世界の全てが一色だけなら、僕は君にあったときなんて言っていいのか困っただろうね。
そんなことを言って笑っていた人が、随分昔に記憶にある。
随分メルヘンチックな人だと、照れる頬を隠したのだけれど。
私もこれからそういう感じになるのだろうか。
それとも、うちの馬鹿夫婦のように、ダーリンハニーと言い合い、
毎日ノロケて、一目違う人を見ようものなら、浮気酷いわ。と変な茶番劇を
し始めるのだろうか?彼と私を想像して、どちらとも当てはまらない気がする。
そういうものかもしれない。
恋の形は千差万別で、色々あるんだ。
その中でも、私はこれから始まるであろう恋の形が、
そんなに悪いものじゃないことを妙に確信が持てる。
利吉さんは大人で格好いいし、面倒みもいいし、優しいし、時々妙に年相応。
不敵に笑ったり、薄ら笑いをしたり、口元だけ上がっていたり、
笑いだけで色々な種類が浮かび上がってくるほど、よく見知った相手で、
あっちだって私のことよく分かっている。
忍術の腕もいいし、相性もいい。
利吉さんと共に歩むことは+だらけで、え、なんで今までそういうことに
なることを考えないで、綾部くんだったんだろう?
と考え込んでしまうほど、魅力的な相手で、
・・・・・・本当おかしい。そんなおかしな私をずっと待っていたんだ。
綾部くんと小春さんが恋人になった時、そうなればいいと思いながらも、
そうならないで欲しいと本当は思っていた自分とか、その後も女々しく忘れられず、
せめて傍にいたくて友人であろうとした私を、幻滅しないで受け入れてくれた。
器の大きい人だ。
あ、なんだか。涙がこみ上げてくる。
4年間長いのか短いのか分からない間。忍術学園にいた。
色々なことを体験した。
そしてその1年のちょっとの間に、恋をして、失恋した。
私を最初から、嫌いだって言っていた人だった。
私も最後には嫌いだって言った。
彼のは本当で、私のは嘘だった。

ふぅと息を吸い込んで、私は荷物を持つ。
ずしりと重みを感じる。これが、私が4年間生きていた証の重さだ。
荷物をとり、がらんとした部屋を一回見て、
「さようなら」を言った。ここに戻ることはもうないだろう。
そういえば、小春さんとか三木とかに挨拶してない。
でも、利吉さんの言った時刻は、結構近くて、
気持ちの整理と荷物の整理で終わってしまったのと、
三木は会計委員会で、徹夜しまくってるし、小春さんは姿がみえないし、
あとで、手紙でも書こう。
それか、利吉さんに頼んで、また訪れるのもありだろう。

よし。心の整理はついた。

私は、門で待っているだろう利吉さんの姿を思い浮かべながら、
外へ出ていく。
どうしよう。利吉さん見たら、最初に照れるかもしれない。
だって、口づけとかされちゃったし、ううーん。恥ずかしいなぁ。
でも、夫婦になるんだから、これくらいのことで恥ずかしがってたら、
キリがな・・・


台詞の途中で、私は穴に落ちた。










2010・08・29