愛されていないわけではない。
分かっている。私のことを呼ぶ名前がちゃんとか愛の結晶とか
声色に優しさが含まれている。愛されている。
じゃぁ、何が悪い?
悪いことではないよ。彼らは私よりも彼ら自身を愛していたそれだけのこと。
私は生まれ変わっても理系だったから、比較して測ってしまう。
彼らの手をゆっくりと何も疑わずに握り返せるほどの子供ならば良かった。
握り返す前に確認をしてしまった。
子供じゃないのに感情は子供。
ちゃんと私を愛して一番に思っていて欲しかったの。

かくれんぼをした。
ちょっとしたかくれんぼを。


隠れた場所は、幼馴染の三木の押入れ。
いきなり現れていきなり変なことを言った私を彼は受け入れてくれて、
夜になるまでそこから出なかった。

二人でヒソヒソ笑って、なんでもないことを語り合う。
楽しかったよ。待っている間。とっても楽しかったよ。
わくわくしてた。父様と母様が私を抱きしめて、どこいったの?心配したのよって
怒って泣いて、そして両手で手を握り締めてくれるんだって信じていたから。
ああ、本当に。
伸ばされる手が誰にも捕まれないことを知っているのに、
前で分かっていたはずなのにまた望んだ。
何度も失敗、学習できない生き物を、猿以下と言います。
私は猿以下、それなら猫になる。
人間の残飯をあさって眠いときには眠る猫になるニャー★
だけど、私の横で凄い力で握り締める手は人で
私も頬から涙を流す人だったから、人として一人で生きることを選択した。


「で、何があったの。そのかくれんぼで」

重いよ。綾部くん。膝に乗せられた頭はくすぐったくて重い。
苦笑していれば、横から利吉さんが彼をどける。

彼らがいなくなって、4年プラスで利吉さん。私まだ保健室。
安静だって言ったでしょう?って笑顔で怒った善法寺先輩に冷や汗を感じた。
彼に逆らわないようにしておこう。笑顔で怒る人間は性質が悪いと相場で決まっている。
大きく深呼吸してみる。息は肺一杯。
空気が綺麗で自分の体のなかから不純なものが消え去ったような気分にさせる。
答えを求める人々に、一人だけ真実を知っている私の優しい幼馴染が
言いたくないならいいんだと目をよこすけど。
にへって笑って返す。彼がこの笑顔に弱いから黙って、
そして弱いままじゃいけない自分は前を進むことを決めて背筋を伸ばす。

「彼ら、私の両親は、彼ら自身を愛しているんです。それはもう異常なほどに。
私は、愛されていないわけではない。それは分かっているのに、確かめようなんて
子供らしかぬ行動を起した。かくれんぼ。見方を変えれば、家出の振り。
隣の子供がいなくなって、泣いて怒って喜んでいる姿を見たから、私もそれが欲しかったの。
そして、それは失敗。彼らは彼ら自身を愛していたから、変な解釈をした。
今なら分かるけど、あのころは一番が欲しい子供だったから、許せなくて、
手はもう二度目を繋げなくなった」

「変な解釈?」

タカ丸さんの傾げた角度が女の子がすれば可愛い角度なのに、
男がしても可愛いという不思議さにこっちも頭を傾けた。

「そう、私たちの愛を深くさせるためにあの子が気を使って二人っきりにしてくれたんだわ。
いい子と母は喜んだ。
さすが、人の気持ちを読むことに長けている、素晴らしい僕らの愛の結晶と父も喜んだ。
怒ったのは、三木の父と母と三木で、あんな人の家に帰らなくていいと私を守った。
だから、結婚話がとんとん進んで」

「事実、今でさえ、僕との結婚話は消えていない」

「うん、私と三木両方が忍術学園去るまでに恋人とかいなかったら
自動的に結婚だけどねー」

あはははと笑いあう二人は、しーんと静まり返っている保健室に気づかない。
ごくりと誰かがツバを飲む音が聞こえた。

「でもさー私三木ん家に住んでいるのも同然だから、あ、あれだ。
家族公認の同棲だよね」

「あはははは」

「あはははは」

タカ丸は思った。これは思わぬ伏兵がいたものだと。つぃと目を細める。
彼らはお互いがお互い認め合っている。
恋までいかなくても、家庭を二人で持っても大丈夫な間柄なのだろう。
まぁ、それを許せないのが、若干二名ほどいるのだけれど。
一人は不機嫌にまたちゃんに突進していった。
もう一人は寒いほどの笑顔で、どういうことか説明してくれるかな?と三木くんに迫っている。
あれ?でもおかしいなぁ。

じゃぁなんで。

「なんで、あの二人は無理やり婚約届けとか押し付けたの?時期がくれば、
勝手に三木くんと結婚するでしょう?」

大きく見開かれた目。彼女の下にいる彼も大きな目で僕を見る。
彼の目が彼女に移されたとき。ちゃんは力なく笑った。

「あはは、鋭いねぇ。タカ丸さん。
最初はもっと早く家出て行って欲しかったとか思ってたんだけどさ。
たきつければ三木が怒って早くするとか思っていたのかも知れない。
他に人もいるってことを言いたかったのかも知れない。
よく分からないけど、さっき気づいたんだ。
二人は二人を愛していて、二番目が私なのだけど、
他はそれ以外だって。観察眼が半端ないから、
駄目な男は削除していたってことに気づいたんだよね。さっき」

「さっき?」

「うん、実は三郎くんの後に来た5年生を見てさ。これは駄目ね。っていってる姿見て
実は駄目って言われる人初めて見たから知らなかったんだけど。
彼らは、一応私のことを彼らなりに心配しているらしいよ?」

布団にダイブして天井に手を伸ばせば、
凄い顔してあっち行けとばかりの両親の顔に、よく分かっていない5年先輩の顔が浮かぶ。
あははは。馬鹿だな、私。学習しても人の心は分からない。
人は千差万別。比較なんて出来るわけない。
それに気づけなかった私は猿以下ではないか?
猫になりたかった、でも人だからしょうがなく人であった私。
猫でなくて良かった。猫だったら気づかないで死んで終わっていた。
手を伸ばせば、二人は手を解いて手を差し出してくれていた。
そんな簡単なことを。



心配そうに見るのは優しい幼馴染。


「本当に分からない人たち。ここまで理解するの結構月日経っちゃったよ。
三木。あのね。私、一番じゃなくても愛されているみたい」

へらっと笑った私に、そうかとどこか納得言っていない顔をしている三木。
彼らの両親の一番は三木だから。
三木は子供が一番であることが普通であると思っているから、
でもね、三木。

「一番は違う誰かのためにとっとくよ」











2009・11・30