いつだって私は完璧だから、何をしなくてもみなくても
周りが歓喜の声をあげる。
それって裏をかえせば、何もみたくなかったわけで、
三木ヱ門を好きになって、恋して、
そして、自分のほんとうの姿は
完璧完全の負け犬で、そのくせプライドが高いから、
目を閉じて口を開いてキャンキャンと、喚いた。
「これ、どうぞ」
今、私はうじうじとした自分をやめて、完璧な像に近づくこともやめて、
見苦しいことをしている。
三木ヱ門に渡したのは、料理も天才的にうまかった滝夜叉丸と、
試食ならまかせとけの文ちゃん先輩と、看病ならいつでもやってますの
いっさ先輩に手伝ってもらってようやく完成したものだ。
長かった試練の時を思い出し遠い目になったが、
疑わしげにみている三木ヱ門の視線に気づき、人が食べれるできの
お菓子を押し付けて走って逃げた。
私が最後のあがきは、
諦めると諦めて、進むことで諦めようっていう矛盾した作戦で、
とにかくガンガン攻めようぜな作戦。
滝夜叉丸曰く、あいつは押しに弱い。とのこと。
滝夜叉丸と三木ヱ門はよく喧嘩しているけど、ケンカするほど仲が良い
というのは嘘でもないみたい。
私はそれから何度も三木ヱ門に挑み続けた。
嫌な顔されても、突き返されても何度も何度も。
「しつこいな。なんでこんなことするんだ?」
その台詞は聞き覚えがあった。
私が自分のことを完璧だと思って、三木ヱ門を追い回していた
あの日々に言われた言葉で、
ふっと笑みがこぼれた。
「あなたが好きだから」
あの時と何一つ変わらない答えを言う私は、
きっと途方も無い不完全で歪でどうしようもない。
でも、どうしてかな。
言ってすっきりした。
ずっと好きだった。今も好きだ。
嫌われても不釣合いだと分かっても好きだ。
自己満足かもしれない。
嫌われている、うざがられているって分かってる。
でも、頑張っていた日々は全部無駄じゃなかった。
私は、不完全で歪でどうしようもないけど、
完全で完璧なんてもうどうでもよくて、
自分のありのまま生きていける。
何も変わらない自分で在り続けれる。
そう気づかせてくれた三木ヱ門は、優秀な忍びらしく
私の前から音も立てずに消えた。
今回の力作のかっぷけーきだけを残して。
変な女が来た。
女は平凡の顔立ちをしていた。
いつもいつも、僕の前にたち食べ物を寄越したり、手ぬぐいを渡してきた。
なんでそんなことをするのか、くのたまだから、何かの罠だ。
と思ったが、同級生に聞けば、
彼女はくのたま最後の最良にて最悪らしく、
そんなことをしない。というか、おまえの◯◯じゃないか。
と言われた。聞き取れない部分があったものの、興味がなかったので、捨ておいた。
そんなことよりも僕の頭の中は、
綺麗で可愛くて料理うまい完璧な彼女、冬華で占められている。
次の休みの日どこへいこうとか、今日はどんなことを話そうとか、
変な男はついていないとか確認することに忙しくて、
変な女の子は、彼女の元へ行けば忘れてしまえていた。
今度来たら冬華がいるからと、断ればいい。
そう簡単に思っていた。
しかし、彼女はしつこかった。
数十回目の贈り物。
目の前でカチコチに固まり赤い顔して渡す変な女に、
苛立ちが募り始めた。
何度も拒否したのに、何度も懲りずにやってくる。
聞きもしないのに、今日の作品がいかに素晴らしいか教えてくる。
まるで滝夜叉丸だ。
女だから殴らないが、正直実力行使をしてでも、
来ないで欲しくなっている。
イライラした気持ちを隠さずに、彼女に尋ねた。
彼女は、いつも僕を見ないで下を見て恥ずかしそうにしていたのに、
急に僕の目を真っ直ぐ見て、弥勒菩薩のように柔らかな微笑みで、
「あなたが好きだから」
そう僕に告げた。
その言葉にその音にその眼差しに、僕の記憶が揺れた。
怖くなって彼女から逃げ出した僕は、
息を荒げて、僕の愛する人、冬華の場所へ逃げ込み、
「どうしたの?」
と尋ねる冬華に何も答えれずぎゅっと抱きしめて体温を確認して
落ち着こうと思うのに、冬華に触れれば、
全部忘れれるはずなのに、さっきの彼女の映像がずっと残っている。
どこかで僕は彼女を知っている。
2011・12・6