誰が何人泣いても、誰が止めたって無駄なこと。
今一人の人が死にました。それは事実で終わりなのです。受け入れなさい。




やーなこった。



「馬鹿でしょう?」

一生懸命に怪我とか見ている善法寺くんを退かして、
抱きしめて離さない鉢屋くんから彼女を奪い、喜八郎くんはちゃんの襟元もって、

「馬鹿、ばーか」

パァンと、頬を殴った。

「何が進一さん、何が忘れてくれ、何が愛してる?」

「私は綾部 喜八郎なのでそんなこと知らない」

「そんなことさーっぱり分からない。もっと分かりやすく言え。おたんちん」

「寝ぼけてないで起きろ、コラー」

「何血迷ってるの、何迷子になってるの、早く戻ってきてブサイクな面をさっさと直してよ」

言葉を言うたびに思い切り頬を殴るから、徐々に赤く腫れてきている。
周りがはっとしてみんな喜八郎くんを止めようとする前に、僕は前に出て手を伸ばした。
この行為に意味がなくても、僕も喜八郎くんと同じ気持ちだから。
止めないで。止めないで。お願い。
気持ちは通じたかは分からない。
でも、ちゃんと喜八郎くんを引き離そうとした手は引っ込められた。


「聞いている? 

沈黙。

「私はやっぱり」

沈黙。

「あなたが嫌い、嫌い、大嫌い」

沈黙。
沈黙。

喜八郎くんは眉間に皺を寄せて嫌そうな顔で言いました。
無表情ではないはっきりとした嫌悪。ああ、そういうことなんだ。
喜八郎くんの嫌いはやっぱり。

パァン。

「答えは?」


沈黙・・・いや、頬を凄く赤くしたちゃんは目をうっすらと開けた。
言葉は。


「ごめんなさい」


ああ、やっぱり。もうちゃんはいないのか。
彼女が戻ってきて謝っているだけなのか、
同じ口調で、同じ雰囲気で、最後と同じことを口にする。
そして、目をまた瞑っておしまいなのか。やっぱり、もう駄目なのかな。
止まった涙がまた溢れそうになった。でも、続いた言葉は違う。


「綾部くん」

目の端に涙を溜めてヘラリと笑った。


「やっぱり同じことしか言わない」

「えーと、頬っぺたが相当痛いので、今上げている手を下げてください」

「それ以外」

「え、嫌いって言われて嬉しいって言えばいいの?そこまでどMじゃない、ていうか頬痛いし。
本当なら謝るの綾部くんだよ。ぐあーちょ、のっかかるな」

内臓が押しつぶされると小さく呻きながら、ぎゅうぎゅうと抱きしめられているちゃんに。
唖然とした僕らは。皆で、彼女の名前を呼んだ。

「え、はい? です?」




ぎゃーーーーーー。
私・ が目を覚ますとこんな感じな目の前の惨状。
三木とタカ丸さんはぎゅーとくっついている。
あそこで後ろ向いて肩を震わせているのは三郎さんで、
ぎゅーとくっつく中に私を締め上げて殺そうとしている綾部くんを離そうさせているのが
平くんで、良かった良かったと笑顔で居るのが6年ズ。
うん、善法寺先輩、ちょっと泣き笑い顔が可愛いけど、
出来れば私の頬の治療を、そして立花先輩はお前の後輩をどうにかしろ!!
骨がミシミシ言ってる。綾部くんってあの可愛い顔の裏に穴を掘る怪力少年なんだぞ。
私、このまま死ぬんじゃなかろうか。
ああ、ちょっと、うん。やばい意識が朦朧としてきた。
これが最後か。
起きたら、嫌いだと初対面と同じことを言われ、またまた同じ言葉しか返せない
自分の成長具合を痛感して終わるのか。
嫌いって言われて返す言葉を誰か求む!!と丸投げしたい。
こんなのが最後の言葉って。私らしい。フフフ。
そして嫌いと言われた相手に殺される圧死で。フフフフ。

「ぎゃー、ちゃんが、息してない!!」











2009・11・1