やっぱりくのたまは油断ならない。
小春さんは震えて部屋から出ないで、泣いている。
可愛らしい笑顔が見れない。

「最悪なやり方だ。仲良くして懐いた所でおとすなんて」

「ほんとだよな」

「学園は に謹慎を申し付けたらしい」

「学園を辞めればいいのに」

「にしても、やっぱ天才のやり口は最悪最低だよな。小春さん可哀想」

周りは、全員を罵倒し始めた。その罵倒に嫉妬の色が隠れていることなど
この滝夜叉丸が気付かないわけでもないが、
私だってあまりいい気持ちではないがそれ以上に二人を止めるのに必死だ。
二人とも、殺気を隠さず、とうとう獲物を持った。
三木エ門ならまだどうにかなるが、もう一人は無自覚だ。
あああああ。唯一いつもの顔をしているタカ丸さんに、三木エ門をお願いしますと言う前に、
二人は、緑色に取り押さえられた。
サラリと流れる黒髪に、はっきり見える目の下の隈。

「フム、どう思う文次郎」

立花先輩は、黙って喜八郎の頭を掴み。

「そうだな、まず、三木エ門落ち着け。こんな狭い場所で打ったら大変なことになるだろう」

潮江先輩は、三木エ門から獲物を奪った。

「潮江先輩、だって、が」

「仙蔵先輩。なんで私も抑えてるんですか」

「おや?自覚がないと」

「すいません。立花先輩。喜八郎。鋤をまずゆっくり下ろせ」

立花先輩、なぜ、潮江先輩みたく獲物を取ってくださらなかったのだろう。
私に言われて、むくれた顔のまま喜八郎は鋤を下ろした。
ようやくひと段落と思った丁度に、

「それにしても、ほんとちゃんどうしたのかな」

ぎゃぁーぁぁ。髪が髪がぁぁ。

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

タカ丸さん、ほわほわした顔で、怒らないで下さい。
分かりにくい!!






感情に疎いわけではない。好かれているって思ったことも好きだって思ったこともあったの。
でも、私が頑なに受けることをしない。
だって、いけないことだから。
パチリと眠っていない脳みそとともに、外の世界。黒に赤。肌色。
じじぃと鳴る火。消してくれればいいのに、誰かがつけていったようで、消えることはない。
無駄だな。お金の。真っ暗闇でも構わないのに。

「飯だ」

と、聞こえられた声を向けば一人の男。青紫。
彼のことは知っている有名だから。

「あなた、鉢屋 三郎先輩ですね」

もう、一人の可能性は低い。
前の報告でも分かっているように、もう一人顔のよく似た。
いや、借りている人物は小春さんが好きだから。
あのどこか甘い学園長は、私を殺そうなんて思わない。殺すまでにしないにしろ、
手を出す可能性がある人物を消去法していくと誰か分かる。
まぁ、顔を見てそこから2人のうち1人に絞るだけだから、至極簡単なんだけど。
学園長は甘いな。
集団から出た異分子はそうそうに処分したほうが、のちのちのためだと言うのに。
でも、助かった。この人ならば、私に興味もなく、小春さんに興味もない人物なら。
頼みごとをいえる。

「お願いがあります」





静かで暗いその部屋の中で、体を抱え込んで座っている少女。
小さな体をもっと小さくしていた。俺の気配に気付くと目を開ける。
暗い底のような目は小さい体に似合わないほど、大きい。

「飯だ」

雰囲気に飲まれそうになったが、少女が、底の存在を消して私の名前を呼ぶ。
知っていたことに、ドキリとしたまま、少女は話を進めていく。

「お願いがあります。貴方の名前を呼んでもいいですか?」

「は?」

「そして、違う名前を言ったら、私の名前を呼んでください」

「どういう」

意味だと聞こうとして、止めた。その気持ちよく分かる。
名前を呼ばれないと私以外なにものでない私に私を食われていくそんな感触私は知っている。
しかし、少女 は、ある可能性を疑わないのだろうか。

「分かった。

「ありがとうございます。三郎先輩」

「先輩もいらないだろう?」

「ああ、三郎さん」

私の心臓が早く打っている。閉じ込められた密室、名前を呼ぶ男女。
そして、前々から興味があった少女。
目の前で、安心して微笑むを見て悟るのは、こいつは私が好いているという可能性が0だと
思っている。勘違いだけど、好都合。
鉄格子すら邪魔だけど、誰よりも近く。誰も知ることのない部屋で、独り占め。
上の世界で貶すなら好きなだけしていてくれ。もっと嫌いになってくれ。
そしたら、そのぶんだけ彼女は地上に上がらず、私はもっと好きになる。
そのときの私は自分のことだけで、彼女が言った本当の意味を分かってはいなかった。







2009・10・18