「進一さん、冷蔵庫からチョコレートとって」
また、見せつけられる映像。
そうなのだ。
私は は、過去、小春さんの以前の世界と似かよった世界の記憶がある。
幼馴染の彼は生涯一人っきりの恋人として最後までゴールイン。
彼は、ベストセラーを出す作家で、私は、駆け出しの科学者で、
引きこもることが多く会わないことも多い二人だったけれど、嫌じゃなかった。
お互いをちゃんと分かりあえたからだ。いつも一緒にいるのが当たり前だから、
逆にギクシャクする術を知らなかった。あの時、夢も愛もすべてに満たされていた。
ああ、愛とはこういうものである。と、認識するのは幼い でも早かったものだ。
だからと言って、
私が人に愛されることを否定し、愛すことをなかなか受け入れないのは、
別に彼に義理だてをしているわけではない。
あの幸せ絶頂と言える時期を超えるものを他の誰かと想像できないだけなのだ。
永遠の愛はないけれど、死んだ人は永遠である。
切り抜いた写真のような愛は古くなり変化がないが、色あせないものが確かに存在する。
言葉をよく知らない私はそれを永遠の愛、と言うことしかできない。
昔と足して精神年齢もかなり高いはずだが、精神は環境に従うのだ。
だが、幾分同じ年よりも高い精神年齢である私が敢えて言おう。
恋に恋してると。
ブクブクと、沈んでいく。
暗い闇だ。しかし闇とは恐ろしいものであっただろうか?
毎晩暗闇に包まれながら人は安心を得るのに、なぜ闇が怖いと思っていたのだろうか?
は、小春さんが羨ましくあった。
未来を言う彼女は至極楽しそうであったからだ。
私のは過去であり、終わったものであるから誰にも言えない。
それで良かったのに。罰が当たったのか。私だけの宝物で良かったのに。
は、本当は、ちゃんと全部誰かに知ってほしかったのかな?
だから、こんなことになっちゃったのかな。
「お願い、生きて、僕のために生きて」
ブクブクブク、ここは安心できる。何を抵抗していたのだろうか。
私が一体なにであるかなぞ誰に咎められるというのか。
という個であるのに何の意味があるのだろうか?
私は、私である。
だから、私がすべきことは、愛しい人を泣き止ませることだけだ。
進一さんは、泣き虫だから、一緒にいなければならない。
泣かないで、進一さん。分かったわ。殺さないと私はあなたを悲しませてしまうのね。
もう泣かないで。
「殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す」
誰を??????
「君を殺す人だよ」
誰だっけ?
私には幼馴染がおりました。彼らはとても仲良しで、一番の親友、愛情で結ばれているのです。
真ん中の子は、両手に手を繋いでいました。とても幸せでした。
『どうして?』『ごめんなさい。愛しているの』
それが最後の言葉です。ああ、すべて、思い出しました。
なら、参りましょうか。私たちの幸せのため。
「ちゃん?」
「久しぶり、千春ちゃん」
大好き、大好きだよ。
「?千春・・・だれ?」
「?変な千春ちゃん、千春ちゃんは千春ちゃんじゃない」
そう、あなたは私の大切な幼馴染。大好きな人。
だけど、あなたにとって私は憎しみの塊であったのでしょうか?
だから、あんなことになったのでしょうか?
大好きだから、言葉なんていらないでしょう。
言葉をかけてしまえば私はとても悲しくて泣いてしまうから。
「さようなら、千春ちゃん」
その一文であなたは分かってくれるでしょう。
だって、私たち三人は、とても仲が良くて大人ですら間に入れない
固い絆で結ばれているのだから。手にあった刃物を下ろすとき。
「待って」
と聞き覚えがある声が聞こえました。けれど誰か分かりません。
「なにをしているの?」
なにをしているの?とは不思議なことを聞く少年です。
「なにをって、私は生きるのよ?」
ねぇ、そうでしょう。進一さん。と、言う前に私は誰かに拘束されました。
そしてと誰かの泣きそうな声が聞こえました。
嫌だわ。私あまり子供の泣き声は好きじゃないのに。そしてそれは誰の名前かしら?
「どういうことだ」
と、低い声が聞こえた。出所を興味本位で見てしまった自分を責めたい。
術者と呼ばれた男は、あまりの恐怖で、カタカタと震えている。
それでは、喋ることができないのではと思ったが、恐怖は痛みで乗りこえられるのだろうか。
男の肩を掴む利吉さんの手からミシリという音が出て、男は狂ったかのように叫んだ。
「暗示をかけたのだ。愛するものに言われ愛するものを殺す暗示を、
私はお前とそこにいる女が恋人だと思った。殺し合いになれば、いいとそう思ったが、
女に変化はなかった!!だから、か、かかってなかったのだと」
「解けるのだろう」
「・・・・・・私なら解ける。解けるから肩から手をどかしてくれ!!」
の前で小春さんを守るかのようにたった喜八郎に、
押さえつけている鉢屋と文次郎。
田村と斉藤と滝夜叉丸は何が起こったのか分からないように突っ立ている。
田村の口から「?」との声が聞こえるが、はまったくなんの反応も見せなかった。
ここにいるのは、 本人にして とは別のものであった。
独特の雰囲気が柔らかくそれでいて崩れ逝く城のようなものへと変貌していた。
利吉さんの変わり具合は異常だと思っていたが、
この事態の中では、異常はまさしく当然であるだろう。
「この術は愛するものの依り代が必要だ。少しでも知っているものならば」
「なら、私だ。私が、『進一』を知っている」
鉢屋が遠くから叫んだ。愛するものの依り代が進一?一体誰だ。と私が思ったのと
同じことを滝夜叉丸が田村に問うた。
「知らない。そんな奴僕の村にいないし、から聞いた事もない」
知らない幼馴染に絶望している田村に滝夜叉丸が口をつぐみ静かに田村の肩に手を置いた。
この二人は案外仲がいい、微笑ましいとこの場で思った私は、どこか現実逃避をしているのだろう。
「お前、分かってるな。がに戻らなかったら、どうなるか」
鬼も仏も逃げ出すほどの顔をした利吉さんをまたしても見てしまったのだから。
利吉さんとは恋人ではないが、利吉さんはをこれほどまで愛しているのか。
と見当違いなことを考えた私は、別におかしくはない。
2009・10・24