今日はくのたまと忍たまの合同の課外授業だ。
くじを引き、同じ数を引いた人でペアを組み、
目標地点まで仕掛けられた罠をかいくぐり、
どちらもかけることなく到着し、早く到着したものが良い成績をつけられる。
いかにお互いにあわせることができるかが、授業内容。
白い雲より空の青の分量が多い日で、心地良い風が頬を撫ぜた。
私は雹と秋穂のテンポのよいじゃれあいを見ながら、
遠くにいる三木ヱ門を横目で見ていた。
三木ヱ門に片思いしていたときよりもずいずいいけなくなった分、
いつもより近くに見える三木ヱ門にどぎまぎしているときだった。
三木ヱ門の凛々しい声が響いた。
「9番誰だ?」
9・・・番?手元にある番号を見ると私のくじの番号が9番と書かれている。
なんという神の導きだろう。
喜んで三木ヱ門の所へ行くと、
三木ヱ門は、その他大勢を見るような目付きをしていた。
「僕の足をひっぱるなよ。滝夜叉丸になんぞ負けるか」
「あ」
そうだよね。三木ヱ門はもう私に興味ないんだよね。
会えば、戻っているかななんて甘い考えだったよね。
気落ちした私は、左足で右足を引っ掛けるという芸当をした。
「・・・・・何をしている?」
地面に突っ伏した私にさっきよりも冷たい声がかけられる。
涙が出そうだ。でも、ここで変な態度とるわけにはと、
ぐいっと頭を上げる前に、三木ヱ門の怒声が響く。
「何するんだ。滝夜叉丸」
三木ヱ門は頭を抑え、滝夜叉丸を睨んでいる。
頭を殴られたようだ。
胸ぐらを掴みそうな勢いの三木ヱ門に、滝夜叉丸は負け時と睨む。
「なにって、お前の目を良くしてやっているんだろう?」
「は?」
なにいってんだこいつの顔をした三木ヱ門のもっている紙を
綾部くんがひょっこり覗いて指差す。
「三木、その番号間違っているよ。9じゃなくて6だよ。
ほら、下に線、はいってるでしょう?」
「本当だ。三木くんたら、お茶目さんだね。
さっき6番の子いたから、ほら、あそこ」
斉藤さんが、遠くでペアを探してうろうろしているくのたまを指さした。
三木ヱ門はまじまじと紙を見てから、
「くっそ、礼なんて言わないからな。
今日こそ僕が一番だってこと、教えてやる」
と滝夜叉丸に吐き捨てた。
滝夜叉丸は三木ヱ門を見ずに、私を見る。
「いくぞ」
ああ、私って本当に駄目くのたま。
さっきまではいい天気だと思っていたのに、晴れ晴れしい空が憎くてしょうがない。
「ごめんね」
私は、私の足首をぐっと固定している滝夜叉丸に謝る。
さっき転けたことで、足首をくじいたらしい。
スタートして数分で、足が痛んで初歩的な罠に引っかかってしまった。
滝夜叉丸は罠を解いて、私の怪我も見抜き、
なおかつ怪我の手当もしてくれている。
いいといったが、体育委員には怪我が
つきものらしくこういうのはお手のものらしい。
「こういう事態に対応出来る素晴らしい滝夜叉丸を称える言葉
がごめんねとは、どういうことだ?もう少し頭の方を鍛えろ」
「私のせいで順位が落ちた」
「馬鹿な事を言うな。まだ勝負は終っていない。
それどころか出発点がまだ見えているではないか。
この滝夜叉丸に任せとけば、上にいける。
お前はそんなこと気にせず、お前が出来ることをしろ」
「私に出来ることって」
「馬鹿みたいに笑っとけ、そうすれば敵も力を抜くだろう?そこを狙う」
なんという作戦。いや、それって私がへっぽこだってこと?
私だってちょっとは成長しているし、前よりもくのたまらしいことが出来ると、
と怒りが湧いたので、滝夜叉丸に訴える。
「滝夜叉丸が任務行っている間、私だってちょっとは成長してるんだよ」
そういえば、滝夜叉丸は目を大きく見開いた。
凄い驚かれている。失礼なと思ったが、
滝夜叉丸はすぐに人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ほぅ、ならば見せてみろ。評価してやる。
駄目なら、私直々に鍛錬をつけてやる」
「良かったら?」
「私からの素晴らしいご褒美だ」
素晴らしい?滝夜叉丸の素晴らしい褒美って、
滝夜叉丸のプロマイドとかかな。・・・・・・いらないなぁ。
「なんだその顔は?」
顔に思っていることが出てしまったようだ。
むっと顔をしかめる滝夜叉丸は、
これで終わりとばかりにきゅと最期に結んだ。
立ってみろと言われて立つと痛みがない。
すごいなぁ。と感動して、私は目的地を見た。
凄く遠くに見える。だから、まだ分からない。
私たちは最後尾だけど、みんなはちょっと前かもしれないし、
終わってないんだから、最下位かどうかも分からない。
ぐっと地面に力をいれて、滝夜叉丸にお礼をいって、
「まぁ、いいや。私だって頑張ってきたんだから」
と前に進んだ。
目的地には人がちらほらいた。
まだ雹と秋穂はいないようで、手持ち無沙汰な私に滝夜叉丸が声をかけた。
「」
「なに?」
「・・・・・私が行っていること知っていたのか?」
行っているというのは、滝夜叉丸がここ数日に行っていた任務のことだろう。
滝夜叉丸がこちらを見ずに、何もない自然な緑を食い入るように見ている。
眉間に皺をよせて何を見ているのだろう。
気になったので、滝夜叉丸が見ている緑を見た。
「当たり前だよ。滝夜叉丸ってどんなに目立つか分かってないの?
いないだけで、4年の色を失うっていうか」
なんというか。過ごしやすいというか静かというか。
付け加える言葉が酷過ぎるので黙った。
数秒の沈黙の後、滝夜叉丸は、眉間から皺をなくし、
サラスト2位という綺麗な髪をかきあげて、目をつぶり、少し頬を染めていた。
私の間違えじゃなければ後ろに薔薇が見える。
「そうか。そうだな。私は平滝夜叉丸。
4年で一番の色男で、眉目秀麗で完璧無比というのは私のための言葉。
よく分かっているではないか、」
「・・・・時々、滝夜叉丸を見ていると昔の私を見ているような気がするよ」
「私は首位の成績もとっているし、女装では4年で上位だ」
そういうのじゃない。
もしそういう意味でいうなら、4年で誰が言っても身の程知らずだろう。
「中身じゃなくて、言い方だよ。
滝夜叉丸が本当に凄いことは分かってるよ。
だって、今回だって凄いし。
最下位が3位になるなんて、私指で数える成績って初めてだよ」
悔しいことに本当に凄いので私は褒めることしかできない。
だって、滝夜叉丸が私のフォローをしたから、最短のルートで進めた。
私の成績の史上最高位な3位だ。
私は、滝夜叉丸は自分の手柄だと言うと思った。
それは真実だったから。
でも、滝夜叉丸の言葉は違った。
「それがお前の努力した結果だろう。
よくこの私についてきた。
私が素晴らしいのもあるが、
その私についてこれるものなぞあまりいないのだぞ。誇れ。
そして、次は一番だ。もっと上を狙うぞ」
そう笑う滝夜叉丸は、たしかに同じ年の少年だった。
休日だけど関係ない。
文ちゃん先輩と鍛錬して、いっさ先輩のところで、
薬のゴリゴリすりつぶすお仕事がある。
昼食をとれば少し眠くなったから、私は木に背をよりかかっていれば、
濃い眉毛が来た。
「何濁った目をしている。行くぞ」
行くぞと言われて立ち上がらされた。
「えー、なにこれぇ」
滝夜叉丸の私服のセンス(バラ柄)を疑いながら、
うとうとしてきた至福な時を盗られた私が抵抗すれば、
滝夜叉丸は呆れた顔をしている。
「だらしなく口を開くな。下級生か。そんなだらけていてどうする」
「今は休憩中なんです」
「褒美だと行っただろう?美味しいと評判の銀狐屋のあんみつを奢ってやる」
私はすぐに私服に着替えた。
「いやー滝夜叉丸ってば太っ腹。
あそこの高くてなかなか手が出せなかったんだよね」
やっぱり女の子には甘味は別腹って言うか、
気分いいって言うか、あーつまり最高です。
横を見れば、いつものキツさが抜けた滝夜叉丸が横を歩いている。
空はまだオレンジ色が見えないで青い。今なら、言えそうだ。
「滝夜叉丸。あの時はありがとうね」
「なんのことだ?」
「番号だよ。滝夜叉丸の番号6番だったでしょう。見えたんだ」
途中、実習の途中に開いた地図に
滝夜叉丸の引いたくじの番号が挟まってた。
滝夜叉丸のは9の下に一本線が引いてあった。
あの時本当は三木ヱ門が9番だった。
きっと綾部くんあたりがすり替えたんだろう。
綾部くんと滝夜叉丸はい組でも優秀だから出来た。
でもそのおかげで、私は酷く哀れな自分の姿を三木ヱ門にさらさずにすんだ。
ありがとうと言う私に滝夜叉丸は歩みをとめてこちらを見た。
酷く真剣な顔に、滝夜叉丸は本当に綺麗な顔の作りをしていることを知る。
喋らなかったら相当モテただろうに。
「お前は三木ヱ門はどうなったんだ」
滝夜叉丸は任務に行ってないから知らない。
でも、おかしいというの分かっているみたいだ。
私は苦しいのを飲み込んで滝夜叉丸より前に進む。
「私も知りたいよ。まだ名前ばっかりの恋人かな?
そこら辺も曖昧だよ。
分かっているのは、両思いではないってこと」
「お前は諦めようとしているのか?」
「・・・・・・周りが言うんだ。もう頑張ったからいいって、
そんな傷つかなくてもいいって、おかしいでしょう。
私まだ全然頑張ってないのに、まだ出来ること一杯あるのに、
そんな事言うなんて。でもね、この頃、三木ヱ門を前にすると、
何も出来なくなちゃって、駄目だなぁって、呆れたでしょう」
「呆れたよ。」
言われてぐっと黙る。意外とこたえるなと思いながら、
私は苦笑で覆い隠そうとした。
「今のお前ではない。根本からお前は逃げている。
。なぜお前は三木ヱ門が変になったとき一緒にいなかった?
あの時お前が傍にいて、自分のだというだけで今のようにはならなかった。
こう結末がお前のせいでないとどうしていえる?」
・・・・・あははは。
あー言われた。言われちゃった。歯に力が入る。
いつか誰かに言われるだろうと思っていた。
言われることは不安なのに、言われたくてしょがなかった。
私は、気だるく、滝夜叉丸を恨みながら私の弱さに立ち向かった。
「・・・・・誰も言わなかったのに、はっきり言うな。
さすが滝夜叉丸。滝夜叉丸が思っているのが正解だよ。
そうだよ。私は比較されることが恐ろしかった。
横にいる子と私を比較して失望されることが。
たいしたことないなって言われるのが怖かった。
私を否定されることが怖かった。
・・・・・・私はっ、私を守るために、
完璧になってなんて夢みたいな言葉を使って、逃げたんだ。二人から」
私は足を止めた。
それから、滝夜叉丸の方向へ振り向く。
「滝夜叉丸、教えてよ。
どうすれば、完璧になれるの?
どうすれば、釣り合いとれるの?
どうすれば、逃げずに面と向かって立ち向かえるの?
どうすれば、私は三木ヱ門が好きだって三木ヱ門に言えるの?」
私は惨めにも泣いている。
綺麗でもなんでもない顔で、
ぐしゃぐちゃに涙も鼻水も出して、嗚咽だけ出さずに泣いている。
逃げたくせに縋りつく私に呆れていなくなれと思ったが、
滝夜叉丸はその場から一歩も動かずに淡々と表情を変えずに言った。
「おまえは三木ヱ門に愛されていた」
そんな言葉、嘘。
「そうかな?そうは思えなかったよ。
最初だって私がしぶとく三木ヱ門が好きで迫ったの。
知っているでしょう?
そして、今の結末!!好きだったのは、やっぱり私だけだった。
いつでも、三木ヱ門は選択できる立場だった。
素敵だから。アイドルだから。でも、私には一つの選択しかなかった」
「そうか?私はそうは思わない。お前も選択出来る。
三木ヱ門よりも数倍いい選択をな。
お前は愛されている。友情だけでなくお前が三木ヱ門に
抱いていたような感情を他の誰かから向けられている。
分からないか?」
滝夜叉丸の問いに、ふと誰かの優しい目とか
誰かの薬の臭いとか香ったけど、
そんなわけないと頭の隅っこのほうに押し入れる。
「三木ヱ門みたいなことを言うね。
私なんて呼ばてるか知ってる?最良にて最悪なくのたまだよ。
なんの魅力もない。そんな私を好きな人なんているはずない」
「そんなことはない」
やけにくいつく滝夜叉丸にいらだちが募る。
「いないよ」
「いいや、いる」
「証拠は?」
「ここに」
「え?」
滝夜叉丸の言っている意味が分からなくて聞き返せば、
一歩前に滝夜叉丸が出て、自分の胸をトンと叩いた。
「ここにいる。私は、お前が好きだ」
「・・・・・・・え」
滝夜叉丸の睨みつけるような顔に、耳が少し赤くて
滝夜叉丸の言っていることが嘘でないことが分かった。
いいや、元から滝夜叉丸はこういった類の冗談はいわない。
真面目だ。こうみえても。
真っ白な私に、滝夜叉丸はもっと思考が迷子になることを言う。
「お前が三木ヱ門を好きなら、手伝ってやる」
「え、なんで?私と三木ヱ門の仲を助けるってなんで」
私の質問は、いつもの不敵な滝夜叉丸の笑みで返された。
「簡単だ。私がお前が好きだからだ。
私はお前に笑っていて欲しい。
お前が喜ぶことがそれならば協力しよう。
だが、お前が三木ヱ門でなく私を選ぶというのならちゃんと愛してやる」
「いきなり・・・なにを」
初めての愛の告白に脳みそがオーバーヒート。
顔もあり得ないくらい赤くなってるし、目も回っている。
これ以上はもう駄目だ。
私の脳みそのキャパがもう限界なのを
理解していない滝夜叉丸は言葉を続けた。
「いきなりじゃない。お前を一回諦めた。
仏の顔が三度までというが、
私は仏ではないから二回しか許さない。
聞け。。
私は完璧だからな。いくらお前が駄目でも受け入れれる。
それほどの器をもったこの平滝夜叉丸が、
すべてをかけてお前を愛してやる。
不安など釣り合いなど周りの目を気にすることがないほどの
完璧な愛をおまえにくれてやる」
滝夜叉丸は私が今まで見たこともない妖艶な笑みを浮かべ、
そのくせ、女らしいよりも男らしさを際立たせた。
2011・5・13