不運すぎる自分が忍者として通用するかを、考えながら毎晩眠れぬ日々を過ごした。
そのうち、立って息をするのも苦しくなった僕を救ってくれた人がいる。
僕がまだ、生きて忍術学園に立っているのはそのおかげだ。
僕を救ってくれた人を何年も探したけれど見つからなくて諦めかけたとき、
僕はある言葉を貰った。くれた人は、可愛くて優しくて当たり前みたくその人を好きになったんだ。
そんな僕は単純だろうか?
「好きです。付き合ってください。小春さん」
「ごめんなさい。伊作くん」
イサククンノコト、コイビトトシテハミレナイノ。
そう去っていく、彼女の背中に僕はもう一人の存在なんて気付かないで、穴に落ちた。
深く深い穴は今の自分の気持ちみたいだ。
僕が、不運じゃなくて、留さんみたく力もあってかっこよくて、
仙蔵みたいに頭も良くて綺麗で、長次のように博識で、小平太のように押しが強くて、
文次郎みたく一つのことにあそこまで生きれたなら
小春さんは僕を選んでくれただろうか?
思いっきり一年生が泣くように泣きたいのに、中途半端な大人である僕は泣けなくて、
穴の中でうずくまる、足はジンジンと痛み熱を持ち始めていた。
泣きはしない代わりに、天を向いて小さな声で呟いた。
「僕ってなんて不運なんだ」
『チガウヨ、イサククン。イサククンハ』
小春さんからの言葉を思い出したけど、違う声にかき消された。
「そうでしょうね」
「誰?」
「不運と言うのは、不運だって思えば、立花先輩の顔ですら不運になるんですよ。
私の顔がこんなせいで、あんなことになった、ああ不運だってね。
貴方の不運が何か知りませんが、今日、太陽は晴れていることや、誰も死なないことを
不運と嘆く人に言える言葉ならありますよ。絶対次がある、と。
雨が降らない日は必ずない。人が死なない日も必ずない。
だから、貴方に言えるのは、一生続くものはないと言うことです
ずっとこのままだと思うのは、貴方がちゃんと周りを見ないからではないんですか?」
足が痛いのを無視して僕は穴から上がった。
そこにいたのは、一人のくのたま。死んだような目をしてしゃがんだ姿で僕を見ていた。
「それに、少なくとも私は貴方の不運のおかげで私は助かりましたよ
だから、私は貴方は幸せをばら撒いているとっても優しい人なんだと思います」
『シアワセヲバラマイテイル、ヤサシイヒト』
そう笑う姿。僕は彼女を知らないけれど、言葉を知っていた。
息の吸い方を教えてくれた人。小春さんと同じ言葉を言う人。
ああ、なんてことだ。
「ねぇ、君の名前なんていうの?」
「私の名前ですか? ついこの間4年ろ組忍たまになりましたくのたまです。
はじめまして、先輩」
僕は、今日失恋をしました。僕にかけてくれた大切な言葉をくれた美しい人に。
そして、その日僕は本物を見つけてしまいました。
本物の彼女は、とても有名なくのたまでした。なんで、会えなかったんだろうと、
僕の呆然とした顔を見て、 は眉毛を下げて苦笑した。
「別に、小春さんに失恋したのが助かったとかそういうわけではないんですよ」
そして、悟ったんです。
僕は小春さんに恋をしていたわけじゃなくて、彼女から出る言葉に恋してました。
だって、今。泣けないはずの涙が出るんです。泣き始めた僕を見て
は、何も言わずに傍にいてくれました。
とても温かい体温と温かい気持ちに満ち溢れていました。
「僕の名前は善法寺 伊作だよ。ちゃん」
「・・・あー。初めて会いましたね。保健室じゃなくて、ある人が私に仕掛けた罠の中っというのが
なかなか乙な出逢いですね」
サクサクサク
「!!!さぁ、善法寺先輩急いで保健室に参りましょうか。ええ、奴が来る。
奴が来るのですよ」
誰かの近づく音に、ビクッと体を震わせ、ちゃんと手を繋いで、どこかへ逃げました。
そのお話は、長次にかりた異国のお話にそっくりで、まったく違うものでした。
僕はお姫様を間違えた。でも、泡にならずに、ともに歩いてる。
2009・10・12
補足:小春さんが伊作に言ったのは、主人公と一緒にいることが多くてつい、真似てしまった言葉です。
傍にいる人の影響力って少なからずあるよね。という裏話。