ことの発端は、不運と破壊数。
もともと伊作は不運だけど、今は不注意も加わって輪をかけて酷くなっている。
保健室に入ろうとすれば、少し火薬の匂いがしいて久々知が出てきた。
体に怪我の治療を施されている彼は、伊作の不運に巻き込まれている人間で、
いい加減にしてください。と怒りながら出て行くところだ。
俺は彼の背中を見送って、どこかしょぼくれている伊作に声をかけた。
いつも喧嘩ばかりの文次郎からも、此の頃小平太が変だと聞かされていて、
無理やり地獄のバレーに何時間も竹谷をやったり、物を壊す頻度は増え、
話を聞かないことが増えた。俺達6年は彼ら二人を呼び、なんでこうなったのか問いただした。
答えは曖昧で、本人達もよく分からないらしい。
「うーん、でもと喋ったら元に戻ると思う」
「僕も、久しぶりにと喋りたい」
彼ら二人が言った人物・と聞いて、懐かしいなと俺は思った。
そこにいるだけで癒されるし、言葉を持たない彼女は真っ直ぐで、
くだらない話だって聞いてくれる。可愛い。愛しい。
けれど、最近はあまり会ってない。
くのたまに実習でもあったんだろうか?
いや、その前に何か突っかかるようなものがある。
だけれど、二人の話を聞いて会いに行くことが決定したから俺はそこで思考を止めた。
「あれ?みなさんどこか行くんですか?」
パタタタと忍術学園の一年生以外でこんなに音を立てる人物は彼女だけだ。
みんな彼女をみて、笑顔になる。かくゆう俺も笑顔だ。
彼女がいると、すさんだ気持ちとか色々汚いものがすべて清浄化されるような、
まさに「天女」のような女性で、ここで会ったから、このまま離れてしまうのは
もったいない。だから俺は口を開いた。
「会いに行く人がいるんで、一緒に行きませんか?」と。
久しぶりに会ったは相変わらず小さな体と、そのわりに一杯動く顔で、愛しく可愛かった。
みんなだって、が嫌いじゃない。大好きだ。大切だ。
だから、この六年間みんなで守ってきたんだ。
誰の手に触れないように。だって、は人一倍怖がりで、人一倍寂びしやがりだから。
言葉を持たないは、受け答えしている。ちょっと離れた場所で、きっと彼女がいるから
離れているんだろう。ちょっと遠い顔して。人見知りだからしょうがない。
こっちへ来いという前に、話に花が咲いてしまった。
でも、小平太が「なぁ楽しいだろう?」って聞いて笑っていたから、
伊作が「ねぇ、またやりたいね」って聞いて頷いていたから。
だから、は俺達といることを楽しんでいるんだと・・・・・・。
長屋に変える途中。長次が背負っている人を見て、なにかずれを感じる。
月が満月で、光を照らしているからはっきりと見える、彼女の姿。
あれ?そこに居るべき人は彼女であっただろうか?その綺麗な寝顔であっただろうか?
もっと、幼くはなかっただろうか?
そういえば、俺はと話しただろうか?彼らもと話しただろうか?
小平太と伊作の言葉ぐらいしか知らない。見てない。
きっと、喋っていたはずだ。俺が見ていなかったから、そうに違いない。そうであるはずだ。
それに、人の気持ちに敏感である仙蔵が何も言わないんだ。変化なんてないさ。
あれ?でもお菓子好きのは、お菓子を取ったかどうかすら、分からないなんて。
急に、背筋がぞくっとした。冷えたのかも知れない。と両手で体をこするが、
一向に納まらない。
あれ?なんなんだ。これは。なんなんだ?
「留さん」
寒い中、伊作が不思議そうに俺をみて、前までの不調が嘘だったかのように笑った。
「良かった。。僕らと一緒にいたよね。今度もやりたいって良かった。
留さん、楽しかったから次も行こうね」
伊作の言葉で寒さが消えた。そうだ。次がある。次があるんだ。
次は、ちゃんと見ていればいい。そうすれば。
俺は、知らなかった。次などないということを。だから、長次に背負われている人を見て
綺麗だよな。と笑って、喧嘩して、次の日もみんなと彼女を囲んで笑っていた。
安心して、笑っていたんだ。
私は、酷く弱い人なんですね。悲しくなります。
でも、嬉しいんです。おかしいですね。すべての私のときのなかで一番幸せです。
目が覚めれば、三郎と雷蔵がいます。私の部屋はシナ先生に事情を話して、
ものけの空になっています。今は、三郎と雷蔵の部屋で寝起きをしています。
時々は5年生もいて彼らが今日あったこととか、私が今日何をしたのか聞いてくれます。
私はあれから5年生だけでなくもっと多くの人たちと触れ合うようになりました。
雷蔵や三郎で、5年生。5年生から下級生。
彼らは私を見れば先輩と呼んでくれるようになりました。
そして、5年生を中心に私を彼らから守ってくれているようなのです。
だって、そうでしょう?いくら、私が鈍いと言っても腐ってもくのいちです。
あの日を境に、見ることも話声すら聞くこともないなんてそんなはずはないのです。
やりすぎだと思う半面、ものすごくありがたいことでした。
私はこの世界に来て、大切なものが二人。両親でした。
次の6年間で6人。彼らでした。そんな小さな箱庭で、少ない人しか知らない私に、
彼らから憎まれていると言う事実は、とても苦しくて、どうしようもなくて、
知らないうちに湖に身を沈めるところでしたが、彼らが助けてくれました。
雷蔵と三郎は前より私を離しません。私も彼らを離しません。
他の5年生は少し距離をとった位置で私達を見守っています。
実習から帰って私を待っていて笑顔である彼らが、
前の彼らと変わっていくことを苦しいと思うけれど
もう、いいんじゃないかと、思っているのです。私は進まなくてはいけません。
ずっとこのまま前に囚われても、しょうがないのです。苦しいだけなんです。
私を憎んでいる彼らは私の一分でも私を思ってはいないでしょう。
だから私は私を思ってくれる人へ思いを返したいのです。
三郎、雷蔵。いつの間にか私が呼ぶ二人の名前に「くん」はなくなっています。
「なんだ。?」
「どうしたの。?」
雷蔵の先輩がなくなりました。そんな長い時間が経っていたとはと一瞬驚きましたが、
私は自分のできる限りの精一杯の笑顔で。
大好き
の意味をこめて抱きつくんです。声がないから、行動でしめさなきゃいけません。
行動で表すのは本当の本当じゃなくてはとても難しいことなんです。
地獄でも罪でもなんでも背負います。裏切られてももう構いません。
IFは考えない。殺されるからいいとかそれは逃げです。
私は彼らなら裏切られてもいいと覚悟を決めたんです。だから、正面から愛を。
初めて本当の愛を二人にぶつけれられるんです。
そんな幸せのなか、私に彼らの情報も天女の情報も声すら届かないから、
どうなっているかなんて知らなかった。
2009・12・4