「・・・・・・よし」

休日、意気込みをいれて、くのたまの長屋から出た。
ちゃんと化粧もして、髪も斉藤さんにやってもらって、
服もお気に入りを着込んだ。
雹曰く、食べて欲しいってことですね。の出来栄えだ。
私思ったの。
怖いけど、三木ヱ門に話けみようって。
それで、私のどこが悪かったか今日こそ聞こうって、
そう思い勇み足で、忍たまの長屋に来た。
もうそろそろ4年の三木ヱ門の長屋だ。
前は結構行っていたのに、いつから行かなくなったんだろう。
と床を見て思えば、私の足はそこに縫い付けられたように動かなくなっていた。

「あ、あれ?」

おかしいなぁ。進め。とぐっと足に力をいれる。
でも足はうんともすんとも言わない。
ぐっと奥歯を噛み締めた。
私、進まなくちゃ、聞かなくちゃいけない。
その後どうなろうとも話をしなくちゃ。
じゃないと動けなし、前だって見れないよ。
だから、

「・・・・・・進んでよ」

私の声で泣き声みたいな情けない声が聞こえた。
聞き間違えだ。ともう一度声を出す前に

「あ、ちゃん丁度いいところに」

忍服じゃなくて私服でいるいっさ先輩が、後ろから来た。
私は、ばっといっさ先輩のほうを向く。

「いっさ先輩」
「あれ、今日のちゃん可愛いね?どこか行くの?」
「え、えーと」
「今から、保健室の入用品を買いに行くんだけれど、荷物多いから
一人じゃ困ってたんだ。良かったら行かない?」
「わ、私は」
「うん」
「私は」

前だったら、私今から三木ヱ門のところへ行くんです。
と笑えていえていたことが、今は、言葉が喉に詰まって声にならない。
パクパクと口だけしか動かない私を、
いっさ先輩は急かさずに待っていてくれた。
ようやく、行く場所があるんですと言う前に、懐かしい声が聞こえた。

「こら、教科書とるな」
「だって、つまんないんだもん。三木、勉強しないで、
今日、とても温かいから、外行こうよ。外」
「僕は、休日はゆっくりしているほうが好きなんだ。それとも、一緒は嫌?」
「嫌な訳ない!!・・・・・・あーもうまた三木のペースだ。
分かった。三木の髪いじくる」

さっきまで聞こえなかった、二人の笑い声が聞こえた。
いっさ先輩が近づいて、

「行こうか」

そういって私の手を握った。
私はようやく自分が震えていたことに気づいた。
動かなかった足が、簡単に動けた。
買い物中、いっさ先輩が色々な体験談を教えてくれた。
どこそこの戦中の体験談や、ドジして落ちた場所が洞穴で、
山賊のアジトでという、結構ぎりぎりなラインで生きている話を、
不運だからの漢字二文字で片付けれるいっさ先輩の天然さと強さを感じた。
強さは、体だけじゃなく心も強い。
だって、いっさ先輩は、殺されかけても、その人を治そうしてるんだもん。
薬草を真剣に見ていたいっさ先輩は思い出したかのように
こっちに顔を向けた。

「今度、保健委員で薬草を探すんだ。ちゃんもどう?」
「でも、保健委員じゃないし」
「薬草知っとくと便利だよ。怪我した時も治療できるようになるし」
「それって、自分で治せってことですか?」

悲しいなとしょげると、いっさ先輩は慌てて、
手を横にふりながら、弁解した。

「え、そういうのじゃないよ。
むしろ、この機会に、保健委員にいれようとか・・・」

とかとか。といっさ先輩は、目を泳がしている。
・・・なんだ、良かった。
迷惑かけまくってるから、私のこと、うざくなったのかと思った。
なんだ、そうだよね。
保健委員は大切な委員会だから、人手が欲しかったんだ。
良かった。と安心して。笑みがこぼれた。
そんな私をみていっさ先輩も微笑んだ。

「で、どうかなちゃん。ならない?」
「私じゃ足手まといにしかならないですよ?」
「大丈夫。僕も足手まといだから」
「委員長なのに?」

あはははと私はいつの間にか、笑っていた。
下を向いていた顔が、前になって、微笑んでいる。不思議。
あの時、もう、笑えないと思ってたのに。
今、いっさ先輩と一緒に笑ってる。
それはきっと、いっさ先輩のおかげなんだろう。


帰り道、二人の影が伸びた。
荷物は、いっさ先輩だけ持っている。
たくさんは、いっさ先輩の両手だけで大丈夫だったみたい。
持つって言ったら、違うものを渡された。
小さなそれを、大事に持ってたんだけど、
部屋まで送ってくれたいっさ先輩は、それを忘れちゃったみたいだ。
急いで、いっさ先輩を追いかけて、背中に声をかける。

「いっさ先輩。これ、忘れてますよ」
「あ、それ、ちゃんのだよ」
「え」
ちゃんに似合うなぁって思ったんだ。今度つけて見せてね」

呆然と立っていた私は、
いっさ先輩の背中が見えなくなるまで見送って、渡された袋を開けると、

「可愛い髪紐」

赤いちりめんの可愛いのが入っていた。






「・・・これは、一体どういう事だ?」

任務から帰ってみれば、三木ヱ門の横には、天女が居座っていた。
はどうしたんだ?と三木ヱ門に聞けば、
は?と頭をかしげられて、変な顔をされた。
三木ヱ門の顔があまりにもむかついたので、
殴り合いの喧嘩になったが、
が見つからないので、自分で探せば。

、今日の飯は・・・・・・いなり寿司?
もぐり。もぐ、もぐ、ごっくん。
・・・、いなり寿司には、酢をいれるんだ。
そして、具に、魚介類は入らない。
どちらかというと、これはちらしだな。
ああ、料理名は違うが食べれるようになってる。美味しいぞ。
そうだ、美味いうどん屋を見つけたんだが、
今度の休み一緒に行かないか?」
「あれ、なにこれ。ちゃんが作ったの?文次郎だけってずるくない?
僕にも、ってなんで殴るのさ。文次郎ってば、野蛮ー。
あ、そうだ。後輩たちが、ちゃんを気に入ってね。
一緒に遊びませんかって。みんなで遊ぼうよ」

潮江先輩とが微笑ましく、弁当広げているところに
善法寺先輩が割り込んで、そして今、不運なのか分からないけど、
のお弁当の一番やばいところにあたったらしい。
顔が紫色になっていっている。
いなり寿司ぽいもので、あんな反応するとは、
混ぜるだけだろう?一体何を混ぜたんだ?と不思議がる気持ちを
置いて、天才な私・平 滝夜叉丸は、ことを脳内で整理しようとした。
潮江先輩の求愛行動+それを阻止する善法寺先輩
+何も言わない三木ヱ門=不法地帯な取り合い。


「なんなんだこれは」

木の枝の上で呟けば、

「くのたまの仕業だよ」

横に喜八郎がいた。

「喜八郎。いつから傍に」

私の問いを無視し、いつもの無表情な顔で喜八郎が、淡々と語った。

「潮江先輩と善法寺先輩、各々にあの子と仲がいいくのたまがついてね、
あの子を、落とさせようとしてる」
「三木ヱ門が黙ってないだろう」
「・・・・・・変わったんだよ。滝」

くるりと、喜八郎の大きな瞳が私を捕らえた。

「くのたまが、あの子を三木ヱ門に近づけないようにしてることに、
三木ヱ門は気づかないよ」
「なにがあった?」

私の問いに、ぱちりと鳴るんではないかと思うほどの瞬き一つして、
喜八郎は答えた。

「なにも。
あの子は三木ヱ門が好きで、三木ヱ門もあの子が好きだった。
ちょっと歪んじゃっただけ。で?滝は、どうするの?」

喜八郎は、三木ヱ門の話をそこそこに、本題だと、私に詰めよった。

「今日のお前はよく喋るな」
「かえっていの一番に、あの子のこと言うの気づいてる?」

はぐらかすことは許さず、待つことにも飽きたようで、
喜八郎は、私の答え聞かずに、続きを言った。

「私は滝に協力する。タカ丸さんも協力する。
なんなら、仙蔵先輩にもお願いする」
「お前は、戻そうとは思わないのか!!」

声が荒んだ。
私の頭の中には、と三木ヱ門が笑って幸せそうな姿があった。
そう。だから、三木ヱ門と天女さまが一緒にいる姿に苛立ち、
潮江先輩と善法寺先輩と一緒にいるに落胆した。
なぜ、元通りになろうと努力しない。
私はなんのために、諦めなくてはいけなくなったと思っていると、
自分勝手な苛立ちを、喜八郎にぶつけた。
喜八郎は、何も変わらず無表情で、綺麗な顔のままで、
それがかえって私の非を確認させられたような気がして、
その場から離れようとすると、がしっと腕を掴まれた。
体育委員で天才の私だが、同じく天才で毎日穴を掘っている彼は、
見かけと違って筋肉が発達している。
離そうと思って力を込めても、とれる気配がない。

「頑張ってたよ。あの子」

喜八郎は私から目を離し、遠くで騒いでいるを見ていた。

「変な具合だったけど、頑張ってたんだ。私もタカ丸さんも見てた」

そういうと、今度は私を見た。
私の自分勝手な怒りを見透かされた気がした。

「滝、あの子はね、もう頑張って、頑張って、
もうこれ以上出来ないくらい頑張ったから、もう頑張らなくていい。お休み」

あの人に無関心で、気に入りが少ない喜八郎が言うくらいだ。
本当に頑張ったのだろう。
そうだ。は、いつでも頑張っていた。
いつでも一生懸命、怪我しても怪我しても、
立ち向かってて、そんな雑草みたいな彼女が、足を休めている。
その裏にはどれだけの涙があったのか。
2人に囲まれながらも、どこか遠くを見ている顔がちらりと覗くのは・・・
ぎりっと拳を握りしめた。
くそ。もっと殴れば良かったと、自称アイドルの顔を思い出した。
それを見て、喜八郎は、私から腕を離す。

「三木ヱ門はもういらないって、
だったら、本当に欲しがってる人がもらえばいい」

風が吹いて、枝や木の葉が揺れ、私の髪と喜八郎の髪がなびく。

「滝は、ずっとあの子が好きだったでしょう?
だから、あの子、滝のにすればいい」

そういった喜八郎の言葉は、甘く、
それは、とても、とても魅力的で、私は、ごくりと喉を鳴らした。











2011・4・15