桜が、何回咲いて、何回散っただろう。
最初に持っていた鋤は私の体には、小さすぎて、大きく変えなおした。
穴が自分の武器になり、それ以外の罠の種類が増えてた。
変わったこと、変わらないこと。
穴は、芸術であること。
二種類だけが世界を占めていること。
それから、時々、あの場所に穴を掘り、空を見上げること。
大きくなって、知識が増えて、体力が上がっても、
世界が、違くみえることはなかった。
何がいけないのか、分からない。
なんで、変わらずに、彼女の姿を探しているのかも分からない。
よく見かける彼女の背中は、二人だった。
それが、いつのまにか、三人になった。
男が一人増えていた。楽しそうに談笑が聞こえて、
穴の中にすっぽり埋まってみる。
胸の中に、イガイガしたものがあるけれど、
その日食べた唐揚げが、当たったのだろう。
空を、見上げれば、いつもと同じ。
まあるい切り取られた空。
その日も、穴の中に埋まって、世界が変わる瞬間を待ちわびていたけど、
ちっとも変化しない。
帰ろう。と穴から出る前に、近づく気配に気づいて、
穴に戻る。
「だから、羊羹の甘さは」
遠くからいつも聞こえた声が、徐々に近づいてきて、
なんでか、心音が大きくなり響く。
一、二、三、四、五。
あと、数歩で、穴に来る彼女は、
「。そっちは、危ないよ」
男の声に止められて、歩みが止まり、
「ああ、ありがとうございます。利吉さん」
そう言って、足音と、声が遠のいていく。
全然聞こえなくなって、穴の土をじっと見つめて、ポツリと冷たいものが、
頭上に感じる。上を見れば、雨つぶ。
三人の背中は、女の先輩が卒業したから、
二人の背中に変わった。男と女。二人。
チリチリと焦がれる。
ああ、なるほど。
今、世界が変わった。
彼女は、私を見ない。
私ばかり、彼女を見てる。
彼女は、背中ばかり。
私ばかり、前を見せてる。
彼女は、私を考えない。
私は、彼女を考えてばかり。
彼女は、穴にいない。
私ばかり、穴に入る。
彼女は、三人。
私は、一人。
私ばかり、声を探してる。
私ばかり、ピンクを探してる。
私ばかり、三つ編みを探している。
私ばかり、私ばかり、私ばかり。
私ばかり、彼女を探してる。
体の中から溢れる、自分じゃ制御できない熱さと寒さ。
それは、なんだろうか?
二種類しかない私の答えは?
――――――――――嫌い――――――――――
嫌い。嫌い。嫌い。嫌いで、嫌いが溢れ出す。
私は、彼女が嫌い。
が嫌い。
それが分かった、私がすることは、彼女に「嫌い」と言いに行くこと。
だって、私はずっと苦しんだ。
嫌いなら、彼女も私と同じ思いを感じるべきだ。
「嫌い」
それを、言って彼女は、
ようやく、彼女の声は、私に投げかけれられた。
ようやく、彼女の瞳は、私を映し出した。
ようやく、彼女の髪を、触れることができた。
ようやく、彼女の声は、私を呼んだ。
ようやく、彼女の瞳は、少しだけ丸じゃなくて半月になった。
ようやく、彼女の髪が、柔くて、心地よいことを知っていた。
それで、満足。円満解決。
「だから、私は、 が大嫌い」
そういえば、滝が頭を抱えていた。
なに、とうとう頭がバカになった?
それから、小春さんの声が聞こえたから、前へ進む。
後ろで、滝の声なんて知らない。
「それで、どうやって、嫌いになるのか。
それにしても、喜八郎は、
かなり前から、 が、大好きだったなんて」
そんなこと、知らない。
2010・4・17