私がいらなくなったら殺してくれると約束してくれたから、
怖いものはなくなりました。
私は、臆病なので、力も普通の人よりはありますが男2・3人だとすぐに負けてしまうので、
声を持たない私が助けを求めることは不可能に近いので、外が怖かったのです。

降り立って、最初に男の人に押し倒されそうになったのだから、トラウマともいえるかもしれません。
私はギリギリのところを今の両親に助けられたのです。
だけれど、彼らは、私を連れて外へ行こうとします。
前は、人数が多かったから繋ぐことができなかった手をしっかりと繋いでくれていたので、
はぐれる心配がないことを一度覚えれば、彼らと共に出かけることは楽しいものでした。
何より、私も外が別に嫌いだったわけでもないし、知識以上に目で見える全てを肌で感じることに
喜びを感じていました。
雷蔵くんは、私を先輩と呼びます。
三郎くんは、私をと呼びます。
雷蔵くんは、敬語で、三郎くんは、ため口です。
本当なら、先輩であるのですから、三郎くんのほうがおかしいのですけれど、
私は、なんとなく居心地の悪さを覚えてしまって、雷蔵くんに頼みました。
敬語はやめて?その言葉に雷蔵くんは迷いましたが。彼は迷いグセがあるのです。
でも、うんと頷いてどこか嬉しそうだったから私も嬉しくなりました。
雷蔵くんは、いまではため口ですが、先輩の文字はとれません。
もうちょっと待っててずっと先輩って読んでたからと、頬をかいて苦笑していました。
私なんぞのために無理はしなくてもいいのです。と思っていれば、横からデコピン。

「私はちゃんとって呼んでいるだろう?」

と不貞腐れた三郎くん。私は彼を天才変装師と知っていましたが、
まさかここまで甘えた人だとは知らなかったので、ちょっと放っておくとすぐに拗ねるのです。
だけれど、ここまで私に甘えてくれて、しかも素顔を見せない彼が見せてくれるまで信頼されて
すっごく、すっごく嬉しいから。

私は代わりに私の全てを彼らにあげました。
私は臆病だけど、疑いしいなのです。
だから、ここが地獄で罪の途中だと言うことをちゃんと覚えているのです。
彼らに捨てられれば、前以上に愛を感じた私はもはや生きてなぞいられないでしょう。
泣いて、暴れて、どうしようもない、悲しい、そんなものを通り越して狂ってしまうでしょう。
私はそんな私は嫌なのです。それはなけなしのプライドなのです。
雷蔵くんに言えば、イエスと言わず迷ってしまうかもしれないから、
三郎くんに頼みました。
断れれば、私はそのまま海に飛び込むつもりだったのです。
だって、こんな幸せ、そうそうないんですから、このまま地獄も罪もすべて忘れてそのまま
終わらしてしまってもいいと本当に思っていたのです。
なのに、彼がいいと言ったときに涙が出たのはなぜでしょうか?
前みたく、生きているか死んでいるか曖昧なラインで生きていると思っていたのに、
私は彼らに会って、生きたいと願っていたようなのです。彼らと共に生きたいと。
彼らの全てなぞ望んではいません。
それは素敵で素晴らしく嬉しくて死んでしまいそうな夢のような話ですが、
夢は夢なのです。だから、彼らもとい三郎くんが私を切り捨ててくれるまで、
私は彼らに全てを捧げる。横目もふらず彼らだけを。
疑うのはやめました。彼らが前の彼らのように私を捨てるIFなど知りません。
だって、次はIFを見る前に本当の地獄が私を待っているはずです。

でも神様、神様。今の地獄も案外慣れればいい場所ですね。
前、知らなかったことたくさん知れました。
彼らは、私の手を握り締めてくれるんです。温かいです。泣きそうです。
前の彼らを忘れてしまうほど彼らはとても優しく、色々教えてくれます。
追いかけなくても、横にいてくれます。
喋らなくても意思疎通できなくても、私の言葉を待っていてくれます。
私がどうしたいか意見を聞いてくれます。時々無理やり連れ出されることもあります。
口を動かして音はでないけど、彼らと会って口の筋肉が痛いです。

だから、幸せを感じた私にお灸を据えるのですね。
そうですか。地獄は地獄だとちゃんと示しとかないと
他の地獄を味わっている人たちへの平等がはかれませんからね。
可哀想な神様。中間職は大変ですね。

彼らが、笑顔でまた私に会いに来たとき、私は二人がいるけれど、
前のように戻ってきたくれたんじゃないかって少しだけ期待しました。
ほんの少しだけ、期待をしてしまいました。
馬鹿な私。あの時からもはや、彼らは彼らではないのに。
私の中にある6年間という長い年月が彼らを裏切れないなんて。
にぎやかな私の部屋。昔みたいに輪になってお菓子とお茶と楽しいお喋り。
遠くから見ていたから気づかなかったこと、色々発見しました。
天女と呼ばれる人は、私の中で悪に違いない人でしたけれど、
彼女は大切だった彼らが愛したことのあるだけの人でした。
彼らが私を捨てて彼女を選んだ理由が分かりました。
彼らのせいではないのです。
全て私のせいでした。
みんな笑ってます。
輪の中にいるのは彼女で、みんな幸せそうにだから、幸せなんだと思います。
だから、「なぁ楽しいだろう?」って小平太が私に促すんです。
「ねぇ、またやりたいね」って伊作が私に笑い返すんです。
私は何人かの私を殺して、ようやく笑いました。笑わなくてはいけないからです。
私は何人かの私を殺して、コクンと頷きました。そうしなければいけないからです。
長次の後ろの背もたれに彼女が乗っています。
もう夜更けが近いから眠くなったらしいです。
そうですか。ではようやく終われるんですね。うれしいです。
私の居場所などもはやないということは分かっているのに、
なんでみんなはこんなにしっかりと私に見せつけてくれたんでしょう?
ああ、きっと私が彼女を傷つけたから、私のことが憎いのでしょう。

ふふふふ。ここはどこでしょう?でも、私の部屋に戻りたくないのです。
殺してくれると三郎さんは約束してくれたけれど、一緒に生きたいと思ってしまったけれど、
きっとそれすら罪なのかもしれません。
心がボロボロです。全てがボロボロです。私はどちらへ向かっているのでしょうか?

約束よりも、はやくもう楽になりたいと思ってしまうほど弱い私は、
声もないから誰もなにもしません。それでいいのです。
言葉が言えて助けてと叫んで、一体誰が私を助けてくれるのというのでしょうか?
まんまる満月。教えてください。













2009・12・3