忍術学園と書かれた看板の前に立つ。
全体をまじまじ見ながら、一拍間を空けて、
足を進める。門番に、いつものように小松田くんがいて、
今日はなんの御用で?と聞かれたので、
「人生最大の選択だよ」
と答えておいた。小松田くんは、へー頑張ってくださいね。
とのんきに答えてから私が書いた入門表を見て、
はい大丈夫ですと扉を開けた。
門から一歩入ると、別世界のように感じた。
なんども訪れているのに、今日はまったく違う場所みたいだ。
息を一回吸込み、指定した目的地に行くと、はいなかった。
当たり前だ。一刻も前なのだから。
これでも、色々と焦る思いをぎりぎりまで押し殺した時間だ。
私はその場に突っ立て、懐かしい思い出を思い出していた。
と初めてであったとき、
が違う人物になってしまったとき、
壊れそうになったとき、違う人を好きになったとき、
笑ったとき、泣いたとき、怒ったとき、
春夏秋冬のは、かわりなく、誰よりも輝いて見える。
頭の中は、全部のことばかりだ。
ここ数日間なにしていたのかも、食事をしたのも、息をしたのも
覚えてないほど、で溢れていた。
ちなみに、最悪な結果が夢に出てくるので、二日は寝ていない。
妙に頭が冴えていて、目の下の隈は酷い。
隠そうかと思ったけれど、
一杯いっぱいな私は、足が勝手にここに動いていた。
頬に触れる髪。
風がそよそよ吹いて気持ちいい。
本当に、長らく、一人の少女に恋をしていたものだ。
これも、今日で終わる。
手に入れるか入れれないかは分からない。
もっと時間をかければよかったなんて弱音も出てくる。
あと、数分。
が私の妻になるか、はたまた失恋か。
どっちに転んでも、笑える自信がない。
嬉しくて壊れるか、悲しくて壊れるか。
ああ、でも彼女に恋した瞬間から私は壊れている。
ぎゅっと拳を握りしめて、太陽を見ていれば、凄い音が聞こえた。
忍びの学園なのに、全然忍んでいない音に、1年生か?
と顔をあげれば、必死の形相をしたが私の横を通り、
そのまま走り去ったかと思うと、もう一度私のもとまで戻り、
私の腕を掴み、そのまま学園の門を通り過ぎた。
出門表!!と小松田くんの声が聞こえたが、
は、ぺっと胸もとから何かを投げ捨ててそのまま走る。
小松田くんが追っかけてこないところから、あれは出門表なんだろう。
「?」
情緒もなにもない学園の出かたに、いささか驚きが隠せない。
何百のシュミレーションのなかにもこの出かたは、なかった。
「説明は後です。逃げなければ!!」
一体何のことだろうか。さっぱり、分からないけれど、
さっきから腕が胸に当たっていることに、頬が染まり、
ポワンポワンした気持ちになった。
・・・・・・自分で走るのはもうちょっと後にしよう。
茶店に来ると、はお茶を一気飲みして、
それから、周りを見渡し、深い溜息を吐いた。
数秒、沈黙してから、ガバっと起き上がる。
私を見て、ちょっと頬が赤くなり、目をそらしは言った。
「あ・・あー、遅れながら、私、。
利吉さんと一緒に行くことにしまして」
「それは、私の妻になってくれるってことか?」
「・・・はい」
最初のあまりにもの出来事に、ポカンとした私だが、
そういえば、そのまま学園を出て行ったということは、
そういうことだって分かっていたのに、言葉にされて、
ようやく、じわじわと幸福が巡ってきて、私はをおもいっきり抱きしめて。
「やった。やった、が私の妻になった!!」
と、叫んだ。
り、利吉さん止めてください!!
恥ずかしいですよ。と聞こえたが、そんなもんお構いない。
周りに、おめでとうと、拍手された。
拍手は連鎖されて、なんだか知らないけれど、みんな拍手している状態に、
は真っ赤だ。
拍手の輪を切って、は、そそくさと違う店まで私を押していった。
「私、利吉さんがこんな恥ずかしいことするなんて思いもしなかった」
「そう?私は、会う人会う人に妻です。と言いたいほど嬉しいけど」
「そ、それは勘弁を」
真っ赤だ。可愛い。もうここで食べたい。
にたにたした顔も隠さずに、もう本音も隠さずに。
「、今めちゃくちゃを食べたいんだけど?宿借りない?」
パタパタと顔の赤さを直そうとしていたの顔が、さっきより赤くなった。
「い、色々と自重してください!!」
「えーだって、私の妻だし、いいでしょう?もう何年待ったか」
「っ・・!!っっ!!」
言葉をなくしているの耳に、そっと囁く。
「ねぇ、良いって言って?」
耳を覆って、すぐ離れたが、私ががっちりを抱きしめているから、
顔が近い。にっこり笑うと、は、うっと、私を真っ赤で、半泣きに見つめている。
・・・もうこれは、キスをしろということだな。と理解した私が、
近づけば、私たちの間に、鋤が入った。
「言うわけない。離れろ、この獣」
邪魔したものを睨めば、私服姿の綾部 喜八郎が立っていた。
「・・・なんでいるの?」
「あー」
は額を抑えている。
「私もいますよ」
綾部くんの後ろからひょっこりと、小春さんも出てきた。
え、ほんと、なんで?とを見ると、顔を思いっきり逸らされた。
「私は、が嫌いなので、付いていくことにしました」
「はっ?綾部くん。君、どういう神経してるの?は私の妻・・・」
妻のつと言う前に、鋤で首を狙われた。
ばっと離れて、距離をとると、殺気に満ちた綾部くん。
「あのね、利吉さん。綾部くんはね、ちゃんのこと大好きなの」
小春さんが私の耳元で、囁いた。
そんなことは知ってる。
そうじゃない、なんで付いてきたかのほうが重大だ。
そして、綾部くんは君の彼氏だろう。どうにかしろと言いたかったが、
小春さんの笑顔が歪だったから、何も言えなくなった。
「大好きだから、付いていくの。
ごめんなさい。綾部くんが諦めるまで、許して?」
可愛く言われても、私は以外全部カカシにしか見えない。
「いや、駄目。
私がどんなにここまで頑張ったか。早く連れかえってくれ」
「そうは言っても」
ちらりと小春さんが綾部くんとを見る。
は、綾部くんの胸ぐらを掴んで叫んでいる
「だから、言ってるでしょうが!!私は、利吉さんと行くことにしました。
ってかなに?ー嫌いだからここまでするのは、迷惑どころの話ではないよ。
小春さんまで連れてきて、ったく、ほら、早く帰って帰って!」
「じゃぁ、あなたも帰る?」
「いや、帰らないよ私。ってかちゃんと退学届けも出したし、
綾部くんは出してないでしょう?勝手についてきて」
「よし、足を切ろう」
綾部くんからの足を狙った鋤を避けて、は叫んだ。
「ひゃぁぁ!!何軽やかに、殺そうとしてんの。
え、何?殺人するほどの嫌悪感?ぎゃぁぁぁああ、やめろ!!」
さすがに、見ていられない。というか私のもんになんてことを!!
ぼんと、煙幕弾を投げると、そのままを掴んで、走った。
「り、利吉さん?」
「うん。ここで食べることは諦めて、さっさとやつらをまいて、愛しあおうか?」
そういえば、照れると思ったけど、は私を見て、ほにゃっと顔を崩して、
「はい」
と笑った。それを直で見てしまった私の顔が赤くなる。
ああ、私は、一生この人には敵わないだろう。
2010・12・31