自分で言うのはなんだが、私は買いな男だと思う。
忍びとして腕はいいし、頭だって悪くないし、使うものがないのでお金の蓄えだってある。
顔だって悪くはないだろう、多くの女性から告白をされているし。
そんな私、利吉が、今多大に頭を悩ませているのが 。
彼女のことを一晩でも語れる自信はあるが、
簡単に言えば、とても、とても可愛らしく慎み深く、ずっと傍にいて欲しくなるような人なのだ。
つまり嫁に欲しいということだ。
残念なことに私のアピールはものの見事流され、頬は赤くなるものの、嘘ばっかりと笑われる。本気なのに。
どんなことすれば、気づいてもらえるのだろうか。
ああ、こんなふうになるとは、一年前は考えても見なかった。
彼女と出会う一年前。至極簡単な任務があった。
一週間いや、二、三日あれば終わってしまう程度のものだった。同時に、面倒臭いものでもあった。
任務に恋人役が必要不可欠だったのだ。
こういったことはたびたびあり、そのたびに辟易してしまう。
私の相手役となった彼女らは、恋人ごっこと本当の恋人と履き違えてしまう。
父上に言わせれば、相手をコントロールできずして一人前ではないし、お前もそろそろ年なのだから、
嫁をつくって孫の顔でも見せろとそんなところだ。別に恋人がいなかったわけではない、何人もいたが
仕事をしていれば続かないし、何より愛より恋よりも忍のほうが自分にあっていた。
だからこそ、任務の色は面倒臭いもの、他ならなかった。
しかし、一度請け負ったものを断るわけにもいかず、忍術学園で、同行してもらう
くのいちを頼みに行くと、前回も引き受けてくれたきつめ美人の子・譲葉となった。
この子は、天変地異があっても恋人にはならない、が恋人ではないことがばれるリスクがあった。
なぜならば、男が嫌いというよりも・・・「先輩」と譲葉の横で裾を掴んだ少女が、怪訝な顔で私を見ていた。
背が低いその子は当然上を向くわけで、譲葉はその姿に頭をなで、顔を崩し、口元を隠していた。
ほのぼのとした後輩先輩の光景は、前回の任務のときに譲葉という人物を知る私にとっては、
蜘蛛が蝶を捕まえる図に見えた。口元を隠しているのだって、よだれを隠すためだ。
そう、譲葉は、男が好きではなく女が好きなのだ。
女が横切るたびに、私そっちのけで好みの女に行ってしまうこともたびたびあった。
どうやら、その少女がどんぴしゃりなタイプなのだろう。あの時の女を毒牙にかける瞬間よりも
顔をほがらかにさせているし、少女の髪がボサボサになることも気がつかずになでまくっていて、
「この人が利吉さんだよ」と紹介される頃には、少女の髪は当初よりも膨れ上がっていた。
哀れだとの印象は口を開いたことで覆された。
「もしかしなくても、あの利吉さんですか?」から始まり。
「・・・・・・本物?」
「いえ、山田家の遺伝子を甘く見たら、痛い目にあう」
「証拠を見せて下さい。はい女装」まで、させられた。
女装姿をみて、譲葉は心底悔しそうな顔をして、性別さえ性別さえ違ければ。と呟き。
少女は、逆転の発想か。いやもしかして、昔は似合ってたのかも。と考え込んでいた。
なんでこんなことになったのか、すでに父のせいだと分かったが、
山田の息子と言ってすぐに信用してしまう女よりは、疑い深い少女のほうに好感を抱いた。
少女は幼いながらに、忍びらしくあった。
だからだろう、それから学園へ行けば少女を構うようになったのは。
少女に会うたびに、知るたびに色々な物事が吹っ飛んだ。
例えば、
「雲って食べたら甘いんですよ。まるで砂糖菓子のようです。だから、雨も甘いはずなんです」
と、お土産にあげた飴をほうばりながら、雨を舐めてその後やっぱり正解ですと喜んだ。
「人がゴミのようだ。ってか奴はゴミだ」
町に出かけてお祭りで人が多くスリにあいそうになり助けたときの一言。
「前々から思ってたんですけれど、先輩と利吉さん性別逆にして任務いったらどうですか?」
譲葉が軽く少女を口説いているときにいった一言。
忍びらしい子から、変な子に変わっていくのは早かった。
道中、思い出しながら少女のふて腐れた顔を思い出す。
ふと、見えた風に揺れめく旗につられ店に入れば。
「ういろう、じじいに食べられたって嘆いてましたわね。あの子」
いつの間にか、笑顔の譲葉が傍にいた。
「ふふふ、この腐れ色男が、こんな二束三文の物やって
私の可愛い子をぺろりと平らげちゃうのかしら。まぁ、怖い。殺すわよ」
「ああ、でも無理ね。どうやっても落とせないわ。私が落とすから」
「でも、死ね腐れ色男。あなたでもそんな顔が出来るのね」
嵐のように、まくしたてあげられ、一言すら喋らさず横の金平糖を一袋買って去っていった。
なんだったんだとか、段々悪口のレベル上がっているとか、最後の言葉の意味が分からないとか
色々な思考の渦におちいりながらも、話題の渦中の人物にういろうをあげれば、
花が咲き綻んだように笑うのだ。
そして、自分は最大のダブーを犯す。見てしまってはいけないものを見てしまったのだ。
最後の言葉を分かろうとして取った行為、好奇心は猫をも殺すというのに、まるで鶴の恩返しのようだ。
私は、池の水面に浮かぶ自分の姿を見てしまった。
そしてそれ以来、少女に会えなくなった。
2009・9・28