私、自分のこと美人で誰もが羨む完璧超人だって妄想してた時があった。
その時は誰もかれも私のこと好きだって思ってた。
告白しないのは照れているから。
でも、現実は全然ちがくて、普通のドジでマヌケで、誰も好きにならない女の子だった。
運が良く大好きな人と恋人になれたけど、今は・・・。
ううん、今はそんな話じゃない。
問題は、私のこと好きだって言ってくれる人なんていないって思ってたのに、
黒い、綺麗な髪が靡いて、ぱっちりな黒目がちな目で、すっと通った鼻と、
左右対称の顔、彼が自負するほどある美貌が現れていた。
成績だって、座学も実習も首位な彼は私に言った。

「好きだ」

と嘘だと思った。でも、滝夜叉丸の目が嘘だと思うことを許さなかった。
そして、滝夜叉丸は続ける。
あの馬鹿の目を覚ませるぞ。と。
滝夜叉丸は、私を好きなのに、違う人を好きであってもいいと言う。
好きなのに好きな人の応援をできる滝夜叉丸の愛し方に戸惑って、
初めて言われた好きに戸惑って、



の最後の名前を聞く前に逃げた。
でも、首位とドンケツの差は歴然で、すぐに、襟首を掴まれた。
滝夜叉丸は綺麗な顔を近づけて、

「お前が逃げても私はいくらでも捕まえれる。
何度やったて同じだ。私は何十何百お前を捕まえる。
優秀で天才で本当の完璧な私・滝夜叉丸に不可能はないのだ。
だが、お前はそんなことをしている場合か?
あの馬鹿の目を覚まさせるんだろう?
好きなんだろう?冬華さんから奪うんだろう?
だったら、私の好意を利用しろ。これもくのたまの訓練だと思え」

彼のぱっちり二重と黒目の割合の多い目を見て、
彼の繊細の美しさよりも、力強い言葉に、ぽけっとマヌケ面をさらした私は
半分に開けた口を開く。


「滝夜叉丸って」
「なんだ?」
「滝夜叉丸って格好いいね。初めて思った」

そういったら、滝夜叉丸の白い肌が真っ赤になった。

「・・・・・・そういうのはこういう時にあまり言うな」
「なんで?」
「なんでって、私が男でおまえが女で私にとって特別なんだ。分かるだろう!!」

意味が分かって、自分の馬鹿さに私は滝夜叉丸と同じように顔を赤くした。







と平滝夜叉丸の二人が初々しく顔を赤くしている姿を
木の上に立って覗いていた私は、舌打ちした。

「チッ、滝夜叉丸め。動きが早いな」
「なんであのとき妨害しなかったんですか?立花先輩」
「雹か」

横を見ると、違う枝の上にピンクの見覚えのある人物。
信者の雹は、ふっと口元だけ笑を浮かべた。

「ピュアを応援し隊の一員のくせに使えませんね」

精神攻撃が得意な雹の攻撃に、私は鼻をふんと鳴らす。

「可愛い後輩に頭を下げられた。
あの喜八郎がだぞ?さすがに無下に出来るわけがない」
「そうですか。あなたの中にそんな感情あること知りませんでしたよ。
それにしても滝夜叉丸やりやがりましたね。
は告白されたのは初めてですから、
これでもう滝夜叉丸は忘れることの出来ない存在になった。
田村を忘れれる可能性ってやつですね。どうしますか?かなり強敵ですけど?」

じろりと睨まれる。
これでも、雹は我が友人で初恋が今来ている絶賛恋し中な潮江文次郎と
その相手であるを応援している一人である。
私としても心強い仲間なのだが、今回の滝夜叉丸の告白に少々焦っているようだ。
言葉の端端の刺が半端ない。
だが。
私は笑う。
私の笑に、雹はおやと眉毛をあげた。

「むしろこれは好機だ。あの隈男はのんびりしてるから卒業まで告白せずに終わりそうだったしな。
滝夜叉丸という存在はたしかに脅威だ。だからこそ動かなければならない。ほら、見ろ」
「・・・・・・」

私が指さした場所では顔を真赤にして固まっていた二人のもとに、
文次郎が進んでいっている。


。鍛錬に行くぞ」
「あ、文ちゃん先輩」

ぐいっと引っ張られたに、滝夜叉丸が待ったをかける。

「潮江先輩。私も同行していいでしょうか?」
「え、滝夜叉丸も行くの?十分じゃん」
「バカ。お前がどのくらい出来てるのか見てやろうというのに」

バカって言ったほうがバカなんですーとと滝夜叉丸が低次元な言い争いをし始めた。
喧嘩しているのに、ピンクのハートが見える。
はどちらかというと、滝夜叉丸のような性格だったのだ。
相性が悪いわけがない。
二人のピンクな空気に、ビキリと青筋が入った。

「だったら大丈夫だ。俺がを見ている。お前は、必要ない」
「いえ、ですが」
「必要ないと言ってる」

そういってやや怒りを込めた目で滝夜叉丸を見る文次郎。
は頭を左へ右へ動かして、
無理やり作った笑顔でわざと明るい声を出した。

「・・・・・・えーと、文ちゃん先輩?鍛錬するだけだし、いてもいいんじゃないかな」
「嫌だ」
「え」
「俺は、おまえと二人がいいんだ」

ああ。ついにこいつ切れやがった。
私はにやめ顔が止めれない。
横にいる雹はすごい顔でさぶイボがと言いながら肌をさすっている。
日頃、三禁とか言って自分を律している男は、
昔から切れると性格が幼くなる。
理論なんてすっとばして、ただたんのわがままを堂々と言い張る。
だけど、これを常日頃真面目な男がやると威力も倍増。

それ。

「・・・・・・・は、はい。えーと、じゃあね、滝夜叉丸」
「・・・・・・ああ」

と滝夜叉丸は目が点のまま、物事は文次郎の望むように動いた。







二人で訓練してると、ちらりちらりと何か聞きたそうな顔で
がこっちを見る。
なんだ?と聞くと、は、顔を一回下に向いて、それから俺を見た。

「えーと、今日はどうかした?文ちゃん先輩」
「滝夜叉丸と仲がいいな」
「・・・そ、そかな」
「告白されたんだろう」

の返答の秒数は長かった。
卵からにわとりになるくらい長かった。
は足を止めて、同じく足を止めた俺を見上げた。

「・・・・・・・違うから!!いや、違わないけど。それで、私、
三木エ門から滝夜叉丸に移るとかないから。
でも、その初めて言われたので、すっごくどうしていいのかわかんないと言うかですね。
その、だって・・・・・・・初めてだったの」

やめろ

「三木エ門も私がすっごく攻めて落としたから、
私を好きって言ってくれる人がこの世界にいたなんて、そのですね」


そんな照れて嬉しそうな顔で他の男のことを言うな。


「すっごくその「俺も好きだ」・・・はい?」

つい言葉に出た。三木エ門をちゃんと忘れてから言おうと思っていたけど、
滝夜叉丸との噂話で、地面はぐらついて、二人が一緒にいて頬を染めている姿に、血がぐらついた。
今は、俺が創りだした熱くて暗くてどろどろしたものが、
毛細血管を通して全身を渡り、とうとう口の器官を壊した。
俺の声は、彼女のことなんてちっとも考がえず、俺のずるいという気持ちだけで動く。

「滝夜叉丸が最初じゃない。俺のほうが先に、好きだって言ってた」
「・・・・・・・・え、え?・・・そうだったの・・・ごめん、聞いてなかった」

は、顔を真っ青にして、肩を落として、こんな重要なこと聞いてないとか、私馬鹿だ。
すっごいお世話になってるのに、え、好きって、
うん・・・。えーと、それって、いや、その前になんで聞いてないし私。
顔合わせれない。部屋にこもるしかない。
と、ぶつぶつ独り言言って心の声がただ漏れなことに気づいていないに、
俺の黒い気持ちはしゅるりと流れた。

「すまん。言ってなかった」
「え、嘘ついたの?」

頭を抱えていたが顔をあげる。

「そんな嘘俺がつけると思うのか?」
「う、うーん」

そんなポテンシャルがあるとしたら、それは、鉢屋先輩に違いない。
やっぱり、心の声がただ漏れだ。

「それが正解だ」

は、ああと納得した顔をしてから、口元を押さえて下を向いて考えこんで、
またなにか理解して、それから、顔を真赤にして、おそるおそると俺を見上げた。


「えーと・・・文ちゃん先輩。つまりどういう?」

ここまで言ってしまったんだ。
腹をくくろうとをまっすぐに見る。
の細い体がビクリと震えた。
震える彼女の頭をなでると、ほっと安心した顔をする。
その顔に、満たされる。
そうだ。滝夜叉丸に盗られそうになって分かった。
三木エ門との仲が終わるまでの礼儀がなってないとか、
の気持ちを考慮してないとか、
そんなことで怒りが湧いたんじゃない。
三木エ門の元にはとっくにとうに戻せれない。
だって。

「バカモンが、今度はちゃんと声にするから聞けよ。
俺は、お前を、女として愛してる」

を、俺は誰にも渡したくない。
これは俺のだと、細胞全てが叫んでいる。











2011・7・14