えへへと可愛らしく頬を染める小春さん。
横で、じぃっと私を見つめる喜八郎。
二人の言った言葉が分からなくて、
「もう一度言ってくれますか?」と確認してしまった。
この、天才秀才で華麗な滝夜叉丸が自分に非があると思ったのだ。
自分の耳が少々おかしなことになってしまっていると。
しかし、今度は喜八郎に言われた二人の変化した間柄に、目が霞んだ。
横には、三木ヱ門もタカ丸さんも、そして もいた。
喜八郎。お前はなんてことを。唇が震えて、
そのすました顔に一発殴ってやりたかったが、小春さんがとても嬉しそうに
彼の腕に腕を絡めている姿を見て、手を押さえ、
良かったな。としか言うことが出来なかった。



二人の報告から、私達三人は誰がいうこともなく集まっていた。
しーんと、静まりかえったタカ丸さんの部屋の中で、
私と三木ヱ門と部屋の主であるタカ丸さんが座っていた。
皆、目の前にはお茶が置かれていたけれど誰も手をつけていない。
もう、すでに冷たくなっているだろう。
そんなことを、ぼんやり考えていた。
現実逃避なのか、頭の整理をつけたいのか、よく分からない。
その部屋には、静寂しかなく、誰もこのまま喋らないままで終わってしまうのも
一つの手だと思ったが、タカ丸さんの声が響いた。

「小春ちゃんと、喜八郎くんは付き合ったんだって」

知っている。私達の目の前で言われたことだ。
みんな知っていることを確認するように繰り返す。

ちゃん、祝福してたよ。良かったね。って笑顔で」

そのときの顔は私もみた。見なくてはいけないと思ったのだ。

「僕ね、ちゃんと喜八郎くんが一緒になれば幸せだろうなって思ってたんだ。
みんなもそうだよね」

タカ丸さんの確認に答えるものはいない。
しかし、答えないからこそのYESもある。
コトンと、タカ丸さんは冷えたお茶の入った湯のみを手に取った。

「おかしいよね。本当、間違ってる。でも、いくら僕らが気づいたって、
本人達が気づかないと、意味がないんだ」

三木ヱ門がタカ丸さんの言葉に顔を上げて口を開く。

「だけど、も喜八郎も二人とも・・・・・・」

その後の言葉は続かなかった。

「そろそろお開きにしようか。どうする?今日は僕の部屋に泊まる?」

「いいえ、僕は部屋へ帰ります」

そういって、立ち上がった三木ヱ門の姿を横目でちらりとみれば、
酷く疲れている顔をしていた。
色々と心の整理がついていないのだろう。

「そう、滝くんは?」

タカ丸さんと目が合った。タカ丸さんは私に泊まっていけば良いと言っていることは
分かっていたのだが、私は、あの時の喜八郎の顔を見てしまったので、
彼の申し出を断った。三木ヱ門は、もうすでに部屋に帰っていて、
タカ丸さんの部屋から出るときに、私は、彼の方を向いた。
彼は、金色の髪を揺らしながらほわほわした顔で、
忍術の腕はまだ一年と同様であるけれど、
今の話題では、誰よりも経験豊富であることは分かっていたので、
彼に疑問をぶつけた。
タカ丸さんは、私の疑問に一回目を閉じて、それから眉毛を八の字にして苦笑した。

「・・・・・・そうだね。終わってしまったかも知れない。
でも、滝くん。僕らが出来るのは、彼女を好きだという前提の
喜八郎くんの応援だから、これ以上は出来ないんだよ。
僕らは、ちゃんと誰かが一緒になることの邪魔はもうできない」

残念なことだよね。と、付け加えられた言葉が、冷たい廊下を歩く
私の頭に響いた。
部屋から見える炎の光で、問題の渦中にいる人物が起きていることが分かる。
がらりと襖を開ければ、布団の中にもぐっているうねうねとした灰色の髪が見えた。
彼は、一冊の本を夢中に読んで、こちらを見向きもしなかった。

「どこいってたの?」

「タカ丸さんのところだ」

「ふーん」

私は、自身の布団の中に入り、彼と同じ高さの目線で、天井を見た。

「なぁ、喜八郎」

「なに?」

「タカ丸さんをどう思う?」

「好きだよ」

「三木ヱ門は?」

「好き」

「立花先輩」

「好き」

「作法委員は?」

「好き」

「じゃぁ、小春さんは?」

「好きだよ」

なんなの?とこちらを向いた喜八郎に、一番聞きたい質問をした。

 は?」

「・・・・・・大嫌いだよ」

少しだけ間が空いた答えに、この大馬鹿者と大声で言いそうになったけれど、
本人達が気づかないと、意味がないんだ。と
大人の顔をして私達に言ったタカ丸さんを思い出して、
喜八郎のほうと逆側に顔を向けた。

なんで、お前は分からないんだ。
好きが全部一緒で、大嫌いが一人しかいない意味を。
なんで、私が泣きそうにならなければいけないんだ。
この、ばかはちろう。
に良かったね。おめでとうって笑顔で言われたときに、
少しだけ眉が動いたのを4年も同室である私が気がつかなかったとでも思っているのか?
お前が、なにをしたかったのか分からない。
ただ、一ついえるのは、お前の恋は終わったのだ。
きっと、はお前をもう見ない。
私は優秀であるから、彼女が少しずつお前のことを見ていたのを気づいていたのだ。
だけど、優秀だから、彼女のおめでとうの表情に諦めを見つけてしまったのだ。



なんていうことだ。
彼女は、お前のことを完全に諦めた。










2010・2・1