彼女・は、素朴な人だった。
しかし、くのたまにもそこいらの茶店の女の子にもない、
不思議な雰囲気を持っていた。
顔も普通、成績も普通なのに、
どうして彼女の周りに6年生のはでな人達が寄って自分達のものと
言わんばかりに独占しているのか不思議でならなかった。
近くにいてようやく分かった彼女の雰囲気はどこか居心地がいい。
今の私の状態は、棚からぼた餅状態だ。
あの時雷蔵の近くにいたから彼女は私の傍にいる。
おずおずと差し伸ばされた手。おずおずと近くに寄って来る。おずおずと顔を覗きこまれる。
小動物のような彼女。
傍にいればいるほどに彼女の中毒性に気づいた。これは堪らない。
言葉を持たない彼女は、表情豊か。
ちょっと怒った顔をすればびっくとして悲しむ。
笑えば、花が綻びるかのように喜び。
悲しめば、私達以上にしょんぼりする。
楽しい、面白い、からかいがある。
それよりたまらないのは、私や雷蔵の一挙一同に全てで返してくる。
先輩達のおかげとも言ってもいいだろう。
私達がいないと駄目だと行動だけでここまで示されれば、それは可愛い。
愛しい、誰にも渡したくはない私達だけのものだ。
一週間で人の心を陥落させた綺麗な優しくて甘い天女様よりも、強力な人だろう。


彼女は一瞬。
は、一生。


だから、手を離してしまった方々にご愁傷様と手を合わせ、そしてありがとうと高々に笑おう。
彼女はもう離さない。そして彼女も離れない。

私が彼女にじゃれついていけば、彼女は顔を緩めて優しく私の髪を撫でた。
彼女のふとももは温かくて、頬をすりつける。
そのとき、つい私は本物で感じてしまいたいと思ってしまって、
髪も、肌もじかに彼女に触れて欲しいと思ってしまって、
雷蔵の格好をといて本当の姿になってしまった。
理屈では言い表せない行動だ。なんでそんなことをしたのか。理解はできないが、
彼女は、そんな私の姿に目を大きくさせて、驚いたけれど

「私だ。三郎だ」

と震えてしまった私の声に、私の掌を唇にあて、三郎と言って微笑んだ。
思わず思いっきり抱きしめてしまって、咳き込ませてしまったのは余談だが、
彼女は受け入れてくれた。雷蔵のように、いやもしかしたらそれ以上に。
だから、彼女はその後、私だけに約束したのだ。
パクパクと音もない言葉。

『いらなくなったら、切り捨てて』

そこから彼らに捨てられた絶望がかすかに匂って、
馬鹿だ。そんなことするわけもない。と思ったけれど、
私は今度は優しく抱きしめて肯定を口にする。
するっと力が抜けた彼女は泣いていて、
音もなく泣く姿がこんなにも儚い人はいまいと、崩れる彼女を少しだけ強く抱きしめた。

私は一つ真実を知っている。

天女は、一瞬。
彼女は、一生。

その真実を覆い隠して、私は絶対に放れることのない手を掴むことができた。
だけれど、私は悪いことをしただろうか?
いいや、なにもしていない。ただ泣いている子を泣き止ましただけだ。
報いを受けるのは、彼らなのだ。
彼女を悲しませたぶんだけ、いやそれ以上に彼らは悲しめばいい、傷つけばいい。

しかし、そうなったのも私ではなく、彼ら自身の問題。
因果応報。

遠くで笑う彼らと天女に、カウントダウン。
さあて、最初に気づくのは誰だろう?














2009・12・2