どこにいるのかな、あの子は。
さがしにいこう、そうしよう。だって、悪い子はこらしめなくちゃね。
美しくて優しい人が泣いている。
だから、探しにいこう。そうしよう。
僕らは、なんにも悪いことはしないよ。ただ悪い子を叱るだけ。

このごろ、三郎を見かけない。それよりも、今の僕たちには一つ目的があった。
だけれども、誰に聞いても、彼女と親しかった子にあたっても、くのいちの場所にもいない。

「学園を去ったとかな」
と、だったら小春さんを慰めに行こうぜっとハチが言った時だった。

「おい、あれ」

四年の塊を見つけたのは、顔を合わせてにやり。



「喜八郎、を三年の次屋を見ていてどうするんだ」

「いいから、見てて」

しぃ、と口に指を当てて次屋 三之助を見ている。
しょうがなく、僕は口を閉ざし一緒に座る。
横では、ぶつぶつと後輩を心配している滝夜叉丸がうざい。
僕は、一刻でも早くを見つけたいのに。

「ああ、だから長屋と逆方向だ。とうとう裏裏山まで」

我慢できないと出て行きそうな滝夜叉丸を、喜八郎が掴み、
次屋が行こうとしている場所を指差した。

「ん?」

「なんだ。あの穴」

「喜八郎?」

「だいせーこー」



僕らは、彼らの後ろに続いた。どんどんと、山道へ入っていって、穴を発見した。
どうやら はここにいるらしい。




参ったな。また、長屋が迷子だ。以前ならここで、先輩が出てきてたんだけどな。
今、先輩はどこかにいなくなってしまったらしい。
なんやら、小春さんに悪いことをしたって聞いたけど、夜空で北極星のことを教えてくれたり、
夜中でも長屋を迷子にさせないでくれたりして、いい先輩だから、なにかの間違いだと思うけど。
おっ、明かりが見える。

「すいません。誰かいませんか?長屋が逃げるッスけど」

「・・・・・・・三郎さんではないね、君は三之助くんか。
ハハハ本当に君は隠れていても見つかるな」

「あれ、その声先輩ですか?ここにいたんだ。俺今まで」

懐かしい声っても一、二週間くらいだけど、俺と先輩結構あってたから懐かしく聞こえる。
もっと近くに行こうとすれば。

「駄目だ」

先輩の姿が見えない位置。先輩の声じゃないほどの低い声。

「近づくな」

「先輩?」

「見ないで、そのまま下がって。本当にそろそろやばいんだ」

次に聞こえたのは、か細くて、俺は先輩の声を無視して進んでしまった。
それはいけないことで、先輩の初めての頼みごとだったのに。

「これ、なんで」

先輩の姿は、あの時と変わっていた。髪の毛は、下ろされ一つに束ねられていて、
服も私服だ。けど、そういうんじゃない。手や足に包帯が巻かれて、目の下の隈が、
某会計委員会みたくなっている。細い腕がもっと細くなって折れてしまいそうだ。
服が破れているわけでも髪が乱れているわけでもない、寧ろ今のほうが服も髪も綺麗だ。
なのに、先輩はボロボロの雑巾のようだった。
俺は馬鹿みたく目を見開くだけで、なんていっていいか分からないくて、
それなのに、先輩はふっと目元を緩め、優しく俺に促した。

「いいから、帰りなさい。三之助くん。私がまだ私でいるうちに」

「お願い、だから。帰って」

二度目の頼みごといや、願いは、無意識で足は動き、来た道をただ走りぬけた。
先輩、先輩、先輩。
俺はなんて弱いんだろう。いつも助けてくれる人に何も出来ない何も言うことすら出来ないで、
ただ情けなく逃げているだけなんて。

「おお、三之助。すげぇじゃねぇか。ちゃんと帰って来れるなんて!!!」

感動して泣いている作兵衛に、俺もつられて泣いた。
嬉しいんじゃない。とても悔しいくて悲しい。






誰かが呼んだ名前が薄暗い部屋の中に響いた。
それは、三之助が出て行った後に来た4年生だったのかもしれないし、
幻聴だったかもしれない。
ただ、その言葉で、 は自分以外の人物を感知し目を濁したまま呟いた。

「誰?・・・・・・進一さん?」

!!!」

4年生を押しのけ、後ろに隠れていた5年生を押しのけ、また、5年生を押さえようとした
6年生を押しのけ、入ってきたのは。



何度も何度も名前を呼ばれ抱きしめらている少女は、徐々に目に光を取り戻した。

「私は、そうか、 ・・・・・・ありがとう三郎さん」

崩れそうな笑顔に、偽者の顔は歪みそのまま、彼女に手刀を落とした。
三郎は、静かにを寝床へ連れて行き、優しく布団をかける。

「三郎」

「雷蔵、兵助、ハチやっぱり来たのか」

「だって、その子は悪いことをしただから・・・・・・」

ちらりと見れば、自分達が想像したよりも小さくて幼くて、傷ついている少女。
それを守ろうとこちらを見ている友達。誰が間違っているかなんてすぐに分かる。
だけど、脳裏に掠める泣いている美しくて優しい人。唇を噛み締めれば。

「不破、久々知に竹谷、お前らは小春さんのためにきたのだろう。
じゃ、もういいんじゃないか」

後ろにいる潮江先輩と立花先輩に、武器は全部取られていた。



悪い子はだあーれだ。

悪い子は、 ではなく、真実を知らずに一方的に叱りつけようとした
僕らでした。








2009・10・20