調理実習を終えて、三木ヱ門にあげてくると手を振っていった
なかなか帰って来ないので、いそうな場所に、秋穂といけば、
目元が赤く腫れているけれど、笑っているの姿。
その横には、私が想像していた人物はいなくて、
眉間に皺を寄せて、凄い顔がテンプレの潮江先輩が、
顔を緩めて甘い空気を出していた。
思わず、気配を消して隠れる。



の名前を呼ぶ私の声には、安堵が含まれていた。
だって、私は、が傷付くと予想していた。
でも、止めなかったのは、彼女の願いであり、私の憧れるの強さだからだ。
泣いて帰ってきたら、田村をヤる衝動を抑え、慰めようと思っていた。
傷ついて、傷ついて、早くが田村を忘れる日を願う。
それが私に出来る最善だと思っていた。
だけど。

一枚の葉っぱが、目の前を通りすぎて、地面に落ちた。
後ろに隠れていた秋穂が口を開く。

「なー雹、私は賛成だ。
たとえ、あいつが、幻術とかでやられているとしても、私は我慢出来ない。
は、前よりもずっと頑張ってる。止めようと思うほどに頑張ってる。
それなのに、あいつは違う女にデレデレしてさ。
元通りになると信じて努力しているがあまりにも可哀想」
「秋穂。あなた、頑張っている人に何を言うのですか?
可哀想?それは侮辱です。彼女は美しい。輝いているそれが正解です」
「わりぃ」

と、軽い謝罪を口にするけれど、
秋穂は口以上に後悔しているし、
何よりも秋穂だって、が心配だから、怒りはなかった。
が綺麗だと言ったから、毎日欠かさずケアしているうざったい
長い髪が前のほうに来たので、手で後ろへ戻す。

「いえ、今回のことで確信しました。
私は、やっぱり世界で一番が大好きです。
敵わないと思っても努力するは、誰よりも何よりも美しい。
本音は私が幸せにしちゃるなんですけどね。
そこに、潮江先輩も加えてもいい・・・と思いますよ。
彼は初恋でしょうし、あの甘さっぷりから分かるように、ベタぼれです。
顔も悪くない、成績も上だし、敵を見つければ突っ込みますけど、
がいれば、そんなこともしないでしょう。
守ってやるみたいなオーラが全開に見えます。
なにより結構イイトコの出だし、金には困りませんね。
将来、忍者になるらしいから、危険極まりないけれど、
潮江先輩がいないときは、私がを守ればいいんです。隣に住みます」

いつ、調べたの?という顔で引いている秋穂に、
情報は、あればあるだけいいのですよという笑顔で答える。

「てか、の人生にお前を加えるなよ」

あなたも、加わる気満々なくせに、と言う前に、
ちりっと、感じた気配に、顔を向けずに質問する。

「ふふふ、で、あなたはどう思います?」
「文次郎のとこ、僕でもいいと思うんだけど?」
「善法寺先輩」

秋穂が、善法寺先輩の姿を見て、あーという顔をした。
おおかた、泣いているを見つけるまでは良かったものの、
行こうとして走った結果、でっかいタライ(多分作法委員所有)
のものがふって来て、そのまま池に落ちて、ここまで流されたという所かしら。
この人が憎めないのは、タライを持っているところだろう。
きっと、作法委員に返すんだろう。変な人。
妙に抜けていて、人を疑わないところもあるのに、腹黒だなんて。

「出遅れちゃいましたね。不運って可哀想」

嫌味をいってみたけれど、慣れてるみたい。笑って返される。

「君らは、もう止めないってことでいいの?」

立ち聞きしたことを悪ぶることもなく問いかけてきた。
私は優しいので、突っ込まずに、答える。

「私たちは、悲しんでいるにつけこもうとする邪魔な虫は、排除してきました。
それが、彼女の望みだから。
は、田村 三木ヱ門が好きだから。
でも、邪魔しても意味ないじゃないですか。そのたびに突破していたくせに」
「いやね。協力者がいたらうれしいなって思っていただけだよ」

笑顔の応酬に、秋穂の顔色が悪い。
このくらいで、青ざめていたらキリがない。
でも、長引かせるのも、いけない。
そろそろが帰るから、帰ったら、潮江先輩よりも甘甘にする。絶対。

「止めません。ここから選ぶのはです。
善法寺先輩。私、には、絶対、幸せになって欲しいんですよ。
あなたは、それが出来ますか?」
「僕はちゃんを幸せにするよ。必ず」

間髪入れず、真っ直ぐで曇りない眼で言われた。

「それは、がずっと田村三木ヱ門を忘れれなくても?」

私が言わんとしていることが分かったのか、一瞬、目を見開いたけど、
すぐに、前と同じ顔になった。

「当たり前だよ。僕は、ちゃんが僕を好きだから、好きなんじゃない。
田村が好きなちゃんが好きだったから、一回は諦めた。
でも、今は・・・。
忘れれないなら、何年かけてでも、僕に恋させるよ」

・・・・・・善法寺伊作は、しょうがないほどの馬鹿だ。
が今、善法寺先輩に恋する確率は、
善法寺先輩が不運じゃなくなるほどのもので。
は、三木ヱ門を長く愛するだろう。
どうにか、恋人になっても、その可能性が高い。
それを知りながら、この人は恋をさせると言った。
ふっと笑ったのは私ではない。

「なるほどね。あんたなら、は大丈夫そうだ。
雹。私は、こいつを応援しようと思う」
「本当、秋穂は、私の意見に反発するの好きですよね。
私は潮江派です。その腹黒加減が好ましくないです。
ピュアカップルのほうが微笑ましいです」

善法寺先輩の意気込みは嫌いじゃないけど、好きな人の好きなありかたぐらい
自由だと思う。似たようなピュアピュアを見て、癒されたい。
別に、善法寺先輩が、医療系に進んで、
が待つ家に帰ってくる頻度が高く、
私との時間が短いということに、不満というわけではない。
私と秋穂がわいわい言っていると、善法寺先輩は不思議そうな顔をして尋ねた。

「聞きたいことがあるんだけど」

ぴたりと止まって、私と秋穂は、善法寺先輩を見る。

「君らには、あの天女とかいう女をぶっ殺して、
田村を取り返すって方法はないの?」

善法寺先輩の言葉に、笑いそうになった。

「あの子のために人を殺したら、あの子が泣きます。そんなの絶対嫌ですもの」
「なんで田村のためにそんなことしなきゃいけないんだ?
第一、最初っから気に食わなかったっての。あいつ。
一杯一杯なくせに、カッコつけしいで、自分を見せることが出来ないなんて、
のこと、信用してないってことだろう?まぁ、もイイトコ見せたいって
思って、すれ違ったんだろうけど、あいつは、その、まーいいんだよ。
が、あいつは駄目だ。なんかむかつく」

ふんと、頬を赤く染めて言う秋穂に、目がにやける。

「ふふ、秋穂もが大好きですからね。
というわけで、分かりましたでしょうか。
たとえ、私たちがしていることが、彼女の願いと違っていても、
気づかれて怒られても、友達をやめると言われても、
ただの押し付けがましいものであっても、
結果、彼女が幸せであれば、なんでもいいんです」

彼女には、たくさんのものを貰ったんです。
彼女はその気はないと思うけれど、
あの子の天才だと言っている時も、
頑張ると言って立ち向かっていく時も、私にはないものを見せてくれました。
傷ついて、泣いても、止めても、きっとはまた田村の所へ行くでしょう。
馬鹿だ、やめろと思うけど、その姿も全て、愛しいんです。
そう彼女は、いつだって、
最強最高で、完璧に可愛く、素晴らしいんですから。










2011・3・26