私らしい。

「いいえ、私ならそんな殺され方嫌だわ」

「ああ、そうですか」

「ええ、こんにちわ。私」

「こんにちわ。寝ていいですか?」

「このタイミングで寝ようとする辺りはとても似ているわ。うん、本当に寝ないで」

私の過去が夢の中で布団をしいて寝ようとする私を邪魔した。
本当に、夢の中がなんでもありだとか嫌だ。
ありじゃないよ。過去の自分と対面だなんて、そんなこと出来てたまるか。
と布団をはがれないように頑張ってみたけれど、ここは彼女のほうが力が強いらしく
布団そのものを消された。

「ねぇ、聞かないの?最後の話」

無理やり向き合わされ、彼女が悲しい顔をする。
私には彼女の最後の記憶はない。というか覚えてない。
彼女がどういう風に死んだかなんて、どうでもいいが。
あそこまで幸せな三人の終わりが気にならないと言うのは嘘になるけど。

「興味ない訳じゃないけど、私は で、あなたは私じゃない」

「そう、私はあなたじゃない。あなたも私じゃない。
分かってるくせに、私に引き込まれちゃったのよね」

と、いうことは、さきほどの彼らの慌てようは私は食べられていたと言うことか。
納得。いや、待てよ。私消えた?

「消えたけど、私はこの世界にはいないのよ。最初からここにいるのはあなた。
 さん。あなたは消えたのではなくて、あなたが私になりきってしまったそれが正解よ。
私は過去であり、思い出であり、記憶という媒体でしかありえない。
それが超えることなんて科学的にありえないのよ」

「前世を来世まで覚えておくことは科学的に説明できるのかい?」

力説している彼女に言えば、ムムっと眉間に皺よせて吼えた。

「・・・・・・・愛よ!!」

「さいで」

ここで、あんたと喋っているのも説明を求めるのは無理だと理解。
愛で分かってくれるのはあんたら3人だけだよ。

「自分だって、愛に飢えてるから私にのっとられたくせに」

「・・・・・・・・・」

「羨ましいと思ったから、私のことを無視しなかったのに」

「科学的とか、論理的とか色々屁理屈こねても、『愛』に私たちはとても弱い。
愛してほしい。愛してあげたい。だけど、怖い。私が手に入れたのが羨ましかったくせに」

「・・・・・・ほーんと、私は良い性格している」

「そこまで覚えているつもりも来世に持っていくつもりもなかったんだけどね」

私は笑った。笑う姿は私にちっとも似ていない。前世と私はやはり似ても似つかない姿だ。

「これはわがまま。最後を私だけしか覚えていないのは、ちょっと悲しいから」

トンと、額を押された。
何も描かれていない大きなパズルが一枚一枚はまって巻き戻っていく。


白い施設の中に、小さな少女。
長かったはずの髪はとても短くなって儚く美しい少女。
私は彼女が誰か知っている。私は彼女が大好きだから。

「千春ちゃん!!」

とても穏やかな日差しの中で、都会を離れた白い巨大な施設。
緑のテーブルクロスに、白いカップ。お菓子。
女の子の好きなものを全部全部詰め込んだお茶会を、小さな主催者が微笑む。

「久しぶりだね」

彼女は、千春ちゃん。進一さんと私で、三人とも小さい頃からの幼馴染。
上流、中流が集まったパーティーで、お金とかコネとかそんなものを無視して出来上がった、
何よりも強い絆で出来上がった私たち。
親があの子と友達になりなさい。という打算的な言葉を無視して、
同じ年なのにどこか小さい千春の手を取った。
同じ年なのにどこにも行かない進一の手を取った。
二人の手をとって笑えば、彼女らはとても綺麗に微笑んでくれる。
私に寄って来るのは会社とか親とかそんなものしか見えてない馬鹿で賢い子供だけ。
彼らの手をとって笑っても、彼らはにまにまと喜ぶだけ。
だから他の手なんていらない。
私は親に愛なんてものを求めない代わりに彼らから愛を求めた。
科学者として生きていけたのも、進一さんと結婚したのも、二人以外の全てを捨てた結果。
私はお金なんていらない。ちょっとはいるけど、大きなお金なんていらない。
つまるところ。私は愛が欲しかった。
一人じゃなくて二人ってところが欲深い。親の血が濃いせいよ。って言えば。
「それでこそだよ」と千早は笑う。
「じゃなきゃ僕ら三人幸せじゃなかったし良かったよ」と進一は笑う。

私は本当は、二人が好きあってるじゃないかって疑っていたのよ。
だって、二人ともお似合いなんですもの。
今だって笑いあう二人はとても似ている。
似ているもの同士が結婚するんだってテレビが言ってたから、
私と進一さんが結婚したのは、もしかしての間違いかもしれない。
と呟けば、千春ちゃんが凄い勢いで否定する。
「もし進一さん以外と結婚したら私その人になにするかは分からなかったよ?」
と儚げキャラのくせに毒吐いてた。
進一さんに聞けば。
「僕と千春が結婚することは万が一もなかっただろうね。
ちなみに、君が僕以外と結婚することも万が一もなかったから」と言う言葉に安心してしまって、
というか、後ろの言葉の意味が深すぎてどういうことか問うのに必死だった。
笑顔で全てかわせる人間を私は進一さん以外知らない。

私は千春に進一さんをどう思っているのか聞かなかった。
あそこで聞いていればちょっとは変わっていたかもしれない。

千春ちゃんとお茶会が始まる。とても楽しくて終わりたくないお茶会が。
不思議の国のアリスのお茶会よりも楽しかったから永遠の言葉をくださいと
言いたくなるほどのものだった。
千春ちゃんは儚い顔をして小さな体で最後の言葉を吐く。

「私は我慢強い子だと思うの。病気も我慢でどうにかなると思っていたの。
でも、敵は巨大で無敵。とても敵わないようなの」

気を利かせてもらって三人だったのが悪かったか、周りが自然だってことが悪かったのか。
千春ちゃんは、崖のほうへ行く。

「私は死にます。二人よりも早く死んじゃいます」

私は急いで彼女をそこから離さなくてはと、進一さんの顔も見ないで近寄った。
私が泣いているとき助けてくれたのは二人だけ。
千春は笑っているけど、泣いているかのようだったから、私は慰めに走った。

「私、我慢したよ。進一くん。凄く我慢した」

ここの言葉は聞こえなかった。ただ、進一さんが凄い声で止めてくれと叫んでいる。

「私、人生で初めてのわがままをしようと思うの。それぐらい許して」

彼女は、そういって私を抱きしめた。

「ごめんなさい。愛しているの」

千春の笑顔が本当に幸せそうではじめて見た顔の千春だった。
ふわっと浮遊感。温かくてそのまま眠気に襲われ、

それで、終わり。











2009・11・1