此の頃、先輩と三郎と雷蔵がよく一緒にいるなって、思っていた。
先輩は一つ上のくのたまで、くのたまらしからぬ雰囲気を持っていた。
なんていうか。うん、よく分からないけど嫌じゃないそんな感じ。
一つ上なのに、俺達5年よりもその下の4年よりも小さくて、頑張って3年と同じくらいの体。
遠くから見てて、構いたくなるときもあるけれど、そのたびに6年の先輩方に邪魔されていた。
でも、先輩も笑って幸せそうだからしょうがないと諦めていたけど、
天女様が現れてから、全てが変わった。
それはいい方向か悪い方向かわからないけど、
天女様は綺麗で優しくて、恋人にしたい人だけど、俺なんかは到底無理だって分かって
アイドルみたいな気持ちで見ていたら、ほころびに気づいた。
6年生は全員彼女に夢中でそのなかに先輩の姿がいなくなっていた。
あれ?ときょろきょろ探せばいつのまにか、5年のところにいる。
5年のところというのは語弊だ。正しくは雷蔵と三郎の所。
彼らは、6年生同じようにもしかしたらそれ以上に先輩を可愛がっていて、
先輩もそれに縋っているようにみえて、捨てられてしまったんだなと先輩を哀れんだ。
俺は、5年生で、三郎とも雷蔵とも組が違えど兵助由来で仲がいいから、
近づいて見る事位は出来た。
すぅすぅと寝息を立てて雷蔵の膝で寝ている先輩は猫のようで、
隣のハチが、飼いたいとポツリと呟いたのに賛同してしまった。
ちなみに、三郎に誰がやるかと叩かれた。痛む頭に、冷静な気持ち。
俺達が飼うのは無理だろう。
だって、彼女が懐いているのは雷蔵と三郎だけで、それ以外には寄って来るけれど懐きはしない。
ハチは、そんな彼女の姿を見て、愛したんなら最後まで面倒をみるべきなのに。
と凄い形相をしていた。隣の兵助ですら、気づいていないようだが、眉間に皺がよっている。
俺達は三郎と雷蔵と近いから、近くにいれたから、
徐々に彼女の人ナリが分かってきただけに、6年生に嫌悪感を抱き始めていた。
でも、雷蔵と三郎で徐々に明るくなっていって、外にもいけるようになって、他の後輩とも
相手をしている姿に、良かったと喜んでいたときだったんだ。

ハチが此の頃、バレーボールの試合に無理やり巻き込まれると、苦笑した時期だった。
兵助が此の頃、伊作先輩の不運が酷くなって俺まで巻き込まれたと、苦笑した時期だった。

俺は、そのときたまたま、満月が綺麗だから一人月見酒をしようといい場所を探していたんだ。
湖畔で腰をかけて、月が湖に映って綺麗だなって、酒のふたをきゅぽんと開けたとき。
湖に、不審な点を見つけた。
俺はこのときほど、夜目がきくように忍びの修行を受けていて良かったと感謝したことはない。
湖にちょっとだけ肌色が見えた。立ち上がった瞬間酒がこぼれたけど、
そんなこと気にせずそのまま湖に飛び込む。
泳いで、泳いで、掴んだ人は。

先輩」

白い顔をしていた。でも、顔まで浸かっていないから水は飲んでいないし、
息も荒くもない、でもとても冷たい体に無理やり岸まで連れ出す。
小さな体は水を含んでもやっぱり軽かった。

「どうしたんですか?」

先輩は、白い顔のまま一向に動こうとしない。
あんなに表情がある人なのに抜け落ちて人形のようだ。
拉致があかないと三郎と雷蔵を連れてこようと思う前に、

ー」と声が聞こえた。俺はここだと声を返せば、顔見知りの5年が全員揃っている。
雷蔵が震えて先輩を抱きしめ。、三郎は服を脱いで着させた。
二人とも凄く泣きそうな顔で。
そうすれば、いつも彼以上に泣きそうなるのに
彼女はぴくりともせず、ただぼうっと空に浮かぶ月をみていた。
すっと月に伸ばそうとする手を三郎が掴んで、名前を呼んでいる。
雷蔵と三郎以外の二人も泣きそうだ。いいや、俺も泣きそうだ。
きっと探し回っていたのだろう。みんな服が汚れていて、全員上の服を脱いで
先輩にかける。

ちょっとでも冷たくないように、温かくなるように。
何時間そんなことをしていたのか、先輩は少しずつ目に色が戻ってきていた。
泣きそうだった俺達は泣いていて、みんな泣いている。
その姿に先輩もじわりじわりと泣いていて、声がないけど子供のように泣いている。
今度はその姿に安心してみんな泣いた。
泣いて泣いて疲れてしまったのだろう。彼女は今三郎の背中の上で寝ている。
腫れた目が痛々しい。

「なぁ、兵助。ハチ」

「なんだ。勘右衛門」

横を歩く二人に、前を歩く二人。
俺がピタリと立ち止まったから、二人は止まった。前は止まらない。
ずぶぬれだった俺の服はどこか湿っていて気持ち悪い。帰ったら風呂に入る。
どうしたと俺の顔を見ている二人に、また再び歩き始める俺に二人とも付いてくる。
付いてくるのを確認して、後ろの二人に言うんだ。

「おかしいよな。先輩は声が出ないのに、助けてって聞こえたんだ。
だから、俺は三郎や雷蔵みたくはなれないけど、助けてあげたいんだ」

その言葉に、後ろの二人が笑った。当たり前だろう?俺達だってそうさと言わんばかりに。
俺達ができることはなんだろう?三郎や雷蔵みたく傍にいて
手を握り締めて離さないことだけが助けることじゃない。
まぁ、その前にさ。

どうしてこうなったのか聞いておこう。
そうして俺はいいや、俺達は嫌悪をこして、彼らを悪とした。
だから俺達は彼女を彼らから遠ざける。実力差?そんなの気力でカバー。
触らせない、近づけない、言葉すら遠ざけよう。
俺達の全力で彼女を悪から助けよう。

あんたらは、最低だ。の言葉を投げつけるほどの価値もない!!













2009・12・3