶやきに私の耳がピクリと動いた。



「よ」

手をあげて体育委員の面々に挨拶すると、ナルシー眉毛こと平滝夜叉丸が警戒態勢になり
後輩を守るように前へ出て私を睨みつけた。

「なんのようだ」
「七松が私に構わなくなる方法を考えたんだけど」
「何?それはどのような方法だ!!」

私とナルシー眉毛の距離が5歩くらいになった。食いつきがいい。
どうやら地面に書いてある落書きは七松から私を離させる方法だったようで、
・・・目の錯覚だろうか、ところどころに私の悪口が書いてある。
そしてあの、どうみてもゴリラな絵はもしかして私だろうか?
いいや、横にいる普通の人が私だろう。一万歩譲ってゴリラが私だとしたら、七松はゴジラだ。

「これはすごくてきめんなほうほうだよ」

イラッとしたので、棒読みでナルシー眉毛の眉間をグリグリとこぶしで抉るように攻撃した。
胸元でぎょえーと殺される前の鳥の鳴き声に似ていたので、悲しくなって手を離した。
ナルシー眉毛は眉間を押さえて地面にうずくまっている。
1・2年の後輩たちが背中をさすっていた。
間違っている処置方法だけれど、癒されているようだ。
良かったなナルシー眉毛。私のおかげで後輩とのスキンシップができて、
さぁ帰ろうと背中を向けると、
服を引っ張られた。
3年の・・・次屋三之助。

「で、どういうった方法なの?」

次屋と目があう。
コンに言われなければ、気づかなかったことに気づいて
心のなかでつぶやく。―面倒なもんを―
それをおくびにも出さないで、くるりと方向を向きなおし、
次屋と対峙する。

「でも、タダってわけにはいけないなぁ」
「なにが目的だ?分かった私に付き合うとかだろう?
美しく賢く先輩思いで後輩思いの素晴らしい私が、
貴様を魅了してしまったわけだな、だが断る」

回復したらしいナルシー眉毛が腰に手を当てて、
フンとわざとらしく綺麗な髪を手で振り上げ魅せつける。
私はナルシー眉毛の言葉に言葉をなくしていたが、
ハッと目が覚めて、新しい発見をしたときに近い気持ちでナルシー眉毛を見た。

「勘違いもそこまでいくと精精しい。健やかだ」

私以外に欲するものがあるのか!!と言っているナルシー眉毛を
構うと当初の目的を忘れそうなので、
まだ私を掴んでいる次屋を見た。
にやりと企みのある顔で笑う。

「ようがあるのはあんただ」
「なにするんだ?」
「話がはやいな。まぁ、つまり・・・」

つまり・・・。しまった。ナルシー眉毛の言葉で全部忘れた。
あのインパクトが半端なかった。
勘違いをあんな堂々と恥ずかしげもなく言えるあの度胸。見習いたい。
人差し指と中指を額に当てて思案する。次屋は腕まくりをしていた。
そして、さっき今日の出来事を嬉しそうに話しに来た七松も腕まくりをしていた。
!!
そうだ。これがいい。

「勝負しよう。なにか得意の武器用意しろ」

この世界は負けたら下僕になるんだから、私が勝って次屋も下僕にすればいい。


「・・・あんたの武器は?」

次屋は獲物を構えて私に問う。私はその問の答えを当たり前に返した。

「素手だけど?」
「・・・なめてるのか?」

次屋の殺気が増えて、笑う。
だめだな。
七松にも満たないし、作法委員のからくりスキーずの罠を製作するときの会話よりも怖くない。

「なめられたいの?」



それから数分後。次屋は地面の上で大の字になって大量の汗と傷をこさえて

「つえー。てか、七松先輩に勝つやつが俺敵うわけねー」

と喚いた。

「なにいってんだか」

途中で気づいた。
次屋は手を抜いているわけではないけれど、
戦う気がなかったこと。私を敵だとみなしていなかった。
でも、勝ちは勝ちなので、私は次屋に近づき、かがむ。

「どう?」
「つえーってのは認めます。でも女というのは認めません」
「・・・・他には」
「他にはって」
「・・・・・・・・」

沈黙。そして体育委員の視線が半端なく痛い。
これでも女で、保護欲というものをもっているので、
ナルシー眉毛はいいとして1・2年からの非難の目が痛くもかゆくもないわけではない。
でも、次屋は七松のようにはなっていないし、潮江のようにもならないし、
立花のようにも、綾部のようにもならない。
いや、綾部になられたら困る。立花のはうざい。潮江はヘンタイだ。七松は面倒だ。
ならなくてよかった。
と、本末転倒な考えをし始めた自分の思考。

「あーもう!!お前ちょっとこい」
「へ」

私は、次屋をそのままお姫様抱っこでその場を離れた。

「もしかして次屋がタイプか!!私のほうが美しいぞ。次屋を返せ!!」

ナルシー眉毛。
後輩思いなのか、自分好きなのかどっちかにしろ。

私の部屋に次屋を放りこみ、
作法委員が来ないようにグレードアップした鍵をしめる。
私は、次屋のほうを向き、その格好に突っ込まず、座布団の上にいる物体をさして問いた。

「あれ、なんだと思う?」
「普通の狐」
「・・・だったら近づいてみろ」

次屋は、部屋の角のほうにはりつくようにしていた。
私の言葉に、無言を貫いているので、胸から笹で包んだものを取り出す。

「おい、コンお前にこれをやる」
「そ、それは竹谷作のいなり寿司!!美味しい大好き!!」

ボサ男もとい、竹谷のいなり寿司は最初は大味だったのだが、なんども作っているうちに
誰もが美味しいと言えるものになりコンの大好物だ。
私は、立花の形最悪味最高のほうが好きだ。
コンから言わせると、見た目も味のうちらしい。
口に入れば形なんてないんだから味がいいほうがいいだろう!!と何度か議論を交わした。
まぁそんなことはいい。
ちらりと、次屋を見る。

「喋った」
「・・・その割りには驚いてないな。やっぱりお前が言ったことは本当らしいな」

手を組んでいなり寿司を食べる狐に目をやる。

「私に、もぐもぐ偽りなど、もぐもぐ、ないもぐもぐぐ」
「私はややこしいのは嫌いだから、はっきりいうが、
お前幽霊とか神様とか見えるだろう?」
「・・・あんた大丈夫か?」
「隠さなくてもいい。コンは今、通常の人には見えない状況だったのにお前は認識している。
そしてー、ここからが大事。隠しているようだが、お前天女苦手だろう?
天女が、人かなにか分からないから」

次屋が私を見る。
こいつの目は、普通に見えるがじっと深く見れば彼の目が違うのが分かる。
透明なのだ。限りなく純度が高い。
私に霊感なんてものがあるのか、前の世界ではほぼないに近かった。
しかし、今の私はこれでも神様の使いの手伝いなので、そういった方面の力も少しついた。
といっても、霊の姿は見えないし、声を聞くことも、攻撃されることもない。
この場所がいいのか悪いのか、霊感があるかないかが分かる程度だ。
そんな私が分かるのだ。そうとう次屋は霊感が高い。
次屋はまた黙ったが、そのくせまばたきすら忘れ、私から目を離さない。

「周りに合わそうと必死になってるようだが、いつか綻ぶぞ」
「あの人・・・天女さまは、そっちの人なんですか」
「お前はどっちだと思う?」
「・・・分からない。でもあんたが清くないは分かる」
「ほぉ?」
「あんたのほうが人間臭い」

次屋は私から目を離すとコンに近づき背中を撫でた。
それからまた私を見る。

「あんたは俺の味方だろう?」

私は笑い、コンは呟いた。

「ミッションコンプリート」












2011・7・1