最初の外れ方は、些細なこと。
名前の呼ばれかたとか、自分がいるときの二人の雰囲気とか。
でも、大昔の記憶にいた両親は、表と裏が激しくて
表のときだけしか両手は握られていなかったから、
二人が手を繋いでいてくれたことが嬉しかったのに、
それで終わらせば良かったのに、少々疑り深い私は彼らの愛情を試してしまった。
ちょっとしたかくれんぼ。
昔、伸ばされた手は掴まれることなく変わりに幼馴染に握られた。
今、伸ばされた手は。


「いい加減にしてください!!
あなた達のせいでが傷ついているのが分からないんですか?」

三木ヱ門。三木に掴まれる。
そうだね。あの時もなんだかんだ言って助けてくれたのは彼で、
そうして。

「まぁまぁまぁ、相変わらずちゃんを心配してくれるのね。三木ちゃん」

「本当に、僕らは君がの婿でないことが嘆かわしいよ」

ああ、ダメだ。またあの日のようになってしまう。
三木の声も私の声も聞こえない彼らによって私だけでなく三木をも巻きこんでしまう。

私は精一杯手を伸ばす。大切な幼馴染を傷つけてなるものかと。
精一杯、手を伸ばす。




両親が来ると暗くなり無理に笑うの顔。
二人のことで何かあると、小さい頃からは必ず僕の布団の中にいた。
やはり昨日も彼女はそこにいて、あの時と違くてもういい年と言って
彼女をそこからどかしたら、一人を望んでいるくせに、独りを嫌う手のかかる幼馴染だから
僕は、何も言わずに片手を繋ぐ。
彼女はそれに安心してゆっくりと眠りに落ちていく。
僕らの間に言葉は必要なくて必要なのはお互いの片手の温もりだった。


昔、あの町に僕には一人も友達がいなかった。
近づいても遠のいていく。何をしたでなし、遠巻きにされていた。
そんな僕に母様は言った。

「三木ヱ門、アイドルになりなさい。あなたならなれるわ」
でも、母様。僕はみんなから嫌われているよ。
父様はそんな僕に大きな掌で僕を優しく撫でた。

「三木ヱ門、アイドルは嫉妬も中傷も受ける。それでも笑顔で綺麗だろう。
アイドルは自分を信じているからな。
だからな、三木ヱ門。母さんが言いたいのはアイドルのように、
真っ直ぐ自分の事を信じて、自分自身に嘘をつかないで、胸を張って、
そうして自分をみてくれた人の手を離さないんだ。
ほら、三木ヱ門。戸の音が聞こえたね。君自身を好きな子がちゃんといるだろう?
その子の手を離しちゃいけないよ」

戸を開けばが遊ぼうと一風変わった遊びに僕を巻き込むのだ。
アイドルになると言った僕を馬鹿にせず、
もう三木はアイドルみたいなものだよ、キラキラして綺麗だもの。と笑って。
僕を救ったものは両親と幼馴染だった。
だからこそ、が傷ついて離してと言われても僕は手を離さないんだ。


タカ丸さんに連れて行かれた喜八郎の後ろをつければ、なぜか一緒に滝夜叉丸。
珍しいことに彼は一つも自慢話をせずに、僕の後ろを静かに付いてくると思えば、
一言「悪かった」と赤い顔で謝る。あの滝夜叉丸が僕に謝った?
思考が付いていかないけれど、目だけは大きく開いているだろう。
「事情も知らないのに適当なことを言って悪かったと言っているのだ!!」
昨日のことを謝っているのだと分かって僕は胸の奥に小さな何かが落ちてくるのを感じた。
それはあの二人への真っ黒な感情を少しだけ明るく照らして、
滝夜叉丸の真っ赤な顔が僕に移って、
「お前に謝られる日が来るなんて今日は槍が降るな」
なんて照れ隠ししか出来ない。
滝夜叉丸はその言葉になにおうと歯向かってくる。
うん。やっぱりこれだ。これくらいのほうが、いつもと同じで居心地がいい。
いつものように喧嘩をしようとしたが、ひゅっと投げられた鋤によって僕らは停止した。

ギギと顔を向ければ、投げられた方向には喜八郎がいて、いかにも不機嫌な顔をしている。
利吉さんのこんにちわ。という似非臭い顔に嫌悪している。
それもそうだろう。に見えないように殺気を飛ばして去れと言っているのだから。
あの男が、なんてタイミングよくここにいるかの理由は簡単だ。
外堀から責めようというところだろう。
みえみえなのに、は気づかない。はやく気づいて腹黒さに飽きられれば良いのに。
チッと舌打ちが出る。
それにびくっとした滝夜叉丸を放って彼らを見入る。
はっ、ざまーみろ。いくら顔に自信があって気に入られる話術があっても、
評価は、浮気されそう。彼らはお互いしか興味がないからな。誰の話も聞かない。
でも、次のはいただけない婚姻届。
アレに一瞬目を光らせた獣は、今がチャンスとばかりに告白でもしようとしていたんだろう。
いいタイミングでタカ丸さんが邪魔をした。ナイス!!
その後のの妹発言に地味に傷ついていた。このぶんならでも回避できる。
そう思っていたのに。

の一番弱い部分を抉られた。
そんな観察眼があるのにどうして、どうして?
どうして、あなたが言う母親として愛してあげなかったの?

僕を救ったものは両親と幼馴染。
君を救うのに二人足りないから、
そのぶん僕は伸ばされた手はちゃんと握り締めるよ。巻き込まれても大丈夫だ。
だから、そんな顔をするな。
だって、。今はさ。僕もお前も二人だけじゃないだろう?
仲間やお前を愛している人もいるだろうだから。
大丈夫なんだ。
昔は二人足りなかったけど、今はもっと多くの手が君を救う。


ビリーと敗れる音が響いた。
あら、おやとの両親が音の方向に顔を向ければ、
喜八郎が婚姻届を二枚破いていた。

「くだらない。こんなもの、なんの意味があるの?」

「意味?意味はあるわよ。それはちゃんと結婚できるのよ?」

「無意味だよ。だって、ここに の意志がない」

「意志?あるに決まっている。だって僕らの愛の結晶だもの」

「へーそうは見えないけど」

初めて二人が困惑した。そこに畳み掛けるようにタカ丸さんが続ける。

「うーん、おかしいなぁ。おかしいよ。ちゃんのお父さんにお母さん。
二人は運命を捨てたのに。子供には無理やり運命を押し付けるんですか?」

完全、沈黙。ようやく彼らは自らのしていることに気づいた。
少しだけ顔を青ざめている彼らに優しく利吉さんが諭す。

さんのお母さんにお父さん。まだ彼女は若い。それに魅力的な女性だ。
あなた方が焦らなくても自然と結婚は出来ますよ」


その言葉で戻った二人は、そうね。そうだね。と言っての方へ顔を向けると。

「ごめんなさい。焦りすぎたわ。ちゃんだって私と同じように愛をもぎとれるわよね」

「そうだね。僕らが間違っていた。運命を捨てたのに、運命を押し付けるなんて、ね。
ハニーに似て魅力的なんだから結婚できないわけないことをすっかり失念していた」

「そうだわ。ダーリン似た柔らかな髪質とかもうメロメロよ」

「ハニー」

「ダーリン」

「「大好き」」


やっぱり、根本な所は変わっていないけれどは少しだけ泣きそうな顔で嬉しそうに笑った。
愛されていないわけではないんだ。
ただ、彼らはお互いを愛しすぎていただけなんだ。










2009・11・26