私、滝夜叉丸は美しく麗しく天が授けた才である。その私が認めた天才がこの学園にいる。
私は彼女の名前を知らない。知るということが必要ではなかったからだ。
ただ、毎日夜の訓練中のある一点で交じり合うそれだけの人だった。
いつも汗だくで泥だらけでちっとも綺麗じゃない
その姿を惜しげもなく見せ付けられた日から、
私もその時だけは鏡を持って綺麗にセットされた髪も乱れることない服も
ボロボロでいようと決めた。
涙がまじってぐちゃぐちゃな汚い顔も、一点の所で見れば美しく見えた。
彼女がクナイをボロボロになるまで使うから、私もボロボロまで使う。
月がある日は、忍びは訓練しないけれど、彼女がするから私もする。
雨の日も風の強い日も彼女がするから私もした。
そんな関係から3年ほど経つと、彼女に会うことが減ってきた。
その変わり違う場所で彼女を見つけた。任務に出かけるようになっていた。
私の訓練の日数が減り、久しぶりへと一点へ行くと彼女の訓練の形跡がちゃんと残っていた。

そして、今。私は一点ではなく、毎朝顔を見合わせる中になった。
喜八郎のおかげというか、喜八郎のせいとでもいうか。
原因の彼は今日も知らぬ顔で彼女の朝ごはんを貪り食っていた。
ある夜、私と彼女はある一点で初めて顔を合わせた、彼女は私と同様に
ここで練習をしていることを知っていたらしく、驚いた顔をしていない。
前よりも穏やかな顔を私に向けて、また訓練に戻ろうとする。
ここで、言わねば、ずっとずっと聞きたかった。天才である私が頭を悩ませた疑問を
彼女にぶつけた。

「なぜ、女である。お前がそこまでするんだ?」

お互いを知りながらも、声をかけられる事はないと思っていたのか、
彼女は一瞬大きく目を見開いて。

「私は、天才ではないからね」

とそういって笑った。
突っ立ていることができない自分の出した答えは、
彼女こそがまさに本当に天才だということ。
なんの天才?
この天から授かった才ある私をひきつける天才だ。
そんな彼女は私の友人にいたく気に入られたらしい。
否、本人は嫌いというだろうけれど、私は知っている。
彼、喜八郎は好きか興味ないしかない人間だと言うことを。
初めて出来たカテゴリー嫌いは
・・・・・・好きや興味がないどちらともの枠を超してしまっているからだろう。
私は寛大で素敵で優しく思いやりの溢れた最高の男なので、
喜八郎の恋に応援してやろうと思う。

あの時、私は彼女のために動くことが出来なかった。
あの時、あんなに大勢の人の中で動けたのは彼だけだった。
だから、私は応援という立場についたのだ。
私が認めた人だ。
お前が嫌いなわけがないではないか。素直になれ。
早くしないと利吉さんにとられるぞ。





2009・11・12