「みなさん、今日はお菓子を作ってみましょう。
今回のは特別です。蘭蛮のお菓子だけど、
そんなに難しくないから。全員レシピを見て?」
そうシノ先生に言われた。
ざわざわと騒がしい室内で、目の前に用意された調理道具を
じっと眺める私の背中を誰かが叩く。
後ろを振り返れば、雹と秋穂が立っていた。
「今回のは毒とかしこまないらしいですよ。
誰にあげても構わないって、あ、あのあのですね。
!!その、できたら私の食べていただけますか?」
顔を赤くしている雹に、秋穂が脳天にチョップをくらわす。
「もじもじすんな。キモイ雹。
その、私もその甘いモノとか苦手だからやる」
と、横をみながら頬をかいている秋穂。
秋穂は、私の記憶が正しければ、甘いモノがすきだったんでは?
と言う前に、雹が秋穂の頭に、かかと落としが落とされた。
「キモイ、秋穂」
だが、ゴリラこと秋穂の回復力ははやく、すぐ立ち上がり、
雹を睨みつける。
二人とも睨み合いキモイキモイと言い合っている。
私は頭を傾げた。
「二人とも男にあげないの?」
そういえば、二人は、
いつの間にか取っ組み合いの喧嘩になっていた手を離し、
お互いの顔を見合わせてから、不思議そうな顔をして私を見た。
「「なんで?」」
色気のない二人の答えは、多くの忍たまを嘆かせるだろう。
雹は綺麗だし、ボンキュボンだし、人気高い。
そして、さっぱりとして、ボーイッシュ(私からしてみればゴリラ)
の秋穂もなかなかの人気だ。
まぁ、私の人気は・・・・・・・うん、それはいい。
そう、私はちゃんと真面目にお菓子づくりに取り組む。
と、まだぎゃぁぎゃぁ言い合っている二人を無視して、
お菓子を作り始めた。
火傷に、切り傷、打撲などなど。
訓練で酷くなった手がもっと酷いことになった。
膨れるはずのものは、ずっとそのままで、出来上がってもコゲコゲ。
きっと「まふぃん」とかいう蘭蛮のお菓子は私にあってなかったんだって
思ったけど、周りを見れば綺麗にできているそれに、半泣きになった。
目の前には、黒い炭。
がっくりしている私に、雹が微笑む。
「大丈夫です。私の残りの材料があります。は出来ます」
でも、それじゃぁ、足りないと言う前に、ドンと、倍の材料が机に置かれた。
「しょうがねー。そんなこともあろうかと、ほら、
残った奴からもらってきてやったから、つくるぞ」
そういって秋穂は私の額にデコピンする。
「あなた、乱暴なんですよ。
なにナチュラルに手伝うとか私だってやりますよ。いえ、ヤりたいです」
「黙れお前」
そんな二人に、恥ずかしいから、小さなありがとうを言ったのだけれど、
雹は「いいえ。私がしたくてしているんです」と微笑み、
秋穂は、「最近頑張ってるから、頑張っている奴は嫌いじゃない」と照れた。
そうしてできあがった「まふぃん」は手の中にある。
膨らんでるし、キツネ色だし、どうにかこうにか食べれるだろう。
誰にあげるの?の答えは簡単で、
一番大好きな人にあげることにした。
そういえば、雹と秋穂は驚いた顔をしていた。
そうだろう。私も馬鹿だって思う。
もう、三木ヱ門は私のこと好きじゃない。
忘れられちゃわれてるもの。天女さんが好きだもの。
でも、三木ヱ門の好きが、最初から二割ぐらいしかだとしても、
その二割を私は、全てで愛そうって思うの。
零になって、三木ヱ門があの人で一杯になって、
私は笑顔でバイバイが言えるまで必死であがこうと思うの。
と、いえば、二人は無言で肩を押し出してくれた。
忍たまの長屋に足早に行けば、ちょうどいいタイミングで、
三木ヱ門を見つけた。
三木ヱ門と声をかけるまえに、ピンク色が目に入る。
「田村くーん。これ今日作ったの。食べて」
・・・三木ヱ門モテモテ。
そういえば、私がいたときも、三木ヱ門はモテモテだった。
そうだろう。三木ヱ門ほどいい男はいないという誇らしい気持ちと、
私よりも綺麗な出来なお菓子に嫉妬する。
いや、味より愛だって誰か言ってた。
私は、そのピンクの群れにぶつかりに行こうとすると。
「三木。それ受け取るの?」
天女さんがいた。
「私も焼いたのだけれど・・・」
そんな一杯あったらいらないよねと半泣きの天女さんに
三木ヱ門は近づいて、ひょいとまひぃんをとって、そのまま食べた。
「僕は、冬華のだけでいい」
「でも、あの子のとか、美味しいよ?」
と、くのたまの女の子のを指す。
三木ヱ門は頭を振った。
「いらない。一番はこれだし」
「そう、じゃぁ、あの子のなんて論外だよね」
「え」
天女さんが指さしたのは私のまふぃんだった。
ぱちりと三木ヱ門と、目があった。
ドキドキと心音があがったけど、
三木ヱ門は、すっと私のまふぃんに目を移すと凄い顔をした。
「いらない」
・・・・・・あれは、本気に嫌がっている顔だ。
そう良かったと、三木ヱ門と天女さんが私たちに背を向けた。
「あーあ、やってらんない。ノロケとか。
の時は、大丈夫だったけど、今はもう駄目ね。
料理上手な、美人にメロメロ。田村くんも男ってわけだ。
あーあ、違ういい男探しましょう」
そういって、ピンクの軍団は散っていった。
私を残して。
食べてみたら、どうやら砂糖と塩を間違うという
初歩的な間違いを犯していたらしい。
あげなくてよかったじゃないと、まふぃんを口に運ぶ。
しょっぱい。
じわりと涙がこみ上げてきた。ぐぃっと涙をふいて、
「こんなもの」
と、まふぃんを地面に叩きつけた。
膝に顔を埋めた。
しばらくして、じゃりと誰かが通った気がしたけど、私は顔をあげない。
でも、むしゃりと言う音に、嫌な予感して顔をあげれば、
文ちゃん先輩が、叩きつけたまふぃんを食べていた。
「な、なにしてるの?」
「食べている。なかなかいい味ではないか。どうして捨てる?」
ぺろりと指を舐める文ちゃん先輩に目を見開く。
「い、いいわけないよ。だってそれ塩の塊だよ?
それに、砂とか混じっちゃったよ?なんで、なんで食べるの。
お腹壊しちゃうし、それにそれはゴミだし、いらないんだからぁ」
「。俺が日常食べているのは、鉄粉のおにぎりだ」
鉄粉のおにぎり。
そういえば、前三木ヱ門が手に持っていたカチカチのおにぎり。
凄い睨みながら、先輩の好意だけれど、これは無理だと
頭を垂れていたような気がする。
そうか、あれは、食べれるのか。
「・・・・・・それは、それは」
文ちゃん先輩のお腹は大丈夫そう。
腹をみてみた。
もしかして、あの固い腹筋は鉄で出来ているのかな。
じゃぁ、私も食べてみた方がいいのかな。
と思っていると、文ちゃん先輩は私の頭を撫でた。
きっと慣れていないのだろう。
触りかたがとてもぶきっちょ。でも、それが文ちゃん先輩っぽい。
「だが、これは美味いと思う。頑張ったのだろう?美味しい」
「なんで」
「どうした」
私の頭に置かれた文ちゃん先輩の手をしっかりと握る。
顔を地面に向けて、見られないように、叫ぶ。
「なんで欲しい言葉くれるの?ばか」
先輩に馬鹿とかないよね。と思うけど、
もう止まらなかった。
ぽたぽたとまふぃんがしょっぱかったから出てきた涙を地面にこぼす。
文ちゃん先輩は、何も言わず、私が手を離した後も、
残りのまふぃんを食べながら、美味いと言い続けてくれた。
私は、
「つぎは、・・・ヒック・・・・ぜったいほんとうにおいしいって・・ック・・・いわす。
れんしゅう・・・ずっ・・・する」
「そうか、次も俺にくれるのか?」
「鉄粉おに・・ぎりは・・からだ・・・ヒック・・・にわるいもの。
ちがうの・・・ヒック・・・・たべたほうが・・・いい」
「あれは、鍛えるのだ。胃を」
「・・・・・・・私のもそう?」
「まぁ似たような・・・あ」
一瞬の沈黙に、口を手で押さえて、こちらをそろりと伺う文ちゃん先輩。
すっごく怖い人、礼儀にうるさい人、
忍術学園で一番忍術している人。
ギンギーンなんて色々三木ヱ門が言ってた。
でも、その顔には尊敬と好意が見え隠れしていて、
でも、三木ヱ門の知らない文ちゃん先輩の姿に、
私は嫌いじゃない。むしろ、こっちのほうが好き。
私の沈黙に、凄い青い顔をして、
手をワタワタしている文ちゃん先輩の姿に肩が震える。
「ふくくくく。変なかおー」
「笑ったな」
そういった文ちゃん先輩も笑ってた。
「お前は笑ったほうがいい顔をしている。
それと、美味しいかどうかなんて、受け取り方次第だ」
それってどういうこと?と顔をあげれば、
優しい瞳で私を見ている文ちゃん先輩。
・・・・・・勘違いかもしれない、うぬぼれかも知れない。
もしかして、もしかして、文ちゃん先輩は、
私を好きなのかもしれない。
・・・・・・なんて、痛いなぁ私。
駄目だ。弱ってるから、変なこと考えちゃう。
後輩の彼女で頑張ってるいて、いつも助けてくれたから、
私のダメダメ具合に、同情して、応援してくれているだけ
それだけだよね。
2011・2・7