声は、弾ませて語る彼女は綺麗だ。
可愛い食べちゃいたいくらい。
私、二人の間を取りもつって決めたから、彼女の話を聞いて、
どうやら綾部くん君の願いは叶いそうだと笑った。

小春さんは、このごろ綾部くんのことばかり話している。


今度、一緒に外へ行きませんか?と、誘った。
もちろん二人を一緒にさせるためで、三人じゃバランスが悪いし二人っきりにするのが難しいから、
四人にしようと、私は妥当に三木でも誘おうかと思ったけれど、



名前を呼ばれて相手が変更した。
私の横を歩く人に、年頃の乙女からちょっと年配な方まで。
本当にイケメンは視線を集めて大変だ、としみじみ思ってみれば、
そのイケメンの利吉さんに手を取られた。

。そっちは違うよ」

「おっと、すいません利吉さん」

「いいよ。けどは考え事していると、違う方向へ進むよね。
目が離せない」

「あ・・・あはは。いやー」

「それとも、コレが欲しかったのかい?」

と、指差された方には、私の愛する箱やらガラクタやらが置いてある小汚い露天商。
まさか、Wデートにそんなことしませんよ。
と、言いたいけれど、目がそこから離れることはない。

「・・・・・・」

どうしよう。あれ欲しいなと見ていれば、先を歩いていた二人がきて、
小春さんが呆れた顔で私を見ている。

「・・・・・・ちゃん。いつもどこで買っているかと思えば」

「変な趣味」

「・・・・・・穴掘りが趣味な奴に言われたくはない」

カチンと来た私が言い返せば、左の頬っぺたを抓られた。痛い。
ムカついたから、綾部くんの右の頬っぺたを抓り返した。
なんていうモチモチ感。女の肌は男の肌に負けた。と
違う勝負に負けを感じていれば、右の頬っぺたも抓られた。
だから、同じように頬っぺたを抓った。

「ひぇんにゃかお」

「ほっひほほ」

むぎゅーと遠慮なく抓られている
そんな私らの攻防は、目の前に現れたもので停止した。

「ほらほら、これあげるから」

欲しかった南蛮物の小物入れを、利吉さんが私の目の前に出した。
おひょと変な声を出すと、私は、綾部くんから手を離した。
しかし、綾部くんは離してくれないで、そのまま引っ張った。
それから。

「ばぁーか」

と可愛らしい女顔負けの顔で、不機嫌だと少しだけつぃと上げられた眉毛に、
離されて後ろを向いて歩いていく彼の姿に、なんだか胸がチクリと痛んで、
それを痛みの涙で誤魔化した。
頬をさする私に、大丈夫かと心配そうに頬を触り、
大丈夫だと笑うと痛いから無表情でいれば、彼は、ビードロで出来た小物をくれた。
太陽の光で、キラキラ光っている小物入れには、心配そうに私を見ている
利吉さんの顔が映ったから、私は心を落ち着かせることが出来た。
私の乙女心はなんと安いのか。
綾部くんなんて、もうなんとも思ってないし、と一回深く息を吸って吐けば元通り。

「利吉さん、ありがとうございます。嬉しいです」

利吉さんにありがとうを言うのは何回目だろうか。
嬉しいと笑えば、彼は私以上に目を細めて嬉しそうな顔をする。
そのときの笑顔は、大人びたものでなく、子供のようで、
可愛いと思ってしまうのだ。
いつもは格好良くて、時たまみせる可愛らしさ。完璧ではないだろうか。
彼と恋仲になって、夫婦となる人は安泰だろう。
前一度だけ、恋人はいないのかと聞いたときは、深い息を吐かれて、
凄い暗い雰囲気で、いないよ。といわれて以来彼とそういう話題をしたことはないけれど、



と手を出されて、その手を掴む。
時々キザで困るけど、女の人にもてすぎて嫉妬ばっかりかもしれないけど、
とても優しくていい人なのだ。好きな人が出来れば、
彼は私に構うこともなくなって、手を繋いでくれなくなるのかもしれない。
だったらと、ぎゅっと利吉さんの手を握ったら、握り返してくれた。
今は、この状況を楽しむだけだ。
人は、いつか去っていくものだから、それを恐れるよりも今を楽しんだ方が良い。

その様子を、二人は見ていた。
一人は、頬を染めて、まぁと口を押さえた。
もう一人は、忌々しそうにその二人の様子を見ていた。
だけれど、一人はあまりにも表情が出ることがなかったので、
彼女は、忍びの訓練も受けておらず空気を読むことも得意ではなかったので、

「あの二人、とってもお似合いだね。喜八郎くん。そう思わない?」

と聞いていた。彼はそれに答えず、お腹すいた。と言った。

夕焼け小焼けと謳う子供達の声が聞こえる。
大きなオレンジ色の太陽が、地面に吸い取られている。
私は小春さんと、その前を綾部くんと利吉さんが歩いている。
考えてみると、なかなかありえないメンバーで出かけていたものだ。
しかし、Wデートで、途中から小春さんと綾部くんを
二人っきりにしようと思ったのだけれど、
食い意地がはりまくっている綾部くんは、ことあるごとに、
利吉さんから買って貰ったお饅頭とか、お団子とか、昼ごはんのうどんとか平らげて
くしを買えば、趣味悪いと違うものを渡されたり、
確かに彼の選んだものはなかなか良くて購入したけれど、
遠くに行ったと思えば近くにいたりするし、行動が読めないのだ。
別行動でと言おうとしたけれど、言う前にいなくて、ちょっとすればいるの繰り返し。
はぁと息を吐けば、小春さんはそわそわして私をちらちら見ている。
なんだろうと、小春さんと視線を合わせて、笑ったら、
小春さんは満面の笑みで笑った。
それから目を輝かせて、小さな声で、私に聞く。

ちゃんってもしかして利吉さんのこと好きなの?」

は?と笑顔のまま止まった私を無視して小春さんは続けていった。

「だったら、私頑張っちゃう!!利吉さんとちゃんお似合いだもの」

手をぎゅーと強く握られた。温かい。だけど、どうだろう。
完全に私と小春さんに温度差が生じている。

「私が出来ることなんてこのくらいしかないけど、お姉さんなとこみせるよ」

と意気込んでいる小春さんは大変可愛らしくて、
小春さんの間違いを訂正することも出来ず、引きつった笑しか出なかった。

小春さんと私の考えたことは一緒。
なのに、自分の動機の不純さに涙した。

あなたは、とても綺麗な人。
だから、敵わない。











2010・1・19