目の前の少年は、うんともすんとも言わずじっくり足のつま先から、頭のてっぺんまでじっくりとゆっくり、丹念に
糸のほつれを確認する着物屋さんのように私を眺めた。
私の脳内の中では、着物屋さんで思い出した新作の小物を明日までに仕上げることを最も重要だと
赤の円で囲っている所だった。
「貴方、嫌い」
そう言われたのは。
それから少し経って私を嫌いと申し上げてくれましたお方はなぜか私の太ももの所にいらっしゃいます マル
言われたほうは確実に地味に記憶に残る強烈な初対面の記憶を作ってくれた人物、
四年い組 綾部 喜八郎は、今日も今日とて泥だらけの髪を私の膝にこすり付けている。
ご立派な行動は、服をこまめに洗うのが面倒な私に、地味な嫌がらせで、地味に響く。
最初はそりゃ、彼は口では嫌いだといいながらも、私のことが好きなんではないかと思ったが、
穴に落ちて彼が無言で上からずっと見つめられた日のとき、あの大きくて瞬きが少ない瞳を見たとき、
そんなわけがないと悟った。
足をくじいたというのになかなか上からどいてくれないので、治るのも遅くなった。
膝枕をするのも見つかればタックルかまして抱きついてくるのも、電波な彼ならではの嫌がらせだと、悟った。
結論、その嫌がらせは成功したとも言える。さすがアイドル学年を代表するほどの顔だ。
彼を慕う人は意外にも多いと、この私の憩いの間である部屋の惨状をみて、
しっかりと確認させられた。ため息。
私の綺麗な部屋はガラクタ置き場になっていた。
修繕費を誰に求めればいいだろうか。
「と、言うわけで私は稼ごうと思います」
「ああ、それがいい。そのおかげで私は君とこうしていられるのだからね」
とウインクをしていて私の手を握っているのが、利吉さんだ。
忍たまを教えている渋髭なダンディなおじ様である山田先生の本物の子供。
本物と言えば偽者がいるのかといわれるが、私は最初先生の子供だということを信じなかった。
それどころか偽者だと思っていた。だってビックリするほどのハンサムで、キザなのだ。
くのたまに聞いてみれば、みんな口を開いてかっこいい、結婚したいと言う人物なのだ。
いや、別に山田先生がかっこわるい訳ではないが、
その・・・山田先生は特殊な技術を持っているから、
あんなインパクトのあるものを見せつけられると、結婚無理目。とか思っていたのだ。
「すみません」
一応、子供である利吉さんに謝っておこう。利吉さんは勘違いをして
気にしないでいいよと言ってくれた。優しい。
だが、ここで誤解してはいけない。
私は顔が良くて仕事も出来て優しくもある人物に好意なんぞ
一ミクロンも抱かない人間ではない。
どちらかというと利吉さんの行動にドキッとさせられることが多い。
が、この人は女であれば大体こんなんなので、本気にしないことが重要だ。
でなければ、私は利吉さんに告白してしまうところだ。
利吉さんは、私を可愛がる少数の人なので、きっと悲しそうな顔して、
妹しか見れないとかいいそうだ。
いや絶対言うだろう。
振られた挙句に、仕事も減るなんてたまったものではない。
だから、私はこうした握り締められた手に口付けされると言う過度なスキンシップも
大丈夫で、恋人の振りをして仕事にいくこともできる。
彼は私を好きではないという信念のもとでの賜物だ。
その確固たる意志は、彼から毎度の指名にまでこぎつけた。
そして、普通よりも経験をつんだ私は、周りよりも二・三歩前に進んでいる。
今では、くのたまで一番か二番それくらいの実力。
私、 はそう思っている マル