巨大な箱のなかには、小さく上下する箱。
足を一歩踏み出して、風を感じる。
コートが薄すぎたか、少し肌寒い。

外は真っ暗。チラリとだけ見えるあれが星ならば、人は成功したといえるだろう。
星の光を欲した人は、巨大な光を作り出して闇の中に闇を忘れるほどの量を埋め尽くした。
きれいな光だね何本も立っている電柱に輝く人工灯にいえば、
満点の夜空を見に行こうとしている先でロマンチックじゃないと呆れた顔で私を見る。
科学者にロマンを求めないで、私のあなたの恋だって、科学的に説明できるのよ。
じゃぁ、してみなよ。としたり顔のあなたに言葉を詰まらす。
脳の構造とか言っている先で奴は、甘い言葉を永遠と吐くのだ。
言葉で負ける自信はないけれど、こう言った時の奴は強い。
小説家だから、いいや、奴はミステリー作家なはずだ。
ロマンチストと現実主義者の恋は、一方方向に引き込まれて、運命という言葉に落ち着いた。

コンビニでコンスープでも買ってからと、足を違う方向に進めれば車のクラクション。
「間に合った?」
って、目の下の隈を濃くしたあなたが迎えに来た。
バカねぇ、締め切り近くて来なくていいって思ったから、わざわざ教えなかったのに。

「ちょうどジャストよ」

私はそういう言葉しか出せなかった。
長くいた彼ならば、それが愛の言葉だって分かっているから、嬉しそうに笑うのだ。
部屋についてからストッキングを脱いで、冷やしたチョコレートを

「進一さん、冷蔵庫からチョコレートとって」

そういって彼に催促するのだ。
私の一日の終わり。幸せな時間の特に穏やかな時間。

はい。と言って渡されたのはチョコレートと白い封筒。

白い封筒に書かれた小さな可愛らしい文字に私は笑みを零した。

「進一さん、日曜日行こうか」


私は、本当の本当に彼らを愛していたの。
月曜日の書類とかそんなもの放っておけるほどに、
そして進一さんも、彼女を愛していたの。
三人手を繋いで笑いあっていた。
それが私たちの小さな箱庭。秘密でとても大切な場所。


車が、人ごみの都会から電灯の光がたくさんの場所から、静かで綺麗な奥深く隠された
施設に到着する姿を私は車の窓から見ていた。

育ていく日数はとてもとても長いのに、終わりはどうして一瞬なのでしょうか。


車で降りた進一さんは、私の手をとって刃物を握らせました。
泣きながら、懇願する。

泣かないで、泣かないで愛しい人。

そのためなら、私。
私は、愛しい人を殺しましょう。

私の愛した人は私の顔を忘れたかのように驚いている。
ねぇ、千春。私たちは幼馴染で親友で何をそんなに驚いているの。

がっと、掴まれた手。猫が何かをにゃーん。
急に画面が暗くなったかと思うと、ふっと、進一さんは私の頬に触れて朗らかに笑いました。

「もういいよ」

「えっ」

「もういいんだ。もう殺さなくていいよ」

そういって私に刃物代わりに手を握らせた進一さんは笑いました。
ああ、良かった。こんなこと本当はしたくなかったの。
だって、私は二人とも大好きなんだもの。
あれ、でも涙が止まらない。どうしてかな。



術は、完璧に解けた。 は刃物をカランと落とし、安心した顔で笑い
それから、ポロポロと泣き始めよく分からない言葉を交えて、
鉢屋、いいや進一に話しかけ始めた。


「お隣さんから美味しいトマトいただいたの、とっても甘くて美味しい奴、
冷やしてあるから食べてね。冷蔵庫に冷やしてあるチョコレートは全部捨てて、
それとお酒は弱いんだから、飲みすぎちゃ駄目だよ。
二段目の棚に通帳があるから、印鑑は下で、それとね。教授にごめんなさい。あの時の
駄目にしたのは私ですって言っておいて。
次はね、ラブストーリーでも書いてみたらいいんじゃないかな。
うんと甘くて幸せな奴。だって、私とっても幸せだったのよ。
私のことは心配しなくて大丈夫。一瞬だったから」

そして、そっと進一の肌に触れて。

「ごめんなさい。進一さん。ごめんなさい。殺せなくてごめんなさい。
諦めさせてごめんなさい。寂しがりやの癖に、そんなこと言わせてごめんなさい。
一人にして、ごめんなさい。大好きよ進一さん」


ごめんなさい、愛してるわ進一さん。だから、
私を忘れて、幸せになって。


と、優しい口付けを落とした。









2009・10・27