面白くなさそうに、仙蔵は二人のやり取りを見ていた。
いや、面白いか面白くないかで言えばとても面白いのだが、
なにか気に食わない。机に膝を置き片手で自身の顔を潰して、
眉間に皺を寄せ、目がよどんでいる友人の姿に、
文次郎ははぁとため息を吐いた。
イライラしているのは分かるが、そのイライラを撒き散らかさないで欲しい。
現にい組の中では、仙蔵から距離をとり円を作られ避けられている。
しかし、自身が逃げることがあれば、どこにいくともっと不機嫌になることを
理解していたので文次郎は仙蔵の傍にいた。
彼ら6年の窓から見えるのは、小春さんと綾部 喜八郎の姿だった。
学園が襲われた日。俺達は実習中のいきなりの訃報にすぐに学園へと帰った。
5年と6年そして先生方が着いた頃にはほとんど終わっていた。
事の発端である、忍び頭は、トチ狂ったこと
「優秀な忍びを雇ったのだが、少女に負けるとは金勿体無かったかな?なぁ?」
「それよりも、あの少女雇った方が良かったんじゃないっすか?」
「ふむ、お前の策を受け入れるぞ!!学園長あの娘の名はなんて言う?」
と、採用という扇をばっと出して学園長に娘の名前を聞いていた。
なんとも呆れた忍びもいたものだ。
話は聞けば、面白そうなもの好きな殿様が小春さんのことを聞いて、
ぜひとも話しを聞きたかっただけらしい。
でも、忍術学園に保護されているから襲って攫ってあとは優秀な忍びに任せよう。
どうにかなるなるという無鉄砲すぎる計画を聞いたときには、頭が痛くなった。
捕まったというのに、のほほんとのんきに喋り任務内容すら簡単に言うこいつらは
ドクタケ並かそれ以上だ。
「雇うよりも貰った方がいいかもな。ああいう気質の娘嫌いじゃないし」
「あーずるいっすよ。忍び頭。俺も忍び頭を蹴って縛って睨んでいる姿に
ドキューンときたんすっから」
忍び頭と忍びのフレンドリーすぎる会話もなにやら変な方向になってきていた。
「失礼します。学園長」
と入ってきたの姿に、皆驚いたが。
「あ、すいません。俺と結婚してください!!そんで俺を幸せにしてください」
と忍びの開口一番ではそいつに蔑むような目をし、
「うわぁ、それ最高。ぞくぞくってくる」と悦に入った忍びに、
若干引いて幾分冷静になった俺達はまず伊作が怪我の手当てをし、
仙蔵が状況を聞きだして、
今回の出来事が、仕組まれたものであるということを説明し、
いつの間にか縄抜けをしての足にすりすりと頬ずりしている忍びに
蹴りを入れ、「ああ、もう最高」と気絶した忍びを
凄い引きつった顔で見ながらは一言。
「なんかすっごい疲れた」
彼女はそういって短くなった髪を掻きながら、
大きなため息と共に部屋に戻った。
それからか。
それから、ちらりと窓を見れば、 の早足が見える。
「ねぇーねぇーねぇー。だから。俺と結婚したら、罵り放題。
お買い得だと思わない?」
「思わない」
「ああ、いいなあその冷たい反応。まさに俺好み!!な女の子。
神様ありがとう」
は、小春さんと綾部のもとを通った一瞬、彼らをちらりと見ようとしたけれど、
彼女が蹴り倒した忍びが、の体を抱きしめて視界を覆っており、
それを不可能とさせた。
「もう、大好き大好き愛してます。さん。地獄の果てまで一緒にいきません?」
が、叫ぶ前に、忍びの頭に鋤がめり込んで、
「さっきから、うるさい。違う所でやって」
と、無表情だけれど怒気を感じる綾部に、
沈黙しぐったりした忍びをは無言で踵落としで、止めを刺し
そのまま放置してどこかへ行こうとすると。
「」
と、いかにも偶然を強調しながら利吉さんが登場した。
彼は、忍びをわざわざ踏みつけて、綺麗な笑顔でに挨拶する。
「今回のことで、色々あるから話いいかな?」
との肩をそのまま抱いて部屋へ向かった。
その後姿を、綾部は、大きな目でじっと見つめ、鋤を握り締めている。
「喜八郎め、そこは邪魔してやらないのか?あれでは利吉さん一人勝ちではないか」
「・・・・・・仙蔵、お前綾部と、嫌がっていなかったか?」
「馬鹿。我が作法委員会のものが好きな女一人
得れないなどそんな話あってはならないのだ」
「だがな、綾部は・・・・・・分かっていないのだろう」
「・・・・・・・・・・チッ、だからなおイライラする」
上からは、小春さんと綾部の姿が見えた。
おい、おい。早く気づいてくれ。じゃないと、仙蔵が手におえない。
2010・1・5