正直に言おう。死んじゃえと思った。
私は、が好きだ。だから、彼女を私たちから離す彼らは悪に違いない。
忍たま同士の喧嘩はご法度。でも、これは喧嘩じゃなくて殺し合いだから、
いいよね?彼らはね、私達の踏み込んではいけない領域を侵したんだから。
小平太って、長次の後ろで笑う。大丈夫だ。
すぐに私達が向かいに行ってあげる。



ああ、駄目だな。僕は。いつもの笑顔すら出せない。
けど、みんなそうだ。不破と鉢屋の言葉に、ずきずき胸が痛むんだよ。
でもね、違うんだ。僕は、話を聞いてくれるから傍にいて欲しかったわけではないよ。
だから、傍にいて欲しかった。怒っているのは僕らだけじゃなくて彼らも、
何を怒っているの?は最初から僕らのもので、それを横から盗んだんじゃないか。
盗みは駄目だよ。許せない。愛している?愛されてる?何言っているの?
そんな嘘ありえないよ。でも、ぐさりぐさり、言葉がくないのようにさっさってくる。
こんなことなら、あの時、さっさとの名前を呼んで手を掴めばよかったな。
僕は、戦闘あまり得意じゃないんだよ。



寒い。寒い。寒い。心が寒い。が俺達の傍に来ないことがこんなにも寒い。
一人になって、冷静になって、俺達が間違えて俺達がいけないことをしたのは分かっているんだ。
だって、俺は、あの人が天女様が来てから、と喋ってないし、に会いにいってもいないし、
をちゃんと真正面から見てもいない。は奪われたんじゃない、俺達がを捨てたんだ。
そう、言おうとしたけれど。
と彼ら二人の姿を見たんだよ。用具の部屋からそっと見えたんだよ。
彼らが言っている言葉を嘘だって、伊作は思っている。みんな思っているだろうけど、
俺は、それが真実だと知っている。は、俺達といたときよりも幸せそうで、嬉しそうで、
彼らを愛しているって言うのが伝わってきたんだ。そして、彼らも。
ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。そんな言葉が俺の中をしめた。
俺達は、を守っていたんだ。大切だから、愛しいから。
だから、は俺達以外にとられることなくて、いいや、頭のどこかで、誰のものにならないことを
望んでいた。三人を見たときに、ようやく気づいた自分の気持ち。
6人で守っていた。けど、本当は俺だけを見て欲しかった。
小さな細工を作れば、凄いって喜んでくれて、裁縫があまり得意じゃないのに、
繕ってくれた小物の袋大事にとってある。頭を撫でればくずぐったそうで照れて、
名前を呼べば微笑み返してくれる。
。二人がいなくなれば、お前は戻ってきてくれるか?
そうしたら、6人から一人になれるように頑張るから。
だから、俺は真実を奥へとしまいこんだ。



真実に気づかないバカタレ、6人。
田村から潮江先輩、目を覚ましてくださいと言われ、周りが見れた。
しかし、見てなんの意味があるというのか。
あったのは、を傷つけたのが俺達で、を守ったのが彼らだという真実。
先輩。先輩。僕は、嫌いになりきれません。だから。と懇願してきた田村を振り払って、
俺はみんなと奴らと対峙している。
言われた言葉に、唇を噛み締める。俺達はバカタレである。
おのおのの武器を振り上げて、彼らを傷つけて、どうなるというのだろうか?
が帰ってくる、なんて甘い幻想を俺も少しは抱いていたけれど、
俺の頭の中には、泣いているしか浮かばんのだ。
俺は動けない。奴らと一緒に攻撃することも止めることも出来ない。

なんて、バカタレ。
なにをしても、は俺達に笑いかけてはくれないだろうと絶望だけを味わっている。



なんて、言い草だ。私達の大切な、いいや私の大切なを、
愛しているだと?愛されているだと?勘違いも甚だしい。地獄に落ちろ。
お前らの知っているなど少しの間だけだ。
私達の方が長い間知っている。それをあたかも全て知っていますとの顔が憎らしい。
お前らさえいなければ、は目が覚めて、帰ってくる。
なぁに、少しばかしお灸を据えて、もう離れるんじゃないぞと抱きしめれば、
泣いて笑って、胸の中に閉じ込めておける。
そうして、元通り。お前らの入る隙間などなくなるのだ。
ははははは。うん?おい、文次郎。なにを突っ立っている。動かないか。
まったく、あいつは木偶の坊だ。
ふん、大方言葉でかどわかされているのだろう。しっかりしないか。最上学年である私達が
このくらいで迷ってどうする。三病だぞ?それの十八番は、相手の不破だ。

さて、はやくこいつらをやっつけて、に会いに行く。
きっと私をみて笑顔に違いない。ずっと奴らに捕まって怖かったに違いない。
まずはいい子いい子してやろう。



静かに、がいなくなった。最初から、がいたかどうかすら怪しい。
でも、出会った当時からはそうだった。軽い体は、後ろにいるか分からなくて、
音のない体は、存在が分からなくて、気づくのはいつもみんなが着てからだった。
の特等席は私の後ろで、彼女は本を読んでいて、私も本を読んでいた。
会話がなくても通じ合えて、とても居心地が良かった。彼女もそうなのだろう。
長い間そうだったから。声など私達の間にいらなかった。時々筆談して、
時々日向ぼっこをする。そういう間柄だった。
だから、が盗まれたとみんなが慌てたとき、私の心は静かな平原から吹き荒れた嵐のようで。
いつ、がいなくなったのか、私には分からない。
いつ、が彼らの元へ行ったのか、私には分からない。
声がないからだ。いいや、そんなこと言い訳でしかない。
私達の間に、声など不要だったからだ。つまり、私が彼女の声を無視していた。
それだけのこと。しかし、壊れてしまったものは直らないだろうか?
そんなわけはない。彼女の気持ちをちゃんと理解できるのは自分だと胸を張れるから、
そんなわけはないのだ。

そして、それは彼女の会うまでの間の私の気持ちだった。
人の気持ちが、文字のように止まっているわけなどないことを知っていたはずなのに、
はそうであると勘違いをしていた。













2009・12・6