今日、小春さんが を連れて来るそうだ。
そう言ったときの仙蔵は、にやりと笑みを浮かべていた。
。前歴代のくのたまの中でも最高と謳われる「天才」
前々から興味はあったが、 は、あまり会う機会がないくのたまの中でも特に会えない人物で、
4年生だというのに一度も会うことがなかった。彼女は功績の噂だけで終わるはずの存在だった。
しかし、事は転じた。天から降ってきた小春さんという存在。
俺は最初、怪しい不審人物で、敵の間者か何かかと疑ったが、観察すればするほど、
彼女からは何もなく、普通より変わった娘ぐらいな程度であった。
しかも、俺よりも観察眼があり、警戒が強いはずの仙蔵までも懐いたのだ。
そして、一番彼女を信じてもいいと思ったのは、くのたまからの敵である報告書を否とつけ、
信頼がおけると言った人物それが、 だったからだ。
小春さんは、 と友人になり、明日連れてきてもいいかといったときの、
俺の心情は、有名人に会う気分で、仙蔵も笑みを浮かべていたのだから興味はあるだろう。
それどころか、仙蔵は、一方では、男嫌い、もう一方では、利吉さんの恋人だと言われている人物に
小春さんの真相、くのたまや因縁、ことの真相を色を使ってでも聞きだすつもりだった。
くのたまで私に落ちない奴はいないと豪語した仙蔵のことを俺は笑えない。
なぜなら、長年傍にいて、こいつが本気を出して落ちない女はいなかったのだから。
小春さんがちゃんと呼ぶたびに、勝手に背筋が伸びる。
くのたま最高と呼ばれる 。徐々に聞こえる声に、徐々に見える姿に、
心の底から叫ぶ言葉。嘘だろう!!!!
俺だけでなく、二人もそう思ったらしい。全貌をみた瞬間、目を見開いていた。
俺の想像では、いつでも気を張り詰めていて、隙なんかまったくない、無口で愛想もないごつく
かっこいい容姿をしていた。しかし現実は違った。
ゆるい軌道を描いた長い髪は、大きな三つ編みとなって前に流しているが、所々髪が出ている。
薄紫色の着物はきちんと着れていないで、ちょっと乱れている。
身長も想像したよりも大柄ではなく小柄で、大きいと思われる瞳は、ぼんやりと開いているだけで、
小さな口はだらしなく開いている。小春さんに手を引かれてようやく歩いている状態な彼女が、
あの であるはずない、というか違うといって欲しかった。が。
「あ、この子が前話してた、 ちゃん」
俺の何かが崩れた。
遠くからを見る。のんびり周りを見ながら歩いている少女は、危なっかしく人にぶつかりそうな所を
ギリギリ回避している。近くに来た、留三郎が耳打ちした。
「本当に、アレが かよ」
「・・・・・・そうみたいだな」
あ、人にぶつかった。
あれがそうだなんて、少し尊敬してたなんてとため息を吐く俺の横で仙蔵が、
キラリと目を光らせていたのを俺は知らない。
未来から来たという小春さんのほうがまだマシだと思えるほど、彼女は規定外だった。
「色気がない」
そう言ったときの仙蔵の顔は凄かった。俺たちが恐れおののく顔をしていたが、
さすが天才というか、鈍いだけな気がする。
どうにかこうにか、納まった場は小春さんによって壊された。
この中で一番誰がタイプ?
そして、俺を指した。何のつもりだと不信感を抱きながらも、
尊敬していた所もあり、好意を持たれて嫌がる奴などおらず、
少々、本当に少々嬉しかった。が、奴はどうやら仙蔵をからかっているだけだったらしく、
にんやりと笑っていた。女か?と疑うような顔をしていたが、仙蔵は人かと疑う顔をしていた。
「噂は信用ならんな」
部屋に帰り、帳簿をつけながら強烈な印象を与えた のことを話題出す。
同室である仙蔵が変な顔をして俺を見た。
あのネバネバしっとりな一年に会ったときのような顔をしている。そんなに苦手なのだろうかと思えば。
「留三郎ならしょうがないが、まさかお前まで気付かなかったとな」
「どういうことだ?」
「今日 は三人の男にぶつかり、また三人の男にぶつかった」
それだと、男六人にぶつかっただけでいいだろと、思いながらもその言葉を反芻する。
「前者がスリで、後者がすられた方だ、意味は分かるだろう」
ゴクリと喉が鳴った。 。あいつは、見られているというのに、
誰にも気付かれないように、スリをした相手からスル仕返し、なおかつ元の人間に戻したということか。
「噂は正しいと言うことだ」
そういって布団に入った仙蔵はどこか楽しげであった。
俺は、今日「天才」にあった。
絵の描いたような天才ではなく、とてつもない食わせものだった。
2009・10・1