最初の外れ方はなんだったろう。
些細なことだったと思う。
伸ばされる手が誰にも捕まれないことを知っているのに、
一回でも、両手に温もりを望んだ私は馬鹿じゃなかろうか。
前で分かっていたはずなのに。
学習できない生き物を、猿以下と言います。
「それにしても愛されているではないか。両親に」
滝夜叉丸を殴った。滝夜叉丸だから殴ったのではない。
滝夜叉丸はムカツク男だが、だから殴ったのではない。
何をするんだと怒ろうとして僕の顔を見て言うのをやめた。
アイドルな僕の顔に怯えている。
激昂、憤激、激怒。
「三木」
ちょいと私の裾を引っ張って喜八郎が僕を止めた。
長い睫毛に守られた大きな目の中に、僕はいて赤くて酷い顔をしていた。
ストンとその場に座り、滝夜叉丸の顔を見ずに、悪いと謝った。
普段喧嘩して絶対謝ることのない僕が謝ったことに驚いている気配がする。
沈黙の中、タカ丸さんが聞いた。
核心、中心、どまん中。
「ちゃんの両親はちゃんのこと愛していないの?」
あの人たちが来たことや、のこととか、それ以外のこととか、色々考えて疲れていたので、
3人の目が僕に向けられているけれど、僕は立ち上がりお休みと誰の顔も見ず
開かれた空間、空気の中に進んでいく。
僕らは成長したけれど、なんだかんだ言ったて家を離れて4年しか経っていない。
いや、何年経つとか関係ない。
小さい苗木が大木になっても根っこは変わらないそういうことだ。
だから、僕は冷たい廊下を歩きながらその先に待っているぬくい布団を考える。
そして昔、温かった片手を思い出すんだ。
「こんにちわ、さんのお母さんですか」
「まぁまぁまぁまぁ、イケメンだわ。ダーリン、イケメン。あ、ダーリンのほうがイケメン。
やだーメロメロになっちゃう。私以外愛しちゃダメ〜」
「ははは、ハニーそれは皆無さ。ハニーこそ、僕以外の男にイケメンなんて言うなんて
惚れられちゃうだろう?」
ないだろう。ない。そっちが皆無だ。
なんてつっこみを入れることも出来ずに、二人がイチャついている姿に空笑い。
横にいる利吉さんに凄く引かれたと思うのに彼は相変わらずの笑みを崩さずにいてくれる。
いい人だ。その人をこのままの状態にさせてはいけないと口を挟む。
「うん、そこまでにしましょうか。父上、母上。
今回のことでお世話になった人に会いたいというので利吉さんに来ていただきましたけれど」
「利吉さん?」
目がキラリと光った母上に注釈を入れる。
「山田 利吉さんと言います。学園内に山田先生が居られます」
「そう、そうなの。いい男じゃない。ちゃん。この子で決まり?」
気が少々落ちたもののすぐに回復。
素晴らしいと言っていいのか。落ち込んで諦めろと言えばいいのか。
確実に後者だが。
「はーい、ちゃんのお母さん。
ちゃんのことをあの世から引っぱり出したのがこの子です!!」
なんと、横から出てきたタカ丸さんと、どうみても穴を掘る前の綾部君。
綾部君、嫌なら抵抗しなよ。
いつもよりむっとした顔でいるし、こんにちわと言う利吉さんの言葉も総無視。
笑顔と無表情。ピリピリ。なのに先ほどよりもハイテンションな母上・父上。
「あらー随分可愛いわね。男の子?すっごいプリティー。ねぇ、ダーリン。
可愛い子ね!!お目めばっさばっさでぱっちり、肌も綺麗、嫉妬しちゃう」
「ハニー。ハニーの美しさも可愛さもこの子以上さ。以上、異常で最高だよ」
「まぁまぁまぁ、ダーリン!!」
「ハニー!!」
お前らは異常で最悪。
「にしても良くやるわね。可愛い系にかっこいい系、本命はどちらかしら?」
このこのと突くな。笑いはこれ以上でないぞ。
「かっこいい方は、遊んでそうだよね。浮気もされそう。
でも、可愛い方は、将来このまま綺麗形になって浮気されそうだね」
どっち転んでも浮気されるんですか?父上。
笑顔で言うことじゃないですよ?
利吉さんの笑顔にひび入った音したよ。今。
「いいわ、どっちにもしましょう。二人とも手をお出しになって、
ここにちょこっとぐりっと拇印を押して頂戴」
二人に迫る母上。今すぐに縁を切りたい。
利吉さんが紙をみて驚いた顔をして尋ねる。
「これ。なんですか?」
「あら、嫌だ私ったら、婚姻届よ」
あらやだ私ったら靴下間違えちゃったぐらいのノリで重!!
流石に利吉さんも引いて紙を渡して逃げるだろうと思ったけれど。
「ああ」
と何に納得をしたのか利吉さんは拇印を押した。
「ああ、じゃないです。利吉さん。なに拇印押して項目まで書いてるんですか?
分かってます?それ婚姻届ですよ?」
「分かってるよ。」
顔と目が合わさって、凄く真面目な顔。
こんなこと前もあったから、よく知らないけど胸がドクンと鳴る。
「え、「はーい、喜八郎君も」って、何押させてんですか。タカ丸さん!!」」
けど、一瞬のドクンはバックンに負ける。
綾部君は何もしてない。ただタカ丸さんにされるがままだ。
でも確実に腹立てている。それが私に返って来るんだよ?
タカ丸さんはいいかも知れないけど私には実害がある!!
そんなこと知らないとばかりに外野は和やかだ。
「あらーもてもてねーちゃん。さすが私の子ね」
「はははははは。さすが僕らの愛の結晶」
「あーもう。母上、父上。この二人は一人は妹としかみてないし。
もう一人は私のことが嫌いなんです。分かりましたね」
ははははと笑う二人はちっとも納得していない。
どうするかと頭を悩ましていると見知った顔。
「・・・・・・なにしてんだ??」
「あ、三郎さん」
「さん?」
しまったと口を押さえる前に元忍びの両親の動きは早かった。
「あらあら、この子もなかなかハンサム。でも、ダーリンには構わないけど」
「おやおや、この子顔が違うなぁ。でも、この仮面を被れるってことは
骨格は悪くないからぶ男ではないなー」
「立派な千里眼。素敵ダーリン」
本当によく分かるよ。それで終わりを望んだけれど。
「ちゃんこの子が本命。そうでしょう?
だってあなたのお母さんですものちゃんと分かっているわ。
あなたが、名前の呼び捨てさせて、なおかつあなたが名前をさん付けで呼ぶなんて、
愛しているの証拠でしょう?そうでしょう?」
私は何もいえない。肯定も否定もない。
確かにその通りだ。その通りだったのだ。今じゃないけれど私はそうなのだ。
ギリと唇を噛み締める。
「うーん、大分愉快なことが好きそうな子だけど、変装なのに、その顔は随分お気に入り。
一途っぽい。よし!僕らの愛の結晶・。この子でいいよね?」
三郎さんが慌てる。理解できるわけない状況下。
「ちょっと、どういう」
「ああ、でも顔を見たいわ。ちゃんと見たいわ。ダーリン」
「それはそうだね。ハニー、僕らの愛の結晶のお婿さんの顔を知らないんじゃ。
笑いものだからね」
「ちょ」
三郎さんが本格的に暴れ始めている。
ああ、本当に、本当に。うんざりだ。
いい加減にしろと切れる前に横から声が聞こえた。
懐かしいカムバック。あの時もそうだった。あの時も。
2009・11・23