口は災いの元と言いますが、その災いにより死んでしまいました。
元より、死んでいたのか生きていたのか曖昧だったので、
死んだことに悲しみも生きていたことに執着もしなかったのです。
明日も、また繰り返される今日を信じてはいましたが。
けれどこの展開は考えていませんでした。
ええ、天国とか地獄とかそんな世界の方がまだ創造しやすく言い伝えにもあるくらいなので、
そっちのほうがよほどリアリティーがあると胸を張って言うことができます。
でも、どこかの村で昔の記憶を持ったまま生きている人がほとんどなぜ?
みたいな伝記もあるくらいですから、生まれ変わって記憶を持っているくらいならまだ考えの範疇なのです。

今の私は庵に座って、パチパチも燃え盛る炎をじっと見つめています。
「もう、少しまっておくれ。。すぐにご飯が出来るからね」

。その格好じゃぁ、寒かろう。わしが服をこうてきたんじゃ。ほれ、ああ、お主にようにおうておる」

死んだときの私が着ればパツパツな服はぴったりで、目に入ってくる手は小さく
しかし、ボロボロで硬くなった手でした。

「それで、。忍術学園は楽しいかい?」

私はその言葉にコクリと頷いた。
私の名前は、。私を拾ってくれた優しい人につけられた。
少し縮んだ身長と同じ顔に前の記憶をもって、戦乱の世に、
言葉を失くして存在している。
私は、そんな存在でしたけれど、言葉のないことに別段苦労などありませんでした。
筆談も出来るし、意思疎通をはかれる人もいるのですから。
人を騙すことが前の世界で一層嫌いになっていた私は、忍たまから唯一無害なくのたまとして
向かいいれてもらったので、私は安心して彼の元へいれた。
図書室の、無口な、落ち着いた、大きな背中、そこの背中にちょこんと背を向けて、
静かに紙の感触を楽しみながら文字を追って、
時には、色々な彼の友人が私にかまう。
仙蔵が、髪とか美容とか作法とか教えてくれる。
文次郎が、訓練とか忍びとかお金の計算を教えてくれる。
小平太が、色々な綺麗な場所とか体を使った遊びを教えてくれる。
留三郎が、細かな細工の作り方とか美味しい店とか後輩のことを教えてくれる。
伊作が、今日会った不運のこととか、ちょっと嬉しかったこととか教えてくれる。
たわいもない日常だったけれど、人が信じられなかった私は、彼らを知り、彼らと関わるうちに
愛情が芽生えていたのです。塵が積もれば山となる。
些細な報告を毎日、毎日時に罵倒し、喧嘩し、笑い合い、泣き合い
徐々に大きくなる愛に、私は自然と笑えるようになって、彼らも笑っていたから、
私は彼らも私と同じで幸せなんだろうと勘違いをしていました。


世界が変わった日。


私は不在で、その間に降りてきた人。彼女は未来人。いいや、人曰く「天女」と称され、
綺麗な肌に髪に顔に考えに、優しい笑顔と思考と性格。
誰もが彼女に夢中になった。そのなかにみんなと彼がいたけれど、
当然だと。ポツンと遠い所から一人立って見ていました。

このときほど私は自分が言葉を持たなかったことに感謝したことはありません。
私は聖人君子でもないし、欲深く、嫉妬深くもあって、友達を全員根こそぎとられたことに
無関心でいるほど強くもなくて、静かに涙を流して顔が歪むだけならば、あちらしか見えていない
彼らには見えないことでしょう。

徐々に私がいた場所は彼女の場所へと変わっていきました。
徐々に私の元に彼らが来ることがなくなりました。

私は、彼女を苛めるようなことは出来ません。たとえ、身を焼くほどの嫉妬や妬みを抱いても臆病者で、
彼女を苛めて彼らに嫌われることを恐れたのです。
くのいちのように情報操作や毒とかもあまり得意ではなかったので、
私ができることと言えば、幸せそうな彼らをみないことだけでした。
部屋に篭って、本の世界に飛び込む。それだけが、私の逃げ道だったのです。
ポンと何冊目か分からない本を捲って、懐かしい字を見ました。
言葉が喋れない私が、筆談で話しかけたときに、言葉が喋れるはずの彼も、筆談したときのものです。
つぃーと黒い墨で書かれた文字を触りました。
乾いて紙に染み込んだ文字は、私を切なく苦しくさせる。
だけれどどうしようもないことなのです。
それは私がここに初めて来た時と同じで、両親がいてくれたから私は生きていれました
涙が止まりません。彼らが私を除いた幸せを見るのがつらくて、目を逸らしているのけれど、見えてしまうものは見えてしまう。

彼ら以外の人を見つければいいと分かってますが、人見知りである私。
何も持たない私に、人なぞ付いてくれわけもない。
彼らだけだった、いいや彼らも彼と一緒にいたから私を仲間にしただけなのでしょう。
だって、こんなにも簡単に離れてしまうのだから。














2009・12・1