お願い。ねぇ、いかないで。いかないでよ。
私はあなたのこと大好きだよ?それじゃいけない?
多くを望むなら、多くをあげる。
私の全てをあげる。
前の世界の未練なんて、あなたがいればまったくないよ。
それほどに、いつの間にか好きになっての。
そうさせたのは、あなたなの。
それなのに、どうして?
どうしてなの!!
ねぇ、あの子は、あなたのこと忘れようとしている。
あなたを好きだったこと、
あなたに嫌われたこと、
あなたを嫌ったこと、
全部忘れて無関係になろうとしてる。
あなたは、あの子を嫌いなんでしょう?
それなのに、邪魔するなんておかしいよ。
最初から今までずっと言い続けてたよね。

―――嫌いだって。

嫌いなら、どうして、そんな顔してるの?
嫌いな子が、人に好かれることがあるってことが理解出来ないの?
違うよね。
そんな顔じゃないもの。
凄く傷ついた顔してるもの。
ねぇ、気づかないで。
気づいても進まないで。
私がいるから諦めて。私が好きでしょう?
ってずっと考えて、彼が来たら言おうと思ってた。
そしてその時が来た。
喜八郎くんは、相変わらず表情が読みにくい顔をしている。
私は笑って、いつもどおり彼を向かい入れた。
彼の言葉、音、全部愛しいのに、今は突き刺さる刃にしかならない。

「滝夜叉丸くんが入れ知恵をしちゃった?」

「・・・・・・さようなら」

私の質問にも答えないで、背中を向ける喜八郎くん。

「お願い。いかないで」

一杯考えてた言葉が、最初のたった一文に変わった。
伸ばした手は振り払われることがなかったけれど、
掴まれることもなかった。
私の掴んだ力が徐々に弱くなり、自ら離すと、彼はそのまま行ってしまった。
彼がいなくなって一人の部屋で、涙が流れることもない。

だって、最初から私、
―――――愛されてないもの。

いつのまにいたのか部屋には、滝夜叉丸くんがいた。
大の字で寝転んでいるけど、もう身づくろいする気力がない。

「あのままだったら、どちらも辛かった」

「辛い?バカ言わないで、私は愛されていて凄く、幸せだったの。
たとえそれが偽物でも傍にいてくれれば良かったのに、
どうして、分からせちゃうかなぁ」

滝夜叉丸くんに、恨み言を言いながら、本当はどこか安心もしていた。


本当は知ってたよ。
あなたの嫌いが、好きだってこと。
私に、好きも嫌いもなかったこと知ってたよ。
彼の世界には、あの子しかいなかったこと。

だけど、どうにかなるなんて夢見てしまった。なんて馬鹿な私。
ああ、神様。恨みますよ。
どうして私を彼等に出会わせてしまったんですか。
今なら、こっから消してくれても構わないなんて思えないほど、
喜八郎くんもそして、彼女――― ちゃんも好きなんです。

大好きなんです。

それで、私、ようやく涙を流せた。









2010・11・3