私だけが知っている話でした。
私だけが最後まで見ていました。
私だけが彼を助けることが出来ました。
私が、天才だから、美しいから、全てが神に遣わされた芸術品だから
とは、無関係に。
私の腕を掴むものは、泣いてしゃがみこみました。
そのかわりに私の腕を誰かが掴んでいます。
この物語の終りはなんでしょう?
この物語の選択はどこなんでしょう?
それは、きっと私です。
私が二人を見つけたときには、
小春さんは泣きはらした顔をして、喜八郎の袖を離すまいと掴んでいた。
喜八郎は、袖を持っている小春さんのことを気にもとめず、地面ばかりをみていた。
なんでこんなことになったのか、部屋で彼を問い詰めようと機会を伺っていると。
「滝」
彼は私の名前を呼んだ。
「なんだ」
「私は嫌だ」
拒否だけの言葉に、頭をかしげる。
4年間、一番近くにいたと言うのに、時々こいつの言っていることが分からない。
「何がだ?」
「なんだろう?」
「なんだろうって、私が分かるわけがないだろう。
それよりも、なんで小春さんは泣いていたんだ」
「泣いていた?・・・ああ、そうだね。彼女は泣いていた。それは私のせい」
「だから、なんでだって聞いているんだ!!」
「男がいた」
突拍子もなさすぎる言葉に叫びたくなったが、
喜八郎の、確実に気落ちしている顔を見て、大きく開いた口を閉じ斜め下を見る。
「告白していた」
「誰に?」
「に」
「・・・・・・」
「男は、泣いて、も泣いていた。
そしたら、小春さんは泣いていた」
「待て、しばし待て!」
切れ切れの情報を、懸命にくっつけ、
解読も得意な優秀な脳をフル回転させた。
「に、男が告白して?男とと小春さんが泣いていたと。
そして、小春さんが泣いていたのはお前のせい。
が告白されて、泣くとすれば、利吉さん」
名前を言えば、喜八郎から、殺気が膨らむ。
目が、カッと見開かされて、正直怖いが、
ぐっと耐えて、私は言葉を続ける。
「利吉さんが、に告白しているのが嫌だった?」
喜八郎は、その問いに沈黙した。
それは、肯定と同じ意味なのだが、彼を普通と同じように考えてはいけない。
彼は、肯定だと知り得ていないのだから。
知らなければ、気づかなければ、否定にもなりえる。
だって、こいつは、を今でも、「大嫌い」だと思っているのだから。
私は、一回大きく深呼吸した。
きっと、これが最後の助けだろう。
そして、これが運命を別かつ。
彼らのゴールはもう目前で、喜八郎が動かなければ、何もしなければ、
全て幸せで、大円満である。
しかし、それは隠された幸せだ。
タカ丸さんは、それでも幸せなら、いいと言った。
三木ヱ門は、が幸せなら、いいと言った。
なら、私は?私はどうなのだ?
私は、目の前の、今、ようやく気づきかけている友人を見る。
友人は、殻をつけた雛のようで、自身の気持ちに振り回されている。
たった一つの単純で、簡単で、美しい響きを持ち合わせた単語を、
本当の意味で使うことが出来ない不器用な友人。
その不器用さが、私にはないので、その愚直なまでのまっすぐさも私にはないので、
彼がちょびっとだけ羨ましく、もどかしかった。
だから、
私は。
私は、喜八郎が、幸せなら、いいと思った。
たとえ、その先がなんであれ。だから、この言葉を贈ろう。
「喜八郎。選択の時間だ」
物語は、いつでも最後は、end。
これは、なんのendなんでしょう?
きっと、Happy End。
お姫様の相手が違うだけの、Happy End。
2010・5・21