滝夜叉丸がちゃんに告白した。
4年の綾部がやけに凝った穴を掘っていると思えば
そういうことで、その後、また行こうとすると、
目の前に穴があいていてまた同じ手はくわない。
穴を華麗に避けると、膝ぐらいしか入らない穴に入り、
カランカランと鈴が鳴ると同時に、上からタライが頭にあたり
どこに吊るしていたんだと上に顔をあげると、
いけいけどんどんの叫び声と「あ、ボールが変な方向に」
の声が聞こえて、太陽が何かに遮られ、僕の顔面には
小平太が投げたと思われるボレーボールが激突し、
よろけた僕は、最初にあった穴に落ちた。
今日はまだそこまで不運じゃないな。穴の中で顔を抑えていると、
の友人である秋穂が上から僕を覗き込んで、
文次郎が告白したと告げた。

「どうするんだ。お前」
「どうするも、こうするも助けてくれない?」

秋穂は、嫌な顔をしたが、の友人だけあって根は優しいので、
手を貸してくれた。



あそこだと怪我が増えそうだということで、保健室で秋穂といる。
秋穂は先程の仕切りなおしだとばかりに神妙な顔で口を開いた。

「これで、滝夜叉丸と潮江先輩が告白したことになる」
「僕も前から告白してるんだけどね」

伝わらなければ、伝えてないのと同じだ。
と真理をついてきた秋穂に、返す言葉がない。

「善法寺先輩はどうするだ?」
「どうしようかな」
「どうしようかなって」

でも、そろそろ来る頃だと思うんだけどな。
と、思っていると、秋穂がすっと立ち上がり僕の前から消えた。

「いっさ先輩!!どうしよう」

ちゃんは、酸欠かそれとも何か恥ずかしいことを思い出したのか
顔を赤く染めて保健室の扉を思いっきり開いた。
僕は前者であれと思いながら、にこりとちゃんが安心する笑をつくる。

「どうしたの?」

ちゃんは僕の笑みに一瞬ほけっとしてから、
ほっと安心した顔をした。
それから、たどたどしく話のあらすじを聞かせてくれた。
一生懸命話すちゃんも、告白に照れるちゃんも
可愛い。
文次郎と滝夜叉丸。死ね。とこんな表情見せてくれるなんて、でかしたという7:3の割合の気持ちがせめぎ合っている。
ちゃんは、すべて話し終わって、僕を上目遣いでちろりとみた。
ちゃんは自然に人を落とす術を身につけている。
その感情をぐぐっと押し込み、真剣な顔をして、ちゃんに尋ねる。


「それで、ちゃんはどうするの?」
「どうするって」
「このまま田村を思い続けるか、他の二人を好きになるか」
「・・・・・・滝夜叉丸は、助けてくれるっていったの。
でもね、いくら賢くて優秀な滝夜叉丸でも、人の心は動かせない。
三木エ門は、あの人が好き。・・・無理だよ」
「じゃあ、諦めるの?」

ちゃんは、小さな声で、嫌だ。と呟いた。
僕は、ちゃんが田村をまだまだ全然好きだろうと予想はしていたけれど、
2割・・・いや4割・・・いや6割の気持ち、
もう諦めていると思っていた。
ちゃんはそんな僕の姿に呆れられたと思ったのか、
目を伏せてすまなそうな顔で、いつもより小さな声でしゃべる。

「・・・あーあ、馬鹿で阿保で間抜けで、
プラスでしつこいってついちゃって、本当、格好悪いや」

ちゃんは、唇を噛み締めて、わざとおどけた笑をつくろうとしたけど
失敗して歪な笑みで、見ていられない。

「格好悪くないよ」

ぎゅっと抱きしめると、相変わらず小さな体。
いや、また少し痩せたかもしれない。

ちゃんは格好悪くない。全然格好いいよ」
「・・・・・・泣き虫も治さなくちゃ・・・なぁ」

それはしなくていい。
僕が君を抱きしめられなくなるから。
ちゃんはゴシゴシと目を擦るから、僕の手ぬぐいで拭うと、
照れた顔で僕にいった。

「いっさ先輩はいつも私のこと助けてくれるね。
えへへ、お兄ちゃんがいたらこんな感じかな」
「お兄ちゃんか」
「うん。ダメ?」

ちゃんの目が不安に揺れる。
僕は滝夜叉丸が告白した時、すぐに動かなくてはと焦ったが、
文次郎が動いたのを知って、動くのをやめた。
ちゃんは恋愛ごとに慣れていない。
田村に振られただけでも大打撃なのに、そこに告白なんて、
2つのことを同時にこなせない子だ。
そんな不安な中で、2人のことを相談できるのは、僕だけしかいない。
2人が押すなら、僕は、そっと包みこもう。

でも。

「僕もそうであったら幸せだなって思っていたよ」

昔の僕は君をそう思うことで諦めようとしていたんだよ。
その言葉は覚悟したよりもぐっと胸に刺さって、今すぐ薬でも盛って、
体の自由を奪って、肉体からでも恋愛出来る術を教えたくなるけれど、
そしたら。

僕の言葉に安心して微笑む君も、言ったのは自分なのに照れる君も、
僕が大好きな君に二度と会えなくなるのなら。

「とにかく、1回!!
あと、1回だけ挑戦してみる。そんで最後にちゃんと終わらしてくる。
じゃないと、二人にも失礼だもん」
「僕も手伝うよ」
「て、手伝ってくれるの?」
「僕はいつだってちゃんの味方だよ。お兄ちゃんなんでしょう?」
「いっさ先輩って優しすぎるよ。
なんか変な人に騙されないか心配になってくる」
「それは君だけだから大丈夫」

僕は、今は君の兄に甘んじよう。
僕の本音に、ちゃんは、不思議な顔をしているけど、
手を差し出して、

「じゃあ、行こうか」

っていえば、君は簡単に手を出す。











2011・11・4