誰かが歩いて小石を蹴りました。
小石は人差し指でもてるほど小さな小さなものですが、
偶然と偶然が重なって、世界が変わりました。
過去も未来も現在もたった一つの石ころで変わってしまったのです。


「また、明日」がこないのなら、最初からやり直せば良い。
今度は守っている側ではなくて、奪う側で。


外からは運動部の声が聞こえた。
自身の友人の大きな声が一番響いていて、何もかもあの時代と変わらない事に
文字が連なっている本から顔を上げ、後ろを向いた。
感覚がない背中は、冷たいパイプ椅子の背もたれに寄りかかっていて、
後ろに誰かがいるはずもなく、当たり前だ。
私達が離したのだから、私達が。
昔と変わらずに記憶がある私達はこの世界で変わらずあり続けたけれど、
たった一人だけ、いなくなっていた。

高校でみんな集まった私達が最初にしたのは、全クラス回って、名簿をみて、
一人の少女を探すことだった。
しかし、少女が現れることなく一年がたとうとしている。
このごろは、少女は私達の夢だったのではないかと思い始めていた。

ガラリ。図書室を開ける音が響いた。
珍しい。今は夏休みで、図書室を利用する生徒などごく稀なのに。
熱いから、窓を開けていた。うす青色のカーテンは自分がここに来る前から
備わっていて物で、バタバタと揺れるのを感じて、
私は、入ってきた人物に目をやった。

『こんにちわ。あの。ここはどこですか?』

と真ん中で小さく可愛い文字で書かれたスケッチブックは、少女の姿を半分隠した。
くらりと眩暈がする。もしや。もしやと、
胸は早鐘のようにドクドクと鳴り響いていて。
実際あった過去で、少女と私が一年のときの出会いとまったく一緒で。
小さな体の少女は人見知りでもっと体を小さくさせて、
泣きそうなのに、ちゃんとしっかり目を見るその姿。
私が、沈黙していれば、目の前の少女が、スケッチブックから顔をひょっこり出した。
ああ、ああ。神様、神様。
全細胞が喜んで、全身に電撃が走ったようだ。

同じようにノートに字を書く。

『はじめまして、ここは図書室です。私の名前は中在家 長次。
あなたの名前はなんというんですか?』

私は、また、あの日のように、一目ぼれをした。


さぁ、もう一度、はじめましょう。
今度もノート一杯に文字を書こう。
一緒に書きあおう。今度は、その文字の中で泣くんじゃなくて、
笑いあいましょう。













2010・1・4